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第39章 エルフの国へ帰ります。    いよいよ大型ヘリコプター召喚


第39章 エルフの国へ帰ります


 辺境伯の娘の治療が終わり、少し時間を置いてから、オリビアたちは先ほどの部屋へ戻りました。


 オリビアと辺境伯、エンシェントエルフの侯爵、ハイエルフの侯爵の4人です。


 テーブルにつくと、オリビアは持っていた鞄から帝国書院の地図帳を取り出しました。


「少し確認したいことがあるのですが」


「何でしょう」


 ハイエルフの侯爵が答えます。


 オリビアは地図帳を開きました。


 帝国書院の地図帳ですが、中身は神様によってこの世界に合わせて加除されています。


「私たちが今いるのは、この辺りですか?」


 地図の一点を指します。


 辺境伯がのぞき込みました。


「はい。この辺りです」


「それで、エルフの国は……ここですか?」


 オリビアは、そこからかなり離れた場所を指しました。


 2人の侯爵が同時に地図を見ました。


 しばらく、どちらも何も言いません。


「違いますか?」


 先に口を開いたのは、ハイエルフの侯爵でした。


「いえ。場所は合っております」


「では、ここなのですね」


「……なぜ、この地図に載っているのですか」


「私の地図を、神様が加除したものです」


 オリビアは、それだけ答えました。


 エンシェントエルフの侯爵も地図を見ています。


「なるほど。それで、我々の森まで正確に載っているのですな」


「たぶん、そうだと思います」


 辺境伯はまだ地図を見ています。


「普通の地図には載らないのですか?」


「載りません」


 ハイエルフの侯爵が答えました。


「国のある森そのものが隠されています。外から場所を探そうとしても、正しい位置を知ることはできません」


「森があること自体も分かりにくいのですか?」


 オリビアが聞きます。


「少なくとも、地図へ正確な場所を書き込めるような形では分かりません」


「この地図には普通に載っていますね」


「ええ。そこまで正確に」


 オリビアは縮尺を見ました。


「ここから……1200kmくらいありますね」


「そのくらいです」


「遠いですね」


 地図の上では指一本より少し長いくらいでも、実際には1200kmあります。


 オリビアは2人の侯爵を見ました。


「そういえば、侯爵殿お2人は、どのようにしてこちらまで来られたのですか?」


 エンシェントエルフの侯爵が少し笑いました。


「私たちは今、東の国に領地を持つ貴族です」


「あ、そうなのですね」


「私は180年ほど前に、時間をかけてこちらの国へ参りました」


「180年前ですか?」


「ええ」


 エンシェントエルフの侯爵は、隣を見ました。


「彼は20年ほど前ですな」


 ハイエルフの侯爵がうなずきます。


「はい。私がこちらへ来たのは、そのころです」


「では、お2人とも昔にエルフの国を出て、今は東の国の侯爵なのですね」


「そのとおりです」


「1200kmを移動されたのですか?」


「昔は、ずいぶん時間がかかりましたよ」


「移動は大変だったのでしょうか?」


 エンシェントエルフの侯爵は、少し考えるようにしてから答えました。


「時間はいくらでもありますから」


「なるほど。長い時間をかけて移動されたのですね」


 オリビアは納得しました。


 辺境伯が小さく笑いました。


 オリビアは地図へ視線を戻します。


「では、お2人にお願いがあるのですが」


「何でしょう」


「私が一時的にエルフの国へ戻るとしたら、案内をお願いできますか?」


 今度は2人ともすぐに答えました。


「もちろんです」


「私どもがご一緒するのが一番確実でしょうな」


「ありがとうございます」


 オリビアは地図の上の距離をもう一度見ました。


「では、なるべく急いで戻ることにします」


 ハイエルフの侯爵が少し姿勢を正しました。


「よろしいのですか」


「正式に王位を継がないと使えない魔道具がある、と伺いました」


「ございます」


「それから、現在王の代理を務めてくださっている方を、正式に摂政へ任じればよいのですね」


「はい。それをしていただければ、現在の曖昧な状態を整理できます」


「でしたら、早い方がいいですね」


 オリビアはエンシェントエルフの侯爵とハイエルフの侯爵を順番に見ました。


「侯爵殿も、領地の方の調整をしてくださいますか?」


「承知しました」


「すでにこちらへ来るため領地を離れておりますので、その不在を延長する形で手続きをいたしましょう」


「私も同じです」


「お願いします」


 そこでオリビアは窓の方を見ました。


「あ。エルフの国には、先に私から伝えられます」


「どのように?」


「植物に頼みます」


 オリビアは席を立って窓辺へ行きました。


 窓の外には、城の庭の木々が見えます。


「ねえ」


 近くの枝の葉が、少し揺れました。


「聞いてる?」


「聞いてる」


「お願いがあるんだけど、エルフの国にある、私が生まれた神殿の横の聖木まで伝えてくれる?」


「伝える」


「私、なるべく早く戻るよって言って」


「帰る?」


「うん。一度帰る。早急に戻るから、待っててって」


「分かった」


「お願いね」


「伝える」


 庭の木の葉が揺れました。


 少し離れた木も揺れます。


 その先は見えませんが、伝言は植物から植物へ渡っていきます。


 約1200km先にある、オリビアが約220年前に現れた聖木まで。


 オリビアが席へ戻ると、辺境伯が聞きました。


「もう伝わっていくのですか?」


「はい。植物たちは速いですよ」


 エンシェントエルフの侯爵が笑いました。


「私どもが1200kmを旅していたころとは、ずいぶん違いますな」


「私は、そこまで時間はかけませんよ」


「そのようですな」


                *


 翌日から、2人の侯爵は3日かけて自分たちの領地の手続きをしました。


 もともと辺境伯領へ来るために領地を離れているので、帰還予定を延ばし、その途中へエルフの国の王都へ行く用件を割り込ませます。


 領地の家令や代行する者へ連絡し、不在中に本人の判断が必要になった案件をどう扱うかも決めました。


 3日目には、おおむね片づきました。


「これで、しばらく戻らなくても大丈夫です」


 ハイエルフの侯爵が言いました。


「私の方も終わりましたよ」


「ありがとうございます」


 オリビアは、そこで辺境伯を見ました。


「辺境伯殿も、一緒にいらっしゃいますか?」


「私も、ですか?」


「はい。今回のことに、最初からずっと関わっていらっしゃいますよね」


 辺境伯は2人の侯爵を見ました。


 エンシェントエルフの侯爵が答えます。


「人間の方がエルフの国へ来られるのは、ごく稀です」


「やはり、そうなのですね」


「今回は七代目殿も、この一件に深く関わっておられます。ご同行いただくのがよいでしょう」


 ハイエルフの侯爵もうなずきました。


「私も賛成です。こちらで何があったのかを説明する際にも、辺境伯殿にご同行いただければ助かります」


 辺境伯は少し考えてから、オリビアへ向き直りました。


「それでしたら、ご一緒します」


「ありがとうございます」


 これで、エルフの国へ向かうのは4人になりました。


                *


 出発の日。


 辺境伯の城では、かなりの量の荷物が準備されていました。


 衣類、食料、予備の靴、旅の途中で使うもの、到着してから使うもの。


 オリビアは並べられた荷物を見ました。


「ここまでの量は要りませんよ」


「ですが、1200kmあります」


「移動中の食べ物は私が持っています」


「衣類も必要になります」


「それも収納に入れられますから、何日分も手で持たなくて大丈夫です」


 オリビアは1つずつ見ていきました。


「これは置いていきましょう」


「こちらもですか?」


「向こうにもありますよね?」


 ハイエルフの侯爵が答えました。


「あります」


「では、要らないです」


「こちらは?」


「それは持っていきましょう」


 かなり減りました。


 オリビア自身の荷物は、ほとんど収納の中です。


 侯爵2人も収納魔法を使えます。


 辺境伯の荷物も、必要なものだけになりました。


 準備が終わると、オリビアは城から少し離れた広い場所へ4人で移動しました。


「では、少し強力な魔法を使います」


 辺境伯が聞きます。


「移動の魔法ですか?」


「そうです」


 オリビアは交通手段の召喚を開きました。


 選んだのはUH-60です。


 前世で米軍基地の公開へ行ったとき、体験搭乗の抽選に当たって実際に乗ったことがあります。


 呼び出したのは、そのときに乗った米軍仕様の機体に対応するものです。


 今回は4人しか乗りません。


 今回は非武装で十分です。


 1200kmはヘリコプターには長い距離なので、呼び出したのは非武装のフェリー仕様で、増槽を付けた状態でした。


 大きな機体が、何もなかった場所へ現れます。


 3人が黙りました。


「これで行きます」


 オリビアが言いました。


 辺境伯が機体を見上げます。


「これで、ですか?」


「はい」


「これは何なのです?」


「ヘリコプターという空を飛ぶ乗り物です」


「これが飛ぶのですか」


「はい、飛びます」


 3人にとっては、UH-60も増槽も知りません。


 何が標準の形で、何が長距離飛行のために追加されているのかも分かりません。


 ただ、見たことのない大きな金属の乗り物が目の前に現れただけです。


「すぐ乗るのですか?」


「その前に確認します」


 オリビアは機体の周りを歩き始めました。


 召喚した交通手段は、オリビア1人で操縦と操作ができるようになります。


 交通手段の召喚には、呼び出した機体を操作するための知識も含まれています。前世では体験搭乗だけだったUH-60でも、必要な操作と確認が分かります。


 オリビアは通常どおり、飛行前確認を進めます。


 外から機体の状態を確認します。


 脚まわりを見ます。


 ローターと見える範囲の機構を確認します。


 燃料を含め、飛行に必要な状態も確認していきます。


 3人は少し離れた場所で待っていました。


 エンシェントエルフの侯爵が聞きました。


「魔法で出したものでも、そこまで確認されるのですか」


「呼び出したことと、安全に飛べることは別ですから」


「なるほど」


「長い距離ですからね」


 外の確認が終わると、3人を機内へ案内しました。


「ここへ座ってください」


「この帯は?」


「身体を固定するものです。こうやって締めます」


 オリビアが使い方を見せます。


「これも付けてください。飛んでいる間は音が大きいので、これで話します」


 3人がヘッドセットを付けます。


 オリビアは操縦席へ座りました。


 辺境伯が前方を見ながら聞きました。


「オリビア殿がお一人で動かされるのですか?」


「はい。この交通手段なら、1人で全部できます」


「先ほどまで操縦されたことはないとおっしゃっていませんでしたか?」


「はい。前世では乗せてもらっただけです。召喚した交通手段は、動かし方まで分かるようになるのです」


「……そういう魔法なのですか」


「そういう魔法のようです」


 オリビアはチェックを続けました。


 電源系統を確認し、必要なスイッチを順番に操作します。


 計器を確認します。


 燃料も確認します。


 エンジンを始動します。


 それまで止まっていた上の大きなローターが、ゆっくり動き始めました。


 3人が窓の外を見ます。


「上のものが動くのですね」


「はい。まだ外へ出ないでくださいね」


 回転が上がっていきます。


 オリビアは警報表示、計器、操縦系統を順番に確認しました。


「まだ飛ばないのですか?」


「もう少しです」


「ずいぶん確認するのですな」


「飛んでから異常が見つかるより、地上で確認できる方が安心ですから」


「それは確かに」


 最後に低く浮かせ、ホバリング状態でも確認します。


 問題ありません。


「では、行きます」


 UH-60は高度を上げ、エルフの国へ向かいました。


                *


 1200kmは、やはりヘリコプターには遠い距離です。今回は速度より航続距離を優先しています。


 それでも、オリビアはかなりずるをしていました。


 機体の姿勢は魔法で補助しています。


 風で小さく乱されても、魔法側で安定を助けます。


 さらに、機体と乗っている4人へかかる有効重力も減らしています。


 ローターが支えなければならない重さは、本来よりかなり小さくなっています。


 武器もなく、乗員は4人、荷物も少量です。


 これなら、仮にエンジンが1基だけになっても、飛行を続けるための余裕は十分にあります。


 オリビアは前方と計器を確認しながら飛び続けました。


「こんなところで役に立つとは思わなかったなあ」


 小さく言うと、後ろから辺境伯の声が返ってきました。


「何がですか?」


「昔、この機体に乗ったことがあるのです」


「この機体に、ですか?」


「はい。基地を一般の人に見せる日があって、体験搭乗の抽選に当たったのです」


「そのときは、ご自分で動かされたのですか?」


「いえ。乗せてもらっただけです」


 オリビアは少し笑いました。


「くじ運が良かったのです」


 ヘリコプターには、少し複雑な思いもあります。


 前世で矢を受けたとき、山間部で救急車の到着にも搬送にも時間がかかりました。


 悪天候でドクターヘリも飛べませんでした。


 本来なら助かる可能性があった傷で、そのまま亡くなっています。


 必要だったときには来られなかったヘリコプターに、今は自分が乗り、しかも自分で飛ばしています。


「変なの」


「何か?」


「いえ。昔のことです」


 オリビアは前を向き直りました。


 飛翔魔法なら、海上コンテナのような箱へ3人を乗せ、箱ごと運ぶこともできます。今回は、座席と扉を備え、最初から人を運ぶために作られた機体としてUH-60を選びました。


 しばらく飛んだところで、オリビアが後ろへ声をかけました。


「何か召し上がりますか?」


「飛びながらですか?」


「はい。まだまだありますよ」


 オリビアは収納から、ジャムを入れた紅茶のポットを出しました。


 蓋付きのマグも出します。


 紙皿と、まだ温かいピロシキも出しました。


「これ、後ろで回してください」


 一番近いハイエルフの侯爵へ渡します。


「温かいですな」


「収納に入れていましたので、そのままです」


 3人へ紙皿とピロシキを渡します。


 紅茶は蓋付きのマグへ入れます。


「蓋は閉めてくださいね」


「揺れるからですか?」


「そうです。今はかなり安定させていますけど、熱いものをこぼしたくないので」


 オリビアも自分のマグを出しました。


 紅茶を一口飲みます。


 それから、自分のピロシキも食べます。


 辺境伯が少し驚いたように聞きました。


「操縦中に召し上がって大丈夫なのですか?」


「大丈夫ですよ。今は安定していますし、ずっと何も食べない方がつらいです」


「それもそうですね」


 エンシェントエルフの侯爵もピロシキを食べています。


「これは中に肉が入っているのですな」


「はい。熱いので気をつけてください」


「おいしいです」


「ありがとうございます」


 4人は空を移動しながら、ピロシキを食べて紅茶を飲みました。


                *


 さらにしばらく飛びます。


 街道も町も、ずっと下へ流れていきます。


 侯爵たちが昔、長い時間をかけて移動した距離です。


 オリビアが後ろへ声をかけました。


「そろそろお昼にしませんか?」


「先ほどもいただきましたが」


「あれは軽食です」


 オリビアは収納を開きました。


「山の上町を出る日に、しらかば亭でお昼のお弁当を作ってもらったのです」


「まだお持ちだったのですか?」


「はい」


 3人分の弁当セットを出します。


「どうぞ」


 蓋を開けると、水牛の魔物の肉を使ったステーキが入っています。


 肉は筋切りをしてあります。


 作ってもらった日の昼と変わらない温度と状態です。


「これも温かい」


 辺境伯が言いました。


「食べ物は収納へ入れると、自動で時間が止まるのです」


 ハイエルフの侯爵が顔を上げました。


「自動で、ですか?」


「はい。入れたときのままです」


「収納へ時間停止を付けておられるのですね」


「食べ物を入れると、自動で時間停止がかかります」


「容量は減りませんか?」


「分かりません。いっぱいになったことがないので」


 エンシェントエルフの侯爵もこちらを見ました。


「^~=+::^~ ~=^^+_=/~ ::^~=+~^=様の収納は、どのくらい入るのですか?」


「分かりません」


「上限が分からない?」


「はい。今までで一番多く入れたときが、10トンくらいです」


 少し間が空きました。


「10トン?」


「はい」


「それが限界だったのですか?」


「違います。10トンまでしか入れたことがないだけです」


 ハイエルフの侯爵は、自分の弁当を持ったまま黙りました。


「では、あとどれほど入るのです?」


「たぶん、好きなだけ入ると思いますよ」


「……そうですか」


 オリビアは少し気になりました。


「普通は、どのくらいなのですか?」


 辺境伯が先に答えます。


「人間でしたら、小さいものでも10Lほどは必要ですね」


「小さい方にも限界があるのですか?」


「小さな収納空間を安定して作るにも精度が必要なのです」


 ハイエルフの侯爵が続けました。


「人間の方ですと、10Lより小さなものを作るのは難しいようです。大きくても50Lほどでしょう」


「それほど違うのですね」


「エルフなら、収納が上手な者で1m³ほどです」


「ハイエルフでは、どのくらいですか?」


「私どもなら、得意な者で馬車1台分ほどでしょうか」


「それでも大きいですね」


「通常の収納なら、です」


「時間停止を付けると、小さくなるのですか?」


「はい。収納へ時間停止を付けられるのは、エルフの血が8割以上ある者に限られます。それでも、時間停止を維持すると収納できる容量は減ります」


「侯爵殿もできるのですか?」


「できます。ただし、その分だけ狭くなります」


 オリビアは自分の収納について考えました。


「私のは、食べ物を入れたら自動で止まりますけど、狭くなっている感じはしませんね」


「10トンを入れてなお上限が分からないのでしたら、比較は難しいでしょうな」


 エンシェントエルフの侯爵が言いました。


「そうですね」


 オリビアは紅茶を一口飲みました。


「まあ、便利ですからいいですね」


 3人は水牛の魔物の筋切りステーキ弁当を食べながら、しばらく収納魔法の話を続けました。


                *


 やがて、眼下の景色が大きく変わりました。


 広大な森です。


「入った」


 オリビアは地図を確認しました。


 ここから先は、外の人間には位置をつかめないよう隠されているエルフの国です。神様が加除した帝国書院の地図帳には、エルフの国の位置が最初から載っています。


 オリビアは現在位置と地図を見比べ、そのまま王都へ向かいました。


 王宮と神殿のあるところへ、ほぼまっすぐです。


 しばらくすると、森の中に王都が見えてきました。


「着きましたね」


 ハイエルフの侯爵の声が少し変わりました。


「ええ。20年ぶりです」


 エンシェントエルフの侯爵が続けます。


「私は、もっと久しぶりになりますな」


「180年ですか?」


「そのくらいになります」


「私は200年くらいですね」


「はい」


「私が一番長いですね」


 王宮や神殿のすぐ近くへ、そのまま降りることはしませんでした。


 UH-60のローターは大きく、周囲の木や建物、人に近づけるのは危険です。


 オリビアは上空から降りやすい場所を探しました。


「あそこが良さそうですね」


 王都から少し離れた丘の上に、十分な広さがあります。


 高い木も密集していません。


 周囲を一度確認してから、オリビアはUH-60を降ろしました。


 接地しても、すぐには外へ出ません。


「まだ待ってくださいね」


 必要な操作を順番に進め、エンジンを止めます。


 ローターはしばらく回り続けました。


 だんだん回転が遅くなります。


 完全に止まってから、オリビアは後ろへ言いました。


「もう大丈夫です。降りましょう」


 4人が丘の上へ降ります。


 持ってきた荷物も下ろしました。


 量はわずかです。


 ハイエルフの侯爵は、自分とエンシェントエルフの侯爵の荷物を、自分の収納へ片づけました。


「それも入るのですね」


「これくらいなら問題ありません」


「では、お願いします」


 オリビアは最後に機体の前へ回りました。


 約1200kmを一緒に飛んできたUH-60が、静かに丘の上へ止まっています。


 オリビアは鼻先へ手を置きました。


 少しだけなでます。


「ありがとう」


 そして、UH-60を収納へ戻しました。


 さっきまであった大きな機体が消えます。


 丘の上には、4人だけが残りました。


                *


 丘を下り始めると、王都の方から人が来ていました。


 神殿から来た人たちと、王宮から来た人たちです。


 植物たちから、オリビアが早急に戻るという知らせはすでに届いていました。


 そのうえ、王都の上へ見たことのない大きな飛ぶものが現れ、少し離れた丘へ降りています。


 迎えの人たちは、すぐにこちらへ向かってきたようです。


 近づいてくるにつれて、先頭の人たちの表情が変わります。


 オリビアを見ています。


 迎えの人々には、オリビアがピュアエルフだと分かっています。


「^~=+::^~ ~=^^+_=/~ ::^~=+~^=様……」


 神殿の人が、オリビアの本当の名前を呼びました。


 人間にはまともに発音できない名前です。


 ここでは、それが普通に通じます。


「ただいま」


 オリビアが答えました。


 そのとき、王宮の方からもう一人、急いでこちらへ来る人がいました。


 ハイエルフの侯爵が言います。


「現在、王の代理を務めている方です」


「あの方ですか?」


「はい」


 オリビアは、その人を見ました。


 自分が王位を継ぐ前に国を出て、それから約200年。


 その間、自分の代わりに国を支えてきた人です。


 王の代理は、オリビアの前まで来ると足を止めました。


「^~=+::^~ ~=^^+_=/~ ::^~=+~^=様」


 何か続けようとしました。


 オリビアの方が先に近づきました。


 両腕を回して、そのまま抱きしめます。


「長い間、ありがとうございました」


 王の代理の身体が、一瞬止まりました。


「私がいない間、ずっと王の代理を務めてくださっていたのですね」


「……はい」


 オリビアは少しだけ腕を緩めました。


「本当に、ありがとうございます」


「お戻りくださっただけで……」


「はい。戻ってきました。一度きちんと王位を継いで、動かさなければならないものを動かして、それからあなたを正式に摂政にするつもりです」


 王の代理は、すぐには答えませんでした。


「それでよろしいですか?」


「もちろんです」


「ありがとうございます」


 オリビアはまだ近い距離にいる王の代理へ手を添えました。


「それから、これも」


「何を――」


 オリビアは自分の魔力を送り始めました。


 王の代理が目を見開きます。


「^~=+::^~ ~=^^+_=/~ ::^~=+~^=様?」


「長い間ありがとうございました、の分です」


「そのようなことをなさらなくても」


「私、たくさんありますから大丈夫です」


 オリビアはそのまま魔力を送ります。


 どのくらい渡せば十分なのかは分かりません。


 ただ、自分の中の魔力が減って困るような感じはありません。


「これくらいでしょうか」


 そこで止めました。


 王の代理は、しばらくオリビアを見ています。


「本当に、お戻りになったのですね」


「はい」


 オリビアは笑いました。


「約200年ぶりに、帰ってきました」


 後ろで、エンシェントエルフの侯爵が小さく息をつきました。


「王都へお戻りになって最初のご挨拶が、それですか」


「事実としては、間違っていませんよね?」


「事実だけを並べれば、そのとおりですな」


 ハイエルフの侯爵が笑いました。


 辺境伯も笑っています。


 神殿と王宮から迎えに来た人たちは、どう反応してよいのか少し困っているようでした。


 オリビアは王都の方を見ました。


 約200年ぶりです。


「では、行きましょうか」


 王の代理がうなずきました。


「はい。お帰りなさいませ、^~=+::^~ ~=^^+_=/~ ::^~=+~^=様」


「ただいま」





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