第50章 オリビアはお祭りの朝に山頂へ上がります
第50章 オリビアはお祭りの朝に山頂へ上がります
「オリビアちゃん、起きる時間だよ」
「……はい」
カメリアさんに起こしてもらって目を開けると、いつもよりずっと早い時間でした。
「今日は山のお祭りだろ。先に荷物を上げるんじゃなかったかい?」
「そうでした」
オリビアは起き上がり、顔を洗って着替えました。
しらかば亭の裏へ回ると、デイジーさん、アカシアさん、デンゼルさん、アルガーさんがもう待っています。昨日のうちにまとめておいてもらった売り台と商品も、すぐ運べるように並べてありました。
「これで全部ですか?」
「全部よ。途中で補充しなくていいように、今日売る分はまとめたわ」
デイジーさんが箱を指しました。
「こっちが商品。こっちが売り台で使うもの」
「じゃあ、入れますね」
オリビアは売り台から順番に収納へ入れました。箱も包みも、そのまま次々に消えていきます。
アルガーさんが空いた場所を見ました。
「今年はこれを背負って上がらなくていいのか」
「途中の補充もないですよ」
「それがいちばんありがたいな」
デンゼルさんも笑いました。
「毎年、売れた分を見ながら下まで取りに戻ってたからな」
「人も飛んで上がりましょう。モノラックはまだ使いません」
「5人で行ける?」
「はい。近くにいてください」
4人がオリビアの周りへ集まります。
「上がりますね」
飛翔魔法をかけると、5人の身体がゆっくり地面を離れました。
「何度やっても変な感じだな」
「私はまだ慣れないわ」
アカシアさんが下を見て、すぐ前を向きました。
「オリビアちゃん、そんなに高くしなくていいからね」
「今日は人を運んでるので、低めに行きます」
山道を歩く人よりずっと速く、5人は山頂へ着きました。
*
「ここでいい?」
「はい。売り台はこの辺です」
オリビアは店を出す場所を確認しながら、収納したものを順番に出していきました。
「商品はこっちね」
「箱、もう1つ」
「はい」
「それと、台の後ろに置くやつ」
「これですか?」
「それそれ」
昨日までは何もなかった広場の端に、しらかば亭の売り台ができていきます。
デンゼルさんとアルガーさんが台を整え、デイジーさんとアカシアさんが商品を並べ始めました。
「オリビアちゃん、ここまでで大丈夫よ」
「もう戻っていいですか?」
「朝ご飯、まだでしょう?」
「まだです」
「だったら食べておいで。こっちは4人でやれるから」
「分かりました。またあとで来ます」
オリビアは山頂から飛び、しらかば亭へ戻りました。
*
「もう帰ってきたのかい」
カメリアさんが朝食を出しながら言いました。
「はい。売り台と商品を出して、4人とも上にいます」
「朝ご飯の前に、もう山を1往復かい」
「飛んだので早かったです」
「今日はこのあとモノラックもあるんだろ?」
「9時から一般の人を乗せます。その前に来賓の方を上へ送ります」
「忙しいねえ。ちゃんと食べていきな」
「はい」
オリビアはいつもの朝食を食べました。早朝から動いたあとだったので、普段よりお腹が空いていました。
食べ終えると、そのまま冒険者ギルドへ向かいます。
*
「おはようございます」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
受付のお姉さんの近くには、来賓の2人とギルドの関係者が集まっていました。どちらの来賓も、最近は山頂まで歩いて上がるのが難しくなって、開会式を麓で行う年が続いていた人たちです。
切符販売と乗り場整理を担当する冒険者たちも来ています。
オリビアはそちらへ頭を下げました。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。切符はこっちで売るよ」
「大人が1/10フローリン、子どもと高齢の方が5/100フローリンですね」
「うん。16人そろったら順番にホームへ入れる。切符を売りすぎないように人数も見るよ」
「お願いします。私は運転します」
別の冒険者が時計を見ました。
「一般は9時から。来賓の方はその前の臨時便だね」
「はい。先に山頂へお送りします」
話している間にも、乗り場の方へ人が集まり始めました。
「これに乗れるんですか?」
「9時からです。今はまだ切符を売ってませんよ」
「どこに並べばいい?」
「こちらです。先に来賓の臨時便を出しますから、一般の方は少し待ってください」
最初は数人だった列が、手順を確認しているうちに少しずつ伸びていきます。
オリビアは列を見ました。
「増えてますね」
「増えてるね」
「まだ9時前ですよね」
「祭りだからなあ」
モノラックは1回16人です。片道に約15分かかるので、30分間隔がいちばん詰めた運行になります。運んでいる間に同じくらいの人数が来れば、待っている人は減りません。
「ニュートン算みたい」
「何それ?」
切符担当の冒険者が聞きました。
「こっちの話です」
「とりあえず、売る枚数はこっちで止めるから安心して」
「お願いします」
山頂へ急ぐだけなら登山道があります。待ちきれない人は歩いて上がれます。モノラックに並んでいるのは、山へ行くためだけでなく、この乗り物に乗ってみたい人たちでした。
*
「では、先に行きます」
来賓の2人とギルド関係者を乗せ、9時前の臨時便を出しました。
「これが昨日、安全確認をした乗り物ですか」
「はい。今日はこのまま山頂まで行きます」
斜面へ入ると、来賓の1人が横の景色を見ました。
「ここから見ると、ずいぶん遠くまで見えるな」
「歩いて上がると、途中で景色を見る余裕がなくなってきましてね」
もう1人が笑います。
「今年は楽をさせてもらいます」
「山頂まで15分くらいです」
「それなら開会式にも余裕で間に合う」
モノラックは山腹を回り、最急勾配を越えて山頂へ入りました。
山頂側の担当冒険者が待っています。
「おはようございます。こちらへどうぞ」
来賓たちが降りると、オリビアはすぐに麓へ戻りました。
「もう列、増えてます?」
戻るなり聞くと、切符担当の冒険者が笑いました。
「増えてるよ」
「やっぱり」
「でも、切符は次の便までの分しか売ってない。急ぐ人には登山道を案内してる」
「それなら大丈夫ですね」
9時になりました。
「一般の1便目、16人です」
「はい。乗ってください」
全員が座り、シートベルトを締めたのを確認します。
「出しますね」
今度は一般客を乗せたモノラックが山頂へ向かいました。
*
山頂へ着くと、広場では開会式の準備が終わっていました。
「オリビアさん、ちょうどよかった」
山頂側の担当冒険者が言いました。
「もう始まりますよ」
「見ていって大丈夫ですか?」
「次の下りまで時間あるでしょう」
「あります」
オリビアも広場の端へ行きました。
来賓の2人が前へ出て、毎年続いてきた山の祭りの開会を告げます。山へ来られたこと、今年も祭りを開けたことを喜び、集まった人たちへ短く言葉をかけました。
拍手が起きます。
少し離れたところには、朝に上げたしらかば亭の売り台も見えました。デイジーさんたちはもう客を迎える準備を終えています。
「始まりましたね」
近くにいたアカシアさんが言いました。
「はい」
「オリビアちゃんも、ちゃんと遊びなさいよ」
「運転の間に遊びます」
「それならいいわ」
次の運行時刻が近づきました。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
オリビアはモノラックへ戻りました。




