第43章 オリビアは授爵と昇爵をして王都を発ちます
第43章 オリビアは授爵と昇爵をして王都を発ちます
ナターリアと話しているところへ、摂政のロッテ、ハイエルフ侯爵のマグヌス、エンシェントエルフ侯爵のユリウスも来ました。
オリビアが戻る前から、王宮では授爵や昇爵の候補が整理されていました。王にしか決められない案件なので、長い間止まったままのものもあります。今はちょうど各地の貴族が王都へ集まっている時期で、今回の対象者は全員、王都に来ています。
オリビアは机の上の書類を広げました。
「明日の式で、授爵と昇爵を行おうと思います。最終的に決める前に、皆さんの意見を聞かせてください」
ロッテは長く国政を見てきました。マグヌスとユリウスは領地を持つ貴族として、長い時間この国と東の大国の双方を見ています。ナターリアも、今まさに人間の領地を治めている辺境伯です。
オリビアは4人から順に話を聞きました。寿命の長さは、領地を治めるうえで積み重ねた経験の価値を決める基準にはなりません。書類だけでは分かりにくい家の事情や、現在の領地との関係まで確かめながら、1件ずつ決めていきます。
育ての父母の家についても、この機会に扱いを定めました。
ピュアエルフの育ての父母に選ばれた家は公爵家とし、摂政の家と同じ爵位にします。次に現れるピュアエルフが同じ家を育ての父母として選べば、その家は公爵家のままです。別の家が選ばれれば、新しく選ばれた家が公爵家となり、それまでの育ての父母の家は侯爵家になります。その侯爵家は、さらに次のピュアエルフが現れるまで、育ての父母を担った家として維持されます。
現在の育ての父母であるグスタフとヘッダの家は、この決定で公爵家になります。
リンネ家は伯爵家とすることになりました。大リンネと小リンネは、それぞれ植物と魔法の仕事を長く支えてきました。ほかの候補についても4人の話を聞き、記録を確認し、オリビアが最終的な決定を入れていきます。
式を行うのは翌朝の日の出です。
夜が明け、ユグドラシルをはじめ国中の植物が光を受けて光合成を始める時間に合わせます。王宮では、オリビアが帰還する前から進められていた準備を、その時刻に合わせて仕上げることになりました。
「これで全部ですね」
オリビアが最後の書類をロッテへ渡しました。
「はい。明朝、予定どおり行えます」
「では、お願いします」
*
翌朝、王宮の大広間には日の出前から人が集まっていました。
授爵と昇爵を受ける本人たちも全員そろっています。空が白み、東から最初の日差しが入り始めたところで式が始まりました。
ロッテが前へ出ます。
名前、現在の身分、新しく定められる爵位、家の扱い、王命として記録へ残す内容を、対象者ごとに読み上げていきました。
オリビアは手を動かさず、1人目、2人目と続く読み上げを聞き、最後の対象者まで待ちました。
ロッテが最後の文書を読み終え、一礼して下がりました。
そこでオリビアが手を上げました。
ユグドラシルにつながる地脈から魔力を引き上げます。これはオリビア自身の中に蓄えている魔力とは別に、その場で使える流れです。
爵位は、本人に結びついた身分情報として記録されています。その情報を書き換えるには、対象者自身が持つ魔力量をわずかに上回る魔力を通し、古い身分情報へ新しい爵位の情報を書き込んで上書きする必要があります。
オリビアは対象者それぞれに必要な量を地脈から取り出し、全員へ同時に流しました。
大広間の床近くに、細かな金色の光が一斉に現れます。
光は対象者たちの足元から立ち上がり、身体の周囲を幾重にも巡りました。新しい粒が次々に生まれ、帯になって広間を流れ、天井近くまで舞い上がります。朝日を受けた無数の光が空中で重なり、広い室内そのものがきらめいて見えました。
オリビアは全員の情報が新しい状態へ変わるまで魔力を保ちました。
最後の書き換えが終わると、金色の光はすぐには消えず、しばらく広間を漂ってから、朝の光へ溶けるように薄くなっていきます。
光の中にいた人たちの様子も変わっていました。
ユグドラシルが再び活動を始めてから、エルフたちの身体は長い停滞から回復し始めています。そこへ王の魔力を直接受けた人たちは、顔色がはっきりよくなり、身体に残っていた重さやこわばりまで抜けたように見えました。自分の手を開いたり閉じたりし、驚いた顔で隣の人を見る者もいます。
「お戻りになってくださって、本当によかった」
そんな声が大広間のあちこちから聞こえました。
オリビアは光が落ち着くのを待ってから、前へ出ました。
「これからも、ときどき国を離れて、しばらく姿が見えなくなることはあると思います。でも、1日で帰ってこられるところにいます」
大広間が静かになります。
「歴史上のピュアエルフのように、何者にも関心を示さないようにはなりたくありません。ですから、私はもうしばらく世界を見て、いろいろ勉強してきます」
オリビアは集まった人たちを見渡しました。
「必要なときは呼んでください。ユグドラシルも元気になりましたから、この国のことも安心です。私とユグドラシルの魂の接続も切れません」
挨拶はそれだけでした。
*
式が終わると、オリビアは集まった人たちへ挨拶をして回りました。
日の出と一緒に始めた式なので、まだ朝は早い時間です。ナターリアを辺境伯領へ帰す必要があります。マグヌスとユリウスも、まずは一緒に辺境伯領へ戻り、そこからそれぞれの領地へ向かいます。
オリビアは式典用の服から、移動しやすい服へ着替えました。
4人で王都から少し離れた丘へ向かいます。大きなローターを安全に回せるよう、王宮や人の多い場所から距離を取ります。
丘の上で、オリビアはA-109Eを召喚しました。
以前、付き添いで一度乗ったことがある機体です。
通常の航続距離は900kmほどで、辺境伯領までは約1200kmあります。約300km分の不足は、魔法で飛行に必要な負担を減らして補います。往路のUH-60では、重力を軽くして飛んだ結果、1200km飛んだあとも燃料が半分以上残っていました。今回は、より小さなA-109Eを同じ考え方で飛ばします。
オリビアは機体の周囲を歩き、脚まわり、ローター、外から見える機構、機体表面、燃料を順に確認しました。召喚した機体でも、飛ぶ前の点検はいつもどおりです。
確認を終えると、ナターリア、マグヌス、ユリウスが乗り込み、オリビアも操縦席へ入りました。
見送りに来ていた父と母、それにロッテへ、オリビアは機内から手を振ります。
「またすぐ来ますねー」
父と母が手を振り返し、ロッテも笑って頭を下げました。
これからローターを回すので、3人には十分に距離を取ってもらいます。
オリビアはエンジンを始動し、ローターの回転を上げながら計器と警報表示を確認しました。
同時に、機体と乗っている4人へ働く有効重力を2分の1にします。方向も真下から少し前へ傾けました。ローターが支える荷重が小さくなり、前向きの成分は巡航中の推進も少し助けます。
座席へ押しつけられる力も小さくなるので、長時間座っていてもお尻が痛くなりにくくなります。
周囲に人がいないことをもう一度確認してから、オリビアは機体を浮かせました。
A-109Eが丘を離れます。
見送る3人が少しずつ小さくなり、王都の屋根が朝の光の下へ広がりました。
オリビアは機首を東へ向けます。
ナターリアと2人の侯爵を乗せたA-109Eは、辺境伯領へ向かって飛び始めました。




