第45章 オリビアは山頂展望台を整備します。 モノラック召喚
第45章 オリビアは山頂展望台を整備します
翌朝、オリビアはいつものように少し遅めの朝ご飯を食べてから、冒険者ギルドへ仕事を探しに行きました。
依頼板には、朝の早い冒険者たちが持っていったあとの紙が残っています。その中に、山頂展望台の仕事がありました。
「芝生広場の芝刈りと、蜘蛛の巣取りか」
依頼書を外して読んでいくと、作業用車両の利用を認めることと、作業時に必要な範囲で地形を改変してよいことも書かれています。
「これにしよう」
受付で依頼を受ける手続きを済ませると、オリビアは町を出ました。
*
山頂の標高は約200mです。小さな山ですが、周囲には木が多く、地面の高さからでは木々に視界を遮られます。
山頂には、高さ約25mの石造りの展望台があります。下が広く、上へ行くほど少し細くなる、普通のプリンのような形です。上には屋根があります。
オリビアは飛行魔法で山頂まで飛び、そのまま展望台の屋根へ降りました。
「まず蜘蛛の巣ね」
軒や壁のあちこちに蜘蛛の巣があります。蜘蛛も残っています。
「生き物だから、捨てるより鱒に食べてもらおう」
オリビアは蜘蛛と蜘蛛の巣だけを対象にして、展望台から外側へ向かう重力を100%より大きくしました。
蜘蛛と巣が石の表面から離れ、展望台の外へ移っていきます。そこから重力の向きを変え、まとめて湖の上まで運びました。
「じゃあ、鱒のお昼ご飯ね」
重力を戻します。
ジャボ、ジャボ、ジャボ。
蜘蛛と巣が水面へ落ちました。上から見ると、波で湖面が一瞬白っぽく見えます。すぐに水面がもっと激しくざわつき、沸いているように動きました。
湖にいる鱒が集まっています。
「これなら無駄にならないね」
しばらくすると、水面はまた静かになりました。
*
次は芝生広場です。
芝生の間には、いろいろな植物が育っています。
「エノコログサ、オオイヌノフグリ、ハルジオン、オナモミ、カラスノエンドウ、ヌスビトハギ。みんな、ちょっと引っ越してもらっていい?」
足元から、ざわざわと意味が返ってきます。
「敷地の外。すぐ下の、土砂崩れで植物がなくなったところに移ってもらいたいの」
山頂から少し下ったところには、最近の土砂崩れで裸地が広がっています。雨が降れば、まだ土が流れやすそうです。
「根は切らないからね。土も一緒に持っていくよ」
オリビアは、エノコログサも、オオイヌノフグリも、ハルジオンも、オナモミも、カラスノエンドウも、ヌスビトハギも、全部、根の周囲の土ごと動かします。
植物と周囲の土へ上向きの重力をかけ、地面へ押しつける重さがほとんどなくなるところまで軽くします。そのまま土ごと浮かせ、山の下の裸地へ移動させました。
「ここなら広がっていいよ」
根の周囲の土を崩さないように置き、次々に植えていきます。移動中にうっかり落ちた種も、そのまま裸地へ落ちています。
上から見ると、茶色かった斜面に緑の水玉がいくつもできました。
「雨で土が流れるのも減るかな」
植物が根を張り、やがて周囲の草がつながれば、表面はもっと強くなります。カラスノエンドウの根には窒素固定菌と共生する根粒もあります。根の周囲の土ごと移したので、それも一緒です。
芝生広場へ戻ります。
「次は芝生」
芝生の上の葉や茎は、踏まれたり刈られたりして傷むことも多い部分です。オリビアは広場全体を、地面から20cmの高さで一気に刈りそろえました。
「こっちも持っていこう」
刈った葉と茎は、さっき植物を移した土砂崩れの場所へ運びます。表面を覆えば雨粒が直接土へ当たるのを減らせますし、うまく栄養生殖できる茎が混じっていれば、そこから増えるかもしれません。
芝刈りをしている間に、土の中からミミズやコオロギも出てきました。
「最後に洗浄」
オリビアは条件を決めます。
「作業を始めた時刻よりあとに付いた無機物。土と砂だけ。生き物と有機物は対象外」
さらに、展望台に以前から付いているものは残します。
「苔と地衣類はそのまま。そこに昔から入り込んでいる土や砂も残す。今日の作業で新しく載った土や砂だけ」
洗浄魔法を使うと、芝生の葉の上に飛んだ新しい土や砂が落ちました。展望台にも、作業中に飛んで載っただけの土や砂があれば落ちます。
苔と地衣類は残っています。そこへ以前から入り込んでいた土や砂も残っています。ミミズもコオロギも、そのまま芝生の上を動いています。
「これで終わり」
*
依頼書には、作業用車両の利用と、作業に必要な範囲での地形改変も認められています。
オリビアは山頂の芝生広場から麓を見ました。
「モノラック、使えるね」
前世で農作業を手伝ったとき、実際に乗って別の場所まで移動したことがあります。召喚できる交通手段の中にも入っています。
「山頂の芝生広場と、麓の馬車と馬の管理施設を結ぶ」
召喚します。
山腹にレールが現れました。
支えは単管パイプです。その上に四角い箱型のレールが載り、下側には波形のラックギヤがあります。
「ちゃんと前に乗ったのと同じ」
車両も、前世で使ったときと同じ組み合わせです。果物を載せるコンテナ用車両と、4人乗りに改造された車両が連結されています。エンジンはOHV4サイクルで、動かしてみても割合静かです。
レールは召喚した時点ですでに敷設されています。通すのに邪魔になる地形には切り通しができ、崖になっていた部分もレールを通せる傾斜地へ変わっています。
山頂と麓の標高差は約200mですが、路線は谷筋をたどりながら山腹を回っています。長さは約1200mになりました。
「30度くらいなら平気。45度も登れるけど、そこまで急だとエンジンオイルも燃料も、コンテナの荷物を固定するのも面倒なんだよね」
急斜面を一直線に下ろすより長くなりましたが、その分、水平に近いところも増えています。乗っている人がずっと車体へしがみつく必要もなさそうです。
「まず下まで行ってみよう」
オリビアは4人乗りの車両へ乗り、エンジンを動かしました。
今回は山頂側から麓へ向かうので、バック運転です。
大きく下る部分では、ほとんどブレーキで速度を抑えながら進めます。けれど、路線は谷筋をたどっているので、山を下る途中にも短い登り坂があります。
「ここは動力がいるね」
バック側へ動力をかけると、ラックギヤがかみ合ったまま、車両は登り返しました。
速度は毎分80mくらいです。
「1200mだから、15分くらいか」
毎分80mほどの速さで、山腹を回り、少し登り返し、また下りながら進んでいきます。
やがて麓の馬車と馬の管理施設へ着きました。
*
オリビアは管理の人のところへ行き、冒険者ギルドの依頼書を見せました。
「山頂展望台の作業です。ここに、作業用車両の利用と、作業時に必要な範囲で地形を変えていいって書いてあります」
管理の人は依頼書と、山腹へ続くレールを見比べました。
そのとき、少し離れたところから声がしました。
「オリビア?」
振り向くと、チャトラ、タマ、ミミがいました。




