第37章 ピュアエルフについて話を聞きます。 エルフ国の状況もわかってきますし。
第37章 ピュアエルフについて話を聞きます
辺境伯の案内で部屋へ入ると、オリビアと辺境伯、それにエンシェントエルフの侯爵とハイエルフの侯爵の4人で席につきました。
城へ着いた途端に、200年前の本名で呼ばれ、王位の話まで出ています。オリビアとしては、ずいぶん急に話が大きくなりました。
「七代目殿、この部屋をしばらくお借りしますよ」
エンシェントエルフの侯爵が辺境伯へ言いました。
「もちろんです」
オリビアは少し気になりました。
「七代目、ですか?」
辺境伯が笑います。
「この方は、私の家をずっと昔からご存じなのです」
「初代のころからですか?」
「その少しあとからですな」
エンシェントエルフの侯爵が答えました。
「それで七代目なのですね」
「私にとっては、その呼び方が一番分かりやすいのです」
隣のハイエルフの侯爵は、普通に辺境伯殿と呼んでいます。
どちらもエルフの高位貴族ですが、人間の国や東の大国とこれほど長く付き合っているエルフ自体が珍しいそうです。
しばらくして、エンシェントエルフの侯爵がオリビアへ向き直りました。
「^~=+::^~ ~=^^+_=/~ ::^~=+~^=様。ご自身がどのようにお生まれになったのかは、ご存じでしょうか」
「原理は、だいたい分かっています」
「では、少し昔から伝わっている話をいたしましょう」
エンシェントエルフの侯爵は、ゆっくり話し始めました。
「ピュアエルフは、エルフの夫婦から生まれません。ハイエルフ同士であっても、ピュアエルフの子が生まれた例は一度もありません」
「はい。それは知っています」
「そして、ピュアエルフはこの世にお一人だけです。お一人がおられる間に、次の方がお生まれになったという記録もありません」
オリビアはうなずきました。
「新しいピュアエルフが現れるのは、前の方がおられなくなってから500年ほどのこともあれば、2000年近く空いたこともあります。現れる場所だけは、昔からほとんど変わりません」
「どこですか?」
「エルフの国の神殿、その横にある聖木のそばです」
辺境伯が聞きました。
「そこで赤子が見つかるのですか?」
「はい。聖木のそばには、ピュアエルフの子だけがおられます。生物としての父母が一緒に現れた記録はありません」
「では、生物としての父母はいないのですね」
「そのように考えられています。育ての父母はおります。国の中で選ばれ、家族として育てます。しかし、生物としての父母がいたという記録はありません」
「ああ、そうなるのですね」
オリビアには、その方が納得できました。
以前は、この世界で220歳のエルフとして存在しているのだから、どこかに家族や家系もあるのだろうと思っていました。
自分自身がエルフの夫婦から生まれたのでなければ、育ての父母はいても生物としての父母はいないことになります。
「昔から、神様がピュアエルフをこの国へもたらされるのではないかと言われています」
「神様が?」
辺境伯が聞き返します。
「はい。歴代のピュアエルフ様は、皆様、神様をご存じでした。ただし、神様と何をお話しになったのかを語られた記録はありません」
オリビアは少し考えました。
「そうなのですね」
それ以上は何も言いませんでした。
エンシェントエルフの侯爵も、それ以上は尋ねません。
ハイエルフの侯爵も静かにうなずきました。
「もう一つ、歴史書には共通したことが記されています」
「何でしょう?」
「ピュアエルフ様は、生まれて20年ほどすると国を旅立ってしまうことが多いのです」
「20年ですか?」
「多少前後しますが、そのくらいです。育ての父母はいても実の父母がいないことと関係するのではないか、と考えた者もおります。ただ、真相は分かりません」
「私も20年くらいで国を出たのですか?」
ハイエルフの侯爵が答えました。
「ほぼ、そのころです」
「それから約200年、帰っていないのですね」
「はい」
「失踪野良エルフですね」
エンシェントエルフの侯爵が少しだけ困った顔をしました。
「ご自身でそのように申されますか」
「事実だけ並べると、そうなりませんか?」
「事実だけを並べれば、そうなりますな」
辺境伯が笑いました。
オリビアは、前に生物資料集を読んだときのことを思い出しました。
生物資料集で読んだ遺伝の仕組みから考えても、ハイエルフ同士の交配だけでピュアエルフが突然現れる説明はつきません。
それなら自分はどこから来たのだろうと考えたとき、オリビアはスワンネックフラスコを思い出しました。あの実験なら、原因になるものは外から入ってきます。
聖木のそばに、父母なしで現れる。神様を知っている。そして自分自身も、神様と会ってこの世界へ来ました。
やっぱりスワンネックだった。
*
話は、歴代のピュアエルフのことへ移りました。
「お戻りになったピュアエルフ様は、ほとんどの場合、孤高の存在でした」
エンシェントエルフの侯爵が言います。
「孤高、ですか?」
「様々な魔法を使えますし、魔力が尽きるということもありません。必要なことの大半を、お一人で出来てしまいます」
「便利ですね」
「便利という言葉で済ませてよいかは分かりませんが」
辺境伯が少し笑いました。
「その一方で、短命種へ強い関心を示された記録はほとんどありません。人間や獣人の暮らしへ入り込み、一緒に生活するような方は極めて珍しいのです」
「そうなのですね」
オリビアには、あまり実感がありません。
困っている人がいれば治します。おいしいものがあれば食べます。知らないことがあれば聞きます。それだけです。
ハイエルフの侯爵が言いました。
「ですから、あなたが獣人の方々を治したという報告を聞いたときには、少し不思議に思いました」
「チャトラたちですか?」
「はい。耳や尻尾を元へ戻したと聞いております」
「切れたところが残っていたので、くっつけただけですよ」
「それでも、簡単なことではありません」
オリビアはハイエルフの侯爵を見ました。
「侯爵殿も回復魔法をお使いになるのですか?」
「使えます。ただし、ピュアエルフ様とは魔力量が違います」
「どのくらいまで復元できるのですか?」
「指や耳ほどの欠損なら、復元できるハイエルフはおります。手首から先を復元したという話も伝承にはありますが、本当に成功した例なのかまでは分かりません」
「復元する範囲が大きくなると、魔力が足りなくなるのですか?」
「その通りです」
辺境伯が、そこで少し表情を変えました。
「実は、娘が先日、この侯爵に命を救っていただきました」
「お嬢様ですか?」
「15歳です。脚を怪我しまして」
詳しいところは、治療したハイエルフの侯爵が話しました。
「怪我をしたのは8日前です。傷から赤い腫れが広がり、高い熱も出ました。状態が悪くなりましたので、脚を残すより命を優先して、大腿骨の上の方から切断しました」
「そのあと、侯爵殿が治療されたのですか?」
「切断したところから、毒になるものと小さな生き物を除き、傷口を回復魔法で閉じました。現在は熱も下がり、症状は安定しています」
「脚そのものの復元は難しかったのですか?」
「私の魔力量では、あの大きさを復元することはできません」
辺境伯がオリビアを見ました。
「あなたも、見てくださるのですね」
「もちろんです。診せてください」
オリビアは普通に答えました。
「私、エルフの国にいなかった失踪野良エルフですから、できることはしますよ」
またエンシェントエルフの侯爵が少しだけ眉を動かしました。
オリビアは立ち上がります。
「では、見てみましょうか」
辺境伯も席を立ちました。
「ご案内します」
4人は、症状が安定している娘の部屋へ向かいました。




