第42章 オリビアはみんなの名前を確認します。
第42章 オリビアはみんなの名前を確認します
父と母が笑ったところで、オリビアは紅茶のカップを置きました。約200年ぶりに戻ってきてから、王宮や神殿で何人もの人と話しています。それでも、役職で呼んでいる人や、昔の自分との関係をまだ知らない人がかなりいました。
「お父様、お母様。みんなの名前を、もう一度教えてもらってもいいですか。名前と呼び方を間違えたくありません」
「もちろんですよ」
母が答え、父もうなずきました。
「では、私たちからにしましょうか。私はグスタフ・マウリッツ・アルムフェルト・スクウォドフスカです。昔から近い者にはグスタと呼ばれています」
「私はヘートヴィヒ・ウルリカ・デ・ラ・ガルディー・スクウォドフスカ。ヘッダで構いません」
2人は、ピュアエルフの育ての父母に選ばれたとき、それぞれの出身家の名を残したまま、王家のスクウォドフスカを家名の後ろへ加えています。
「グスタとヘッダですね。でも、私はお父様とお母様でいいですよね」
「ええ。それが一番いいです」
母が笑いました。
「それから、ずっと国を支えてくれていた方は?」
「ヘートヴィヒ・エリーザベト・シャルロッテ・フォン・シュレースヴィヒです。身近な者はロッテと呼びます」
今はオリビアが正式に任じた摂政です。オリビアが国を離れていた約200年間は、王の代理として国を支えていました。
「ロッテさんですね。では、一緒にこちらまで来てくれたハイエルフの侯爵は?」
「ゲオルク・マグヌス・スプレングポルテン。マグヌスです」
「エンシェントエルフの侯爵は?」
母が少し笑いました。
「カール・ユリウス・デ・ラ・ガルディ。ユリウスと呼ばれています。私の父ですよ」
「お母様のお父様だったんですね」
「ええ。あなたから見れば、お祖父様です」
オリビアは、辺境伯の城から一緒に来たユリウスの顔を思い浮かべました。長命なエルフは外見から世代を判断できません。何日も一緒にいた相手が養母側の祖父だったことを、今になって知りました。
「では、神官の中で一番偉い方は?」
「マグダレーナ・クリスティーナ・ステンボック。マグダです。私の母です」
「お祖母様にも、もう会っていたんですね」
母の父はエンシェントエルフ侯爵として、母の母は神官の最高位として、どちらも今も普通に仕事をしています。
今度は父が続けました。
「あなたのそばにいた侍女のマリアは、マリア・マグダレーナ・カタリーナ・アウグスタ・アルムフェルト。私の妹です」
「マリアちゃん、ですね」
「そうです。昔からみんな、そう呼んでいます。あなたは宮中ではマリア様でしたから、呼び分けにも困りませんでした」
人間の国でオリビアと名乗っている本人は、マリア・サロメア・スクウォドフスカでもあります。エルフ国では、マリア様とマリアちゃんで普通に区別されていました。
「外務大臣はモーリス・レクレア。モーリです」
父は続けて言いました。
「モーリは、マリアちゃんの異母弟です」
オリビアはすぐに、どちらかの親が伴侶を亡くしたあとで再婚したのだろうと考えました。何百年も生きるエルフでも、事故や病気で命を落とすことはあります。残された伴侶が200年、300年たってから再婚し、そこからまた子どもが生まれることもあります。
母が説明を続けました。
「こちらでは、異母や異父のきょうだいはよくあります。前の結婚で生まれた子が何百歳になっていて、そのあとに生まれた子と同じ時代に暮らしていることもあります」
「それなら、何世代も一緒に現役でいるんですね」
「そういうことです。親と子だけでなく、孫やその先まで、同じ役所で働いたり同じ会議へ出たりします」
父の妹であるマリアちゃんは今も侍女として働き、その異母弟のモーリは外務大臣です。母の両親も、侯爵と神官として現役です。オリビアが約200年間、人間や獣人の社会で暮らしてきた感覚とは、家族の時間の重なり方がかなり違います。
「見た目だけでは、本当に分からないですね」
「ええ。名前と家系を知らなければ、親子なのか、叔父と姪なのか、何世代離れているのかも分かりません」
オリビアは教えてもらった名前を紙へ書き留めました。
「あと、魔法大臣と植物大臣も同じお名前でしたよね」
「2人ともカール・フォン・リンネです」
母が答えました。
「父の方を大リンネ、息子の方を小リンネと呼んでいます。大リンネが植物大臣、小リンネが魔法大臣です」
「私がいなかった間は、小リンネさんが植物大臣も兼ねていたんですよね」
「ええ。聖域の魔道具が止まり、国全体の魔力も不足していましたから、親子で植物関係の仕事を支えていました。今日からは、大リンネが植物大臣、小リンネが魔法大臣に戻れます」
「長かったですね」
「本当に」
名前を聞いていくうちに、オリビアは自分がすでにずいぶん多くの親族と会っていたことに気づきました。ユリウスは祖父、マグダは祖母、マリアちゃんは養父側の叔母です。役職だけで見ていた人たちが、一気に家族の中へつながっていきます。
「名前だけじゃなくて、家族関係も一緒に覚えた方がよさそうですね」
「その方がいいでしょうね」
父が笑いました。
オリビアは最後にもう一度、書き留めた名前と呼び方を上から確認しました。
*
父と母との時間を終えると、オリビアは王宮の自分の部屋へ戻りました。
机の上には、王にしか処理できない爵位関係の書類が待っています。オリビアが戻る前から王宮で整理されていたものに、帰還後に確認した内容も加わっていました。
何枚か読み進めたところで、部屋を訪ねてきた人がいました。
ナターリア・パヴロヴナ・パーリィ辺境伯です。
「辺境伯殿。王都はいかがでしたか?」
「ずいぶんたくさん案内していただきました。見て回るところが多くて、思っていた以上に時間がかかりましたよ」
「たくさん見られたならよかったです」
オリビアが父と母と話している間、ナターリアは王都のあちこちを案内してもらっていたようです。
「どうぞ、座ってください」
「ありがとうございます」
ナターリアが席につくと、オリビアは机の上の書類を少し寄せました。
41章とセットの部分ですが、役割が違うので分けています。名前は覚えなくても問題ありません。オリビアとチャトラたちとベラミラ先生がわかればOKです。なるべく役職(ハイエルフ侯爵、摂政さん、辺境伯さん、ギルドの受付さんなど)でお話は進みます。挨拶で名前をかたらないのもおかしいので設定しています。




