↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/101

第33章 盗賊団をギルドへ持ち込みます。小さい街の冒険者ギルドで200人の盗賊とさらわれていた人の処理は大変です。


第33章 盗賊団をギルドへ持ち込みます


 丘の上町へ戻ったころには、もう朝でした。砦を出てから時間もたっているので、外で倒れていた人たちの服や髪に付いていた霜は、町へ着くころにはもう融けています。今は表面に霜ではなく、うっすら夜露が付いていました。


 町の人が店を開け始めています。


 冒険者ギルドも朝の時間になります。


 いつものように、今日の仕事を探す冒険者が来ました。


 入口で止まります。


「……何これ」


「盗賊」


 夜通し働いていた受付のお姉さんが答えます。


「何人?」


「約200人」


「約200?」


「それと、さらわれていた人が62人。取引商人2組。今から仕事を出します」


 掲示板へ紙が増えていきます。


「盗賊関係者の本人確認補助」


「被害者の付き添い」


「証言記録の補助」


「押収品の運搬」


「砦からの追加回収」


「拘束者の見張り」


「臨時裁判の会場整理」


「荷馬車と馬の回収」


 朝来た冒険者が紙を見ます。


「今日は仕事、多いな」


「戦えなくてもできるのあるぞ」


「俺、記録は無理」


「じゃあ荷物運べ」


「それならできる」


「E級でもいい?」


「いいです。危険なところへ行く仕事ではありません」


 受付のお姉さんが次々に割り振ります。


 いつもなら仕事を取れない人が出る日もあります。


 今日は出ません。


「まだ人手足りない?」


「足りません。次の方!」


 その一方で、オリビアは筆と墨を用意しました。


 治安責任者が見ます。


「何するんだ?」


「私の印、みんなには見えないから」


「見えるようにできるのか?」


「墨で書く」


「……墨?」


「洗えば落ちるよ。入れ墨じゃないから」


 オリビアは拘束された1人の前へ座りました。


「動かないでね」


「何をする」


「×」


 筆で額へ大きく×を書きます。


「何だこれは!」


「盗賊」


「ふざけるな!」


「動くと変な形になるよ」


「もうなってるだろ!」


 次の人です。


「×と●」


 額へ2つ書きます。


「次。▲と●」


「俺は盗賊じゃない!」


「だから×じゃないよ。▲」


「三角の方が何なんだ!」


「カポ」


「その呼び方やめろ!」


「でも分かりやすいよ」


 次です。


「▲、★、●」


 額がかなり賑やかになりました。


 羽子板で負けて、顔へ墨を塗られたような見た目です。


「この人は別にして」


「理由は?」


「3人星にしてる」


 後ろにいた被害者が言いました。


「間違いない。そいつだ」


 治安責任者が部下へ言います。


「殺人の証言あり。別室へ」


「はい」


「次、◎」


「俺は商人だ!」


「人を買ったでしょ」


「証拠があるのか!」


 転売待ちだった人が声を上げました。


「俺を買うって値段つけたの、お前だ!」


 別の人も言います。


「俺も顔を覚えてる!」


「じゃあ証言もあるね」


「何で先に分かってた!」


「エルフだから」


「またそれか!」


 朝から何度も同じ会話になります。


 ギルド長が途中でやってきました。


「ずいぶん派手な顔になってるな」


「分かりやすいでしょ」


「まあ、200人もいるからな。書類だけより早い」


 治安責任者も認めます。


「墨の印だけで判決は出さない。だが仕分けには使える。証言と照合する」


「うん。それでいいよ」


「オリビアの印が間違っていたら?」


「草に聞き直す」


「……そうだったな」


 臨時裁判の準備も始まります。


 丘の上町だけで、200人近い拘束者を長期間置いておくことはできません。


 行政官もギルドへ来ました。


「判決はこちらで出します」


 ギルド長が聞きます。


「丘の下町へそのまま送らないのか?」


「収容は丘の下町です。人口はここ約20倍ですし、公安施設も大きい。ただ、事件が起きたのはこちらで、証人もこちらに揃っています」


「裁判だけこっちでやる?」


「はい。事実認定と判決まで済ませてから移送します」


 オリビアが聞きます。


「向こうで変わったりしない?」


「判決済みとして送ります。収容先が勝手に変えることはできません」


 ギルド長が笑いました。


「昔なら、それを信用できなかったんだよな」


 行政官も否定しません。


「旧王国のころの話ですね」


「相手が盗賊なら、俺の権限で200人だろうが全員死罪にして、その場で執行して終わりだった。役人に渡して、賄賂で何人か消える方が面倒だったからな」


「今は、その必要はありません」


「公務員、全部入れ替えたからな」


「併合時に旧王国の公務員は総入れ換えです。現在は東の大国の行政制度で運用しています」


 オリビアが聞きます。


「今、ここも東の大国の中だもんね」


「そうです。丘の下町への移送も、同じ国内の公安施設への移送です」


「じゃあ、向こうの役人も信用していい?」


「信用していただいて構いません。不正に判決を変えたり、金を受け取って逃がしたりすれば、その役人自身が処分対象です」


 ギルド長が肩をすくめました。


「だから、昔みたいに俺が全部処分する必要がなくなった」


「手間は増えますが、その方がいいでしょう」


「200人の裁判は手間だけどな」


「今日は冒険者の方にも補助をお願いしています」


 ちょうど、若い冒険者が書類を抱えて通ります。


「次の証人、どこですか?」


「第2室!」


「はい!」


 別の冒険者は押収品の箱を運んでいます。


「これ、誰の荷?」


「商隊の印があるなら返還候補! 先に記録!」


「分かった!」


 仕事はどんどん進んでいきます。


 盗品の扱いについて、オリビアも聞きました。


「持ち主が分かる物はどうなるの?」


 行政官が答えます。


「手数料を差し引いて、所有者へ返します」


「分からない物は?」


「国庫へ入ります」


「捕まえた人には何もない?」


「あります。回収と捕縛に対する手数料が支払われます。所有者へ戻す物にも、国庫へ入る物にも、それぞれ規定があります」


「被害にあった人の宿代とか、帰るお金は?」


「国庫へ入る盗賊資産の一部を、事件処理の経費として認められます。そこから被害者の宿泊、食事、治療、帰郷支援へ回すかは町の行政で判断します」


「じゃあ、私が配らなくていいんだ」


「オリビアさんが配る必要はありません」


「よかった」


 ギルド長が別の帳簿を持ってきました。


「それで、オリビア。報酬どうする?」


「報酬?」


「盗賊を捕らえた分」


「賞金ついてたの?」


「有名なのには付いてる。大佐や幹部の何人かは個別賞金ありだ」


「普通の人は?」


「賞金が付いてなくても、盗賊と確認できれば1人10フローリン」


「10?」


「そう」


「じゃあ200人くらいなら、2,000フローリンくらい?」


「基礎だけならな。そこへ個別賞金と、盗品回収の手数料が付く」


「生きてる方が高いの?」


「いや。同じだ」


「生きてると働かせて売れるから高い、とかない?」


「ない。捕まえた人間を強制労働に売り出して、その値段を報酬に上乗せする制度なんかない」


「よかった」


「死んでようが生きてようが、普通の盗賊は10フローリン。賞金首は別」


 オリビアは少し考えました。


「10フローリンなら、魔物の方がましだね」


「そのくらいにしてあるんだよ」


「なんで?」


「高くしすぎると、賞金稼ぎが盗賊じゃない相手まで盗賊だったことにする」


「冤罪?」


「そう。死体を持ってきて『盗賊でした』で高い金が出る仕組みにすると、ろくなことにならん。有名な盗賊だけ個別賞金を上げる。普通の盗賊は、命をかけて狙って回るほどの金にはしない」


「なるほど。だから魔物の方がいいんだ」


「魔物なら素材も肉も売れるからな」


「クモの脚だけで2tくらいあるって」


「何の話だ?」


「昨日の第5層」


「まだ何か持って帰ってたのか!」


「脚8本と、真っ二つの子グモ4体」


「そっちの方が普通に儲かりそうだな……」


「箱の魔物の歯も4本あるよ」


「もういい」


 ギルド長が帳簿を閉じかけて、また開きました。


「いや、よくない。査定は別だ。忘れるな」


「解体屋さんに出したよ」


「ならいい」


 少しして、別の事情聴取担当が来ました。


「オリビアさん、すみません。この×と●の人なんですが」


「盗賊で、捕まえた人を殴ったり脅したりしてた人」


「本人は否定しています」


「じゃあ、被害者の人にも聞いて。草にも聞けるよ」


「分かりました」


 担当者が行きます。


 ギルド長が椅子へ座りました。


「しかし、偵察に行ったんじゃなかったのか?」


「そのつもりだったよ」


「帰ってきたら200人捕まってるんだが」


「せっかく全員いたのに、朝になって散らばると危ないでしょ」


「まあな」


「一日分でも被害が減らせるし」


 オリビアは、少し離れたところで話をしている女性たちを見ました。


「女の人だって、妊娠したら嫌でしょ」


 ギルド長は返事をしませんでした。


「今止められるのに、明日まで待つ理由ないと思ったの」


「それで200人」


「私1人で200人、縄で縛れないよ」


「だから凍らせた?」


「凍らせるのが目的じゃないよ。動けなくしたの。拘束できた人は310K(36.85℃)まで戻してるでしょ」


「外へ出た連中は戻らなかったがな」


「外へ出ない方がいいって言ったよ」


「そこは聞いた」


「相手は元軍人だし、宣戦布告の意味も分かる職業だったでしょ」


「そこも分かる」


「熊の魔物とかクモの魔物なら、あんな手順いらないよ」


「人だからやった?」


「うん。人には尊厳があるでしょ」


 ギルド長はしばらく黙ってから言いました。


「まあ、裁くのはこっちでやる」


「お願いします」


「オリビアはもう飯食え。昨日の夕方から動いてるだろ」


「お腹すいた」


 ギルドに併設されたバー食堂も、もう開いています。


 オリビアはいつもの席へ行きました。


「ジャム入り紅茶と、肉入りピロシキください」


「はいよ」


 ジャム入り紅茶が0.01フローリン。


 肉入りピロシキも0.01フローリンです。


 合わせて0.02フローリン。


 紅茶が来ます。


 ピロシキも来ます。


「いただきます」


 ひと口食べたところで、また人が来ました。


「オリビアさん、ちょっといいですか?」


「うん」


「この人、▲と◎なんですが」


「牢屋を管理してた人。人を売る話にも関わってた」


「次に襲う村の相談は?」


「その人は入ってた」


「分かりました」


 担当者が戻っていきます。


 オリビアは紅茶を飲みました。


 またピロシキを食べます。


 しばらくすると、別の人が来ます。


「すみません。この元霜付きの人、大佐で間違いないですか?」


「大佐だよ」


「どうして分かるんです?」


「エルフだから」


「……分かりました」


 その人も戻っていきます。


 またピロシキを食べます。


 今度は受付のお姉さんが来ました。


「オリビアさん、解体屋さんから伝言です」


「クモ?」


「はい。査定、順番にしておくそうです。急がなくていいから、今日は寝てくださいって」


「まだ事情聴取あるよ」


「食べ終わったら、少し寝ても大丈夫ですよ。必要なら起こします」


「じゃあ、もう1個食べてから」


 オリビアは店の人を呼びました。


「ピロシキ、もう1個ください」


 その後ろでは、朝来た冒険者たちが、今日の仕事を次々に受けていました。


「次、臨時裁判の警備2人!」


「行けます!」


「押収品の分類、あと4人!」


「こっち3人いる!」


「被害者の帰郷先確認、字が書ける人!」


「はい!」


 丘の上町の朝は、いつもよりずっと忙しく始まりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。