第33章 盗賊団をギルドへ持ち込みます。小さい街の冒険者ギルドで200人の盗賊とさらわれていた人の処理は大変です。
第33章 盗賊団をギルドへ持ち込みます
丘の上町へ戻ったころには、もう朝でした。砦を出てから時間もたっているので、外で倒れていた人たちの服や髪に付いていた霜は、町へ着くころにはもう融けています。今は表面に霜ではなく、うっすら夜露が付いていました。
町の人が店を開け始めています。
冒険者ギルドも朝の時間になります。
いつものように、今日の仕事を探す冒険者が来ました。
入口で止まります。
「……何これ」
「盗賊」
夜通し働いていた受付のお姉さんが答えます。
「何人?」
「約200人」
「約200?」
「それと、さらわれていた人が62人。取引商人2組。今から仕事を出します」
掲示板へ紙が増えていきます。
「盗賊関係者の本人確認補助」
「被害者の付き添い」
「証言記録の補助」
「押収品の運搬」
「砦からの追加回収」
「拘束者の見張り」
「臨時裁判の会場整理」
「荷馬車と馬の回収」
朝来た冒険者が紙を見ます。
「今日は仕事、多いな」
「戦えなくてもできるのあるぞ」
「俺、記録は無理」
「じゃあ荷物運べ」
「それならできる」
「E級でもいい?」
「いいです。危険なところへ行く仕事ではありません」
受付のお姉さんが次々に割り振ります。
いつもなら仕事を取れない人が出る日もあります。
今日は出ません。
「まだ人手足りない?」
「足りません。次の方!」
その一方で、オリビアは筆と墨を用意しました。
治安責任者が見ます。
「何するんだ?」
「私の印、みんなには見えないから」
「見えるようにできるのか?」
「墨で書く」
「……墨?」
「洗えば落ちるよ。入れ墨じゃないから」
オリビアは拘束された1人の前へ座りました。
「動かないでね」
「何をする」
「×」
筆で額へ大きく×を書きます。
「何だこれは!」
「盗賊」
「ふざけるな!」
「動くと変な形になるよ」
「もうなってるだろ!」
次の人です。
「×と●」
額へ2つ書きます。
「次。▲と●」
「俺は盗賊じゃない!」
「だから×じゃないよ。▲」
「三角の方が何なんだ!」
「カポ」
「その呼び方やめろ!」
「でも分かりやすいよ」
次です。
「▲、★、●」
額がかなり賑やかになりました。
羽子板で負けて、顔へ墨を塗られたような見た目です。
「この人は別にして」
「理由は?」
「3人星にしてる」
後ろにいた被害者が言いました。
「間違いない。そいつだ」
治安責任者が部下へ言います。
「殺人の証言あり。別室へ」
「はい」
「次、◎」
「俺は商人だ!」
「人を買ったでしょ」
「証拠があるのか!」
転売待ちだった人が声を上げました。
「俺を買うって値段つけたの、お前だ!」
別の人も言います。
「俺も顔を覚えてる!」
「じゃあ証言もあるね」
「何で先に分かってた!」
「エルフだから」
「またそれか!」
朝から何度も同じ会話になります。
ギルド長が途中でやってきました。
「ずいぶん派手な顔になってるな」
「分かりやすいでしょ」
「まあ、200人もいるからな。書類だけより早い」
治安責任者も認めます。
「墨の印だけで判決は出さない。だが仕分けには使える。証言と照合する」
「うん。それでいいよ」
「オリビアの印が間違っていたら?」
「草に聞き直す」
「……そうだったな」
臨時裁判の準備も始まります。
丘の上町だけで、200人近い拘束者を長期間置いておくことはできません。
行政官もギルドへ来ました。
「判決はこちらで出します」
ギルド長が聞きます。
「丘の下町へそのまま送らないのか?」
「収容は丘の下町です。人口はここ約20倍ですし、公安施設も大きい。ただ、事件が起きたのはこちらで、証人もこちらに揃っています」
「裁判だけこっちでやる?」
「はい。事実認定と判決まで済ませてから移送します」
オリビアが聞きます。
「向こうで変わったりしない?」
「判決済みとして送ります。収容先が勝手に変えることはできません」
ギルド長が笑いました。
「昔なら、それを信用できなかったんだよな」
行政官も否定しません。
「旧王国のころの話ですね」
「相手が盗賊なら、俺の権限で200人だろうが全員死罪にして、その場で執行して終わりだった。役人に渡して、賄賂で何人か消える方が面倒だったからな」
「今は、その必要はありません」
「公務員、全部入れ替えたからな」
「併合時に旧王国の公務員は総入れ換えです。現在は東の大国の行政制度で運用しています」
オリビアが聞きます。
「今、ここも東の大国の中だもんね」
「そうです。丘の下町への移送も、同じ国内の公安施設への移送です」
「じゃあ、向こうの役人も信用していい?」
「信用していただいて構いません。不正に判決を変えたり、金を受け取って逃がしたりすれば、その役人自身が処分対象です」
ギルド長が肩をすくめました。
「だから、昔みたいに俺が全部処分する必要がなくなった」
「手間は増えますが、その方がいいでしょう」
「200人の裁判は手間だけどな」
「今日は冒険者の方にも補助をお願いしています」
ちょうど、若い冒険者が書類を抱えて通ります。
「次の証人、どこですか?」
「第2室!」
「はい!」
別の冒険者は押収品の箱を運んでいます。
「これ、誰の荷?」
「商隊の印があるなら返還候補! 先に記録!」
「分かった!」
仕事はどんどん進んでいきます。
盗品の扱いについて、オリビアも聞きました。
「持ち主が分かる物はどうなるの?」
行政官が答えます。
「手数料を差し引いて、所有者へ返します」
「分からない物は?」
「国庫へ入ります」
「捕まえた人には何もない?」
「あります。回収と捕縛に対する手数料が支払われます。所有者へ戻す物にも、国庫へ入る物にも、それぞれ規定があります」
「被害にあった人の宿代とか、帰るお金は?」
「国庫へ入る盗賊資産の一部を、事件処理の経費として認められます。そこから被害者の宿泊、食事、治療、帰郷支援へ回すかは町の行政で判断します」
「じゃあ、私が配らなくていいんだ」
「オリビアさんが配る必要はありません」
「よかった」
ギルド長が別の帳簿を持ってきました。
「それで、オリビア。報酬どうする?」
「報酬?」
「盗賊を捕らえた分」
「賞金ついてたの?」
「有名なのには付いてる。大佐や幹部の何人かは個別賞金ありだ」
「普通の人は?」
「賞金が付いてなくても、盗賊と確認できれば1人10フローリン」
「10?」
「そう」
「じゃあ200人くらいなら、2,000フローリンくらい?」
「基礎だけならな。そこへ個別賞金と、盗品回収の手数料が付く」
「生きてる方が高いの?」
「いや。同じだ」
「生きてると働かせて売れるから高い、とかない?」
「ない。捕まえた人間を強制労働に売り出して、その値段を報酬に上乗せする制度なんかない」
「よかった」
「死んでようが生きてようが、普通の盗賊は10フローリン。賞金首は別」
オリビアは少し考えました。
「10フローリンなら、魔物の方がましだね」
「そのくらいにしてあるんだよ」
「なんで?」
「高くしすぎると、賞金稼ぎが盗賊じゃない相手まで盗賊だったことにする」
「冤罪?」
「そう。死体を持ってきて『盗賊でした』で高い金が出る仕組みにすると、ろくなことにならん。有名な盗賊だけ個別賞金を上げる。普通の盗賊は、命をかけて狙って回るほどの金にはしない」
「なるほど。だから魔物の方がいいんだ」
「魔物なら素材も肉も売れるからな」
「クモの脚だけで2tくらいあるって」
「何の話だ?」
「昨日の第5層」
「まだ何か持って帰ってたのか!」
「脚8本と、真っ二つの子グモ4体」
「そっちの方が普通に儲かりそうだな……」
「箱の魔物の歯も4本あるよ」
「もういい」
ギルド長が帳簿を閉じかけて、また開きました。
「いや、よくない。査定は別だ。忘れるな」
「解体屋さんに出したよ」
「ならいい」
少しして、別の事情聴取担当が来ました。
「オリビアさん、すみません。この×と●の人なんですが」
「盗賊で、捕まえた人を殴ったり脅したりしてた人」
「本人は否定しています」
「じゃあ、被害者の人にも聞いて。草にも聞けるよ」
「分かりました」
担当者が行きます。
ギルド長が椅子へ座りました。
「しかし、偵察に行ったんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったよ」
「帰ってきたら200人捕まってるんだが」
「せっかく全員いたのに、朝になって散らばると危ないでしょ」
「まあな」
「一日分でも被害が減らせるし」
オリビアは、少し離れたところで話をしている女性たちを見ました。
「女の人だって、妊娠したら嫌でしょ」
ギルド長は返事をしませんでした。
「今止められるのに、明日まで待つ理由ないと思ったの」
「それで200人」
「私1人で200人、縄で縛れないよ」
「だから凍らせた?」
「凍らせるのが目的じゃないよ。動けなくしたの。拘束できた人は310K(36.85℃)まで戻してるでしょ」
「外へ出た連中は戻らなかったがな」
「外へ出ない方がいいって言ったよ」
「そこは聞いた」
「相手は元軍人だし、宣戦布告の意味も分かる職業だったでしょ」
「そこも分かる」
「熊の魔物とかクモの魔物なら、あんな手順いらないよ」
「人だからやった?」
「うん。人には尊厳があるでしょ」
ギルド長はしばらく黙ってから言いました。
「まあ、裁くのはこっちでやる」
「お願いします」
「オリビアはもう飯食え。昨日の夕方から動いてるだろ」
「お腹すいた」
ギルドに併設されたバー食堂も、もう開いています。
オリビアはいつもの席へ行きました。
「ジャム入り紅茶と、肉入りピロシキください」
「はいよ」
ジャム入り紅茶が0.01フローリン。
肉入りピロシキも0.01フローリンです。
合わせて0.02フローリン。
紅茶が来ます。
ピロシキも来ます。
「いただきます」
ひと口食べたところで、また人が来ました。
「オリビアさん、ちょっといいですか?」
「うん」
「この人、▲と◎なんですが」
「牢屋を管理してた人。人を売る話にも関わってた」
「次に襲う村の相談は?」
「その人は入ってた」
「分かりました」
担当者が戻っていきます。
オリビアは紅茶を飲みました。
またピロシキを食べます。
しばらくすると、別の人が来ます。
「すみません。この元霜付きの人、大佐で間違いないですか?」
「大佐だよ」
「どうして分かるんです?」
「エルフだから」
「……分かりました」
その人も戻っていきます。
またピロシキを食べます。
今度は受付のお姉さんが来ました。
「オリビアさん、解体屋さんから伝言です」
「クモ?」
「はい。査定、順番にしておくそうです。急がなくていいから、今日は寝てくださいって」
「まだ事情聴取あるよ」
「食べ終わったら、少し寝ても大丈夫ですよ。必要なら起こします」
「じゃあ、もう1個食べてから」
オリビアは店の人を呼びました。
「ピロシキ、もう1個ください」
その後ろでは、朝来た冒険者たちが、今日の仕事を次々に受けていました。
「次、臨時裁判の警備2人!」
「行けます!」
「押収品の分類、あと4人!」
「こっち3人いる!」
「被害者の帰郷先確認、字が書ける人!」
「はい!」
丘の上町の朝は、いつもよりずっと忙しく始まりました。




