第32章 盗賊団を拘束します。
第32章 盗賊団を拘束します
馬で進む一行に合わせて、オリビアも低いところを飛びました。
町を出たのが1時15分ごろです。
砦へ着いたのは2時45分ごろでした。
オリビアが最初に砦を離れてから、だいたい2時間半たっています。
森を抜けると、正門の手前で馬が止まりました。
「……いるな」
治安責任者が灯りを上げます。
街道の脇に数名の人が倒れています。
服にも髪にも白い霜が付いています。
オリビアが見ました。
「霜付きさん」
「名前を付けるな」
「でも、霜付いてるよ」
部下の1人が馬から降り、最初の人を確認しました。
「反応なし」
次も確認します。
「こっちも死亡しています」
さらに門の近くにも倒れています。
「外に出た者は、全員こうなのか?」
治安責任者が聞きます。
「外に出ると8倍だから」
「生きてる者は?」
何人か確認します。
「いません」
砦の外で動ける者は1人もいません。
生存者もいませんでした。
馬だけが何頭か近くを歩いています。
「馬は平気なんだな」
「馬には印つけてないよ」
正門へ近づくと、内側から声がしました。
「誰だ!」
でも、声に力がありません。
治安責任者が答えます。
「丘の上町の治安担当だ! 武器を置け! こちらは拘束と救出に来た!」
「……待て」
しばらくして、門が少し開きました。
中にいた男は剣を持っていません。
というより、持てる状態ではありません。
壁に手をついています。
「寒い……」
「抵抗するか?」
「できるように見えるか」
「縄を」
冒険者が近づきます。
男はその場へ座りました。
両手を後ろへ回され、拘束されます。
オリビアが聞きました。
「縛れた?」
「ああ」
「じゃあ止めるね」
「何を?」
男の額には見えない×が1つあります。
オリビアは、その男の魔法式と熱を回収する物理式の接続を外しました。
「これで、もう冷えない」
「……お前か」
「うん」
「何をした」
「身体から熱を取ってた」
「戻せ」
「今から戻すよ」
さっきまでの式の熱移動方向を逆にします。
湖側から対象の身体へ熱を戻します。
急に熱を入れすぎないように、復温に問題が出ない出力へ落とします。
目標値は310K(36.85℃)です。
「310K(36.85℃)まで」
「何だ、それは」
「体温」
男には意味が分からないようですが、説明はそれで終わりです。
治安責任者が確認します。
「拘束した者から順に、それをやれるのか?」
「うん。縛ったって教えて」
「分かった。拘束確認を先にする。勝手に温めるなよ」
「分かってる」
一行は砦へ入りました。
中は静かです。
まったく人がいない静けさではありません。
人はいます。
ただ、元兵士たちはまともに動けません。
暖炉の近くで毛布を何枚もかぶっている人。
床へ座ったまま立てない人。
会話がうまく続かない人。
意識を失っている人もいます。
「本当に200人近くいるのか?」
「いるよ。今は散らばってない」
「こっちは兵舎から確認する!」
「俺たちは倉庫!」
「牢はどっちだ?」
オリビアが指しました。
「草が教えてくれた。あっち」
「便利だな、草!」
「便利でしょ」
別の冒険者が叫びます。
「3人拘束!」
「こっち5人!」
オリビアは順番に接続を外します。
「3人、止めるよ」
「頼む!」
停止。
復温開始。
目標310K(36.85℃)。
次。
「5人縛った!」
「はい」
停止。
復温開始。
高出力の式が付いていた者の中には、すでに意識が戻らない者もいました。
医療を分かる冒険者が確認します。
「この人、息はある」
「じゃあ止めて温める」
「こっちは?」
「脈がない」
「死んでるなら、もう式は250K(-23.15℃)で止まってる」
「……250K(-23.15℃)まで下げる式だったのか」
「止まる下限がそこ。そこまで下げるのが目的じゃないよ」
「その前に人間は動けなくなるな」
「うん」
牢へ着くと、中から声が上がりました。
「町の人か!」
「助けに来た!」
「こっちだ!」
扉の前には、牢番役だったカポが倒れています。
1人は意識があります。
「俺も捕まってる側だ……」
治安責任者が答えます。
「それはあとで聞く。まず手を出せ」
「俺は盗賊じゃない」
「知ってる」
オリビアが横から言いました。
「あなたは▲と●」
「何だ、それ」
「あとで説明する」
「何で俺のことが分かる!」
「エルフだから」
「答えになってないだろ!」
「エルフだから分かるの」
縄がかかります。
「縛ったぞ」
「じゃあ止めるね」
カポの熱回収も停止します。
復温を始めます。
牢の鍵を開けると、中から人が出てきました。
「外へ出ていいのか?」
「いい。盗賊は動けない」
「牢番も?」
「縛った」
「そいつら、こっちより先に助けるのかよ」
「助けるっていうより、死なないようにしてるだけ。あとで何したか話してね」
「話す。全部話す」
別の牢から女性たちも出てきます。
「9人いますか?」
治安責任者の部下が数えます。
「1、2、3……9人。合ってます」
「大佐の部屋に3人いるよ」
「本部棟だな」
「うん」
数人が本部棟へ向かいます。
部屋の扉を開けると、3人の女性がいました。
「町の治安担当です。もう大丈夫です」
「大佐は?」
「外で死亡しています」
3人が顔を見合わせます。
「外へ出たんですか」
「はい」
1人の女性が言いました。
「私、言ったんです。外へ出ない方がいいって、あの声が言ってたって」
「聞かなかった?」
「聞いてました。でも、敵が有利なことを教えるはずがないって」
オリビアが部屋へ顔を出しました。
「教えたよ」
女性がオリビアを見ます。
「あなたが、オリビア?」
「うん」
「私たちは、どうして何ともなかったの?」
「何もしてないから」
「分かってたの?」
「草に聞いた」
3人とも窓の外を見ました。
「草……」
「エルフだから」
今度は3人とも、それ以上聞きませんでした。
砦の外で倒れている人の身元確認も始まります。
「この人、大佐だ」
元兵士の1人が、霜の付いた遺体を見て言いました。
「間違いない?」
「間違いない」
別の遺体についても声が上がります。
「こっちは元大尉」
「この男は、処刑をやってた」
「こっちは襲撃班の指揮官だ」
外へ出た人の中に、大佐をはじめ元将校や、実際に人を星にした者など危険な人物が多いことが分かってきました。
生き残った元兵士たちも、それに気づきます。
「大佐ばかり狙ったのか」
拘束された男がオリビアへ聞きました。
「大佐だけじゃないよ」
「じゃあ、なぜ大佐がああなって、俺たちは生きている」
「できるけど、全員をしなかっただけよ。元軍曹さん」
男が固まりました。
「……何で俺が軍曹だったって知ってる」
「エルフだから」
「またそれか!」
近くにいた冒険者が笑いそうになって、口を押さえました。
元軍曹は笑いません。
「俺たちは軍人だった」
「元、でしょ」
「お前は戦闘状態に入ると宣言した。なら、俺たちは軍人として降伏する。捕虜として扱え」
治安責任者が振り返ります。
「要求は記録する」
「要求ではない。戦闘だったんだろう!」
「それをどう扱うか決めるのは裁判だ。今は武装集団を拘束している」
元軍曹はオリビアを見ます。
「お前はどうなんだ。宣戦布告したのはお前だ」
「私は戦っただけ。裁くのは私じゃないよ」
「反撃もできなかった」
オリビアは少し黙りました。
「私と一緒に能力精査を受けた男の子も、反撃できなかったよ」
「何の話だ」
「5人いたの。全員、剣に受かった。2人はあなたたちの仲間に遠くから矢を射られて星になった。1人5本から8本くらい」
元軍曹は何も言いません。
「剣が届かないところから撃たれたから、反撃できなかったって」
「戦場じゃ――」
「商人を護衛してたんだよ。宣戦布告もされてない」
オリビアは元軍曹を見ました。
「私なら、あなたたち全員を熊の魔物やクモの魔物みたいにもできるよ。でも、人には尊厳があるでしょ」
「……」
「だから名乗った。戦うって言った。開始時刻も言った。砦の外には出ない方がいいってことまで言った」
「10秒前だったがな」
「元軍人なら意味は分かったでしょ」
元軍曹は返事をしません。
「宣戦布告して戦って負けたなら、仕方ないよ。私との時間だけでも軍人に戻れたでしょ」
少し間を置きます。
「へたれ国の軍人だけど」
「最後のは余計だ!」
「でも、よく負けてた国だよ」
今度は、近くの冒険者が本当に笑いました。
治安責任者が手を叩きます。
「話は町でやる! まだ62人の救出と200人近い拘束が残ってる!」
「はい」
次の拘束者の熱回収を外します。
復温の目標は310K(36.85℃)です。
砦の中では、被害者から最初の証言も取り始めました。
「この牢番、知ってる?」
「知ってる。殴られた」
「いつ?」
「何度もだ。盗賊がいないときも」
「この人は?」
「そいつは食事を運んでただけだ」
「殴られたことは?」
「ない」
「この男は?」
別の被害者が前へ出ました。
「そいつが3人殺した」
治安責任者が聞き返します。
「3人?」
「気に入らないって言って、殴った。止めてもやめなかった」
オリビアが額の見えない印を確認します。
「▲★●」
「合ってるな」
「うん」
転売待ちだった人たちからも話を聞きます。
「誰に売られるって聞いた?」
「商人が来るって」
「今夜来てる2組のどちらか?」
「顔を見れば分かる」
「連れてきて確認する」
人身売買へ関わった商人には、オリビアの◎が付いています。
被害者の証言と照合されていきます。
大佐の部屋にいた3人の女性にも、治安責任者の女性の部下が別に話を聞きました。
「無理に全部、今話さなくていいです」
「大佐が誰に命令してたかなら話せます」
「それだけでも十分です」
「牢から私たちを連れてきた人も分かります」
「名前は?」
「名前は知らない。でも顔は分かる」
「あとで確認しましょう」
「売る話もしてました」
「誰が?」
「大佐と、商人の人」
記録が増えていきます。
夜が明るくなり始めるころには、砦の中で動ける盗賊関係者は全員拘束されました。
人質62人も確認できました。
取引商人2組も、帰さずに事情を確認することになりました。
「町へ運ぶぞ!」
「荷馬車、何台使う?」
「動けないのが多すぎる。使えるだけ使え」
「霜付きさんも?」
オリビアが聞きます。
「遺体も身元確認が要る。運ぶ」
「分かった」
砦にあった荷馬車も使います。
馬は無事です。
拘束された生存者を乗せます。
さらわれていた人も乗せます。
霜の付いた遺体も別の荷馬車へ積みます。
ガラガラ。
ガラガラ。
何台もの荷馬車が街道を進みます。




