第49章 オリビアはモノラックの安全確認をします。 ギルドの方でも安全チェックがあるので立ち会います。
第49章 オリビアはモノラックの安全確認をします
「お待たせしました」
受付のお姉さんが声をかけました。
「ギルド長も行くんですか?」
「ああ。こういう機械物は見ておきたい」
大きな身体で見た目はかなり格闘系ですが、ギルド長は技術系の話が好きです。
オリビアはベラミラ先生も見ました。つばのある帽子にローブ、手にはロッド。初めて会ったころと変わらない、ひと目で魔法使いと分かる格好です。
「先生も?」
「面白そうだから来ました」
「それだけですか?」
「それだけです」
受付のお姉さんは手にした書類を軽く上げました。
「私は担当者ですから」
4人でギルドを出て、馬車と馬の管理施設の横へ向かいました。
*
「これがモノラックか」
現地へ着くと、ギルド長は4両編成の前で足を止めました。
受付のお姉さんもホームへ上がり、車両を端から端まで見ます。
「チャトラさんたちから聞いていたのより、ずいぶん長いですね」
「今朝、人を乗せる車両に替えました。4両で16人乗れます」
「座席にベルトも付いてるんですね」
「はい」
ギルド長はホームから降り、レールの横へしゃがみました。ラックと車両の足回りをのぞき、外れ止めのガードも見ています。
「なるほど」
しばらく見たあと立ち上がりました。
「じゃあ、乗ってみよう」
「その前に、空いている座席へバラストを載せます」
4人が乗るので空席は12席です。オリビアは収納から、きれいにそろった小さな板を何枚も出しました。
ギルド長が1枚を見ます。
「そんな小さいので足りるのか?」
「1枚10kgです。1席に6枚で60kg載せます」
「これが10kg?」
ギルド長が何気なく1枚を持ち上げようとして、腕に力を入れ直しました。
「重っ。何でできてるんだ、これ」
「純金です」
「金!?」
受付のお姉さんとベラミラ先生も、板とオリビアを交互に見ました。
「これ、1枚で10kgなんですか?」
「はい」
受付のお姉さんが両手で1枚持ち上げます。
「本当に重い……」
「私にも持たせてください」
ベラミラ先生も受け取って、すぐに笑いました。
「見た目と合いませんね」
3人が順番に持っている間に、オリビアは12席へ10kgの板を6枚ずつ置きました。1席60kg、合計720kgです。
「これで行きます」
*
4人が座席へ乗り込もうとしたところで、オリビアはベラミラ先生の帽子を見ました。
「先生、その帽子、途中の崖のところは風が強いので飛ばされますよ」
ベラミラ先生はあごの下へ手を伸ばし、細いゴムを指でつまみました。
「これ、ゴム付きなんです」
「あ、本当だ」
4人は座席へ座り、シートベルトを締めました。
「動かしますね」
モノラックが水平部分を出て、山の斜面へ入ります。
「おお」
ギルド長がすぐに声を出しました。
「これは面白いな」
山腹を回ると、さっきまで見えていた町が木々の向こうへ隠れ、今度は別の谷と湖が見えました。
「向こうも見えるんですね」
「また傾きますよ」
ベラミラ先生も受付のお姉さんも、仕事で来たときの顔がだんだん消えていきます。勾配が変わるたび、景色が開くたびに3人とも声を上げ、少しずつ小学生男子に戻っていきました。
崖沿いへ出ると横から強い風が当たり、ベラミラ先生の帽子のつばが持ち上がりました。それでも帽子は飛ばず、あごの下のゴムがきちんと役に立っています。
最急勾配30度へ入ると、12席に合計720kgのバラストを載せている分、速度は少し落ちます。それでもそのまま余裕を持って登っていきました。
ギルド長は景色を見ながら、ときどき連結部やラックの動きにも目を向けています。
「この状態でも普通に登るな」
「朝は、私以外の15席に60kgずつ、合計900kgを載せて試しました。それでもここを登れました」
「もうそこまでやったのか」
「気になったので」
4両は山頂の水平部分へ入り、そのままホームの横で止まりました。
*
4人は車両を降り、まず山頂側のホームを見ました。こちらも4両分に水平レールが延び、その横に単管足場のホームと階段があり、どちらにも柵が付いています。
ギルド長がホームを一通り見て回り、受付のお姉さんも乗り降りする場所を確認しました。
そこから祭りの会場になる芝生広場へ歩き、石造りの展望台も見ます。
「すごくきれいになってますね」
ベラミラ先生が展望台を見上げました。
蜘蛛の巣はなくなり、広場の芝も20cmの高さにそろっています。展望台も広場もとんでもなくきれいになっていますが、古い石に付いていた苔や地衣類はそのまま残っています。
「苔と地衣類は残したんですね」
「はい。前から付いていたものは、そのままにしました」
古びた石造りの姿を残したまま、祭りの会場として使える状態になっています。
「ここなら、また山頂で式ができそうですね」
受付のお姉さんが広場を見渡しました。
一通り確認すると、4人はホームへ戻ります。
「じゃあ、下りますね」
「もう下りるのか」
ギルド長が言ってから笑いました。
「確認に来たんだったな」
帰りも12席に60kgずつ載せたままです。4人は下りのモノラックにも乗り、また景色を見ながら麓まで戻りました。
車両が止まると、オリビアは10kgの金板72枚、合計720kgを収納へ戻しました。
*
ギルドへ戻ると、受付のお姉さんが書類を机へ広げました。
「今日の安全確認の分、依頼書を後から発行しますね。報酬は1フローリンです」
「はい」
その場で依頼書が作られ、オリビアに1フローリンが支払われました。
「それから、こちらが明日の依頼書です。報酬は10フローリンになります」
「ありがとうございます」
「来賓のお二人の移動と、一般の方の運行をお願いします」
受付のお姉さんは続けました。
「一般利用の方の管理と運賃の受け取りは、ギルドでやった方がよさそうですね。オリビアさんが運転している間は、どちらの乗り場にもいませんから」
「それがいいと思います」
受付のお姉さんは、麓と山頂の2か所へ管理の冒険者を置く案を書き込みました。
「乗り場を管理する冒険者の取り分は、両方を合わせて売上の2割でいいですか?」
「はい」
今度は売上の配分を書いていきます。
「売上全体の1割を保険へ回して、ギルドの経費が1割。残りの6割がオリビアさんの取り分になります」
「それでお願いします」
配分が決まると、受付のお姉さんは運賃の欄へ移りました。
「では、運賃はいくらにしますか?」
オリビアは少し考えました。
「片道で、大人は1/10フローリン。子どもと高齢者は5/100フローリンにしましょう。子どもや高齢の人も使いやすい方がいいです」
受付のお姉さんは2つの料金を書き込みました。
「分かりました。料金の看板と、おつりも準備しておきますね」
「お願いします」
「朝は、オリビアさんがいつも来られる9時からでいいですか?」
「はい」
「ギルドが開くのは6時ですけど、オリビアさんがいないと動かせませんからね」
ギルドが開く6時から数えれば、オリビアは依頼書をはがす競争に毎朝3時間遅れて参加する冒険者です。
「では、9時からお願いします」
「はい。9時からにしておきます」
オリビアは明日の依頼書を受け取りました。
明日は山の祭りです。




