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第28章 ダンジョンに休憩所を作ります。 植物化石層発見です。


第28章 ダンジョンに休憩所を作ります


 第5層の行き止まりにある壁だけ、周囲のフズリナが光っていません。


 オリビアは色をきちんと見るため、白色の光魔法で周囲を明るくしました。緑色の魂の光に紛れていた岩の色や化石の模様が、はっきり見えるようになります。


「ダイヤみたいな模様が多い」


 壁面には、菱形の葉痕が連続した植物化石がいくつもあります。


「リンボクかな」


 少し横には、縦に筋が入り、節のある茎の化石も見えます。


「ロボクもある」


 さらに、葉痕が縦方向へ並ぶフウインボクもありました。


 周囲のフズリナ石灰岩とは、明らかに違う地層です。ここは通路の行き止まりですが、植物化石の保存状態はかなり良さそうです。


 オリビアは壁へ手を当て、式を持たない純粋な魔力だけを通しました。何かを切る式も、質量を変える式も、強化する式も入れていません。ただ魔力を流し、その通り方と、魂の反応があるかを見ます。


「ない」


 植物にも、生きていたころは魂があったはずです。けれど、リンボク、ロボク、フウインボクが生きていたのは2億年どころではない昔です。捕食で他の生き物の魂まで取り込むこともない植物です。化石には身体の形が残っていても、魂はとっくに輪廻へ戻っているようでした。


 岩そのものから返る、ダンジョンの魂の群体へつながった反応も0でした。


「ここ、ダンジョンの中だけど、ダンジョンの壁じゃないみたい」


 前回、方解石板を持ち出すときには、先にダンジョンとの接続を切る必要がありました。ところがこの壁は、最初から接続していません。


 保存状態のよい場所を4か所選び、それぞれ厚さ2cmほどの板になるよう境界を指定します。位置をわずかにずらすと、4枚とも抵抗なく外れました。


 収納へ入れてから、露出した断面を見ます。


「砂岩だ。珪化木もある」


 植物の形が残っている部分には、木の組織が鉱物へ置き換わったものも混ざっています。魂を持たない砂岩と珪化木の岩体です。


 今度は床の表面を薄く剥いでみました。


「花崗岩?」


 下から出てきたのは花崗岩です。周囲の石灰岩には再結晶が進んだところがあり、大理石化しています。


「貫入岩体かな」


 断層や大きな割れ目へ花崗岩質のマグマが入り、その熱で周囲の石灰岩が接触変成したように見えます。ダンジョンが形成されるより前から、地質構造そのものに境界があったのでしょう。


 フズリナを大量に含む石灰岩なら、地脈から魔力が入り、多数の魂がまとまってダンジョンの一部になります。ところが、その途中へ魂を持たない花崗岩体が差し込まれています。


「断層面に花崗岩が入って、ダンジョンが好きに作れなくなってるのかな。花崗岩君でダンジョンが千切れてるのかもね」


 行き止まりの砂岩と珪化木も、そのまま露出しています。ダンジョン側がこの場所を加工できるなら、周囲と同じフズリナ石灰岩で表面を覆うこともできそうです。それをしていないというより、ここへは手を出せないと考える方が合います。


 周囲の化石の年代を思い浮かべると、時間の桁が違います。リンボク、ロボク、フウインボク、フズリナが生きていた時代も、その後の断層活動と花崗岩の貫入も、220歳のエルフの寿命を何度並べても届きません。


「3億年前くらいなら、この星が今まで生きてきた時間の6〜7%くらい前だよね。みんな、ずいぶん昔の魂だね。ダンジョン、すごいね」


 オリビアはしばらく岩壁を見ました。


 そこで、さっきのクモの横道を思い出します。


「また出てきたら面倒だな」


 クモ型魔物がリポップする場所が横道の奥にあるなら、そのたびに相手をするより、横道そのものを閉じた方が楽です。しかも今、ダンジョン側が触れられないらしい普通の岩が見つかりました。


 横道へ戻り、分岐部の断面を測ります。行き止まり側の加工できる岩体から、横道の断面とほぼ同じ形で、厚さ30cmの石材を切り出しました。


 そのままでは非常に重いので、有効質量を下げます。体積は変えず、外から見た平均密度が空気とほぼ同じになるところまで軽くすると、巨大な石材でも簡単に動かせます。


 分岐部まで運び、横道へぴったりとはめ込みました。


「ここ」


 位置を微調整し、隙間がほとんどなくなったところで有効質量を元へ戻します。


 横道は、厚さ30cmの石栓で塞がれました。


 この石は、行き止まりの砂岩と珪化木を含む、魂のない普通の岩体から切り出したものです。行き止まりの露頭へダンジョン側が手を加えられなかったのと同じなら、この石栓も消したり再生させたりできないはずです。


 親グモも子グモも呼吸はしていました。


「中でリポップしたら、空気なくなるよね」


 石栓の向こうで同じ場所へクモが再び現れれば、密閉された空間の酸素を使って、しばらくすると死にます。死体をダンジョンが吸収し、また同じ場所へリポップさせるなら、リポップ、窒息死、吸収、再リポップを繰り返す不思議な状態になります。


 そのまま繰り返すなら、固定された仕組みが動いているだけかもしれません。リポップを止める、場所を変える、石栓をどうにかしようとするなど、状況に合わせて反応が変われば別です。


「これで、知能のあるダンジョン主がいるかも分かるかな」


 山上村ダンジョンに本当に全体を見て判断する主体がいるのか、少し時間を置けば手掛かりが出そうです。


 せっかく加工できる岩体を見つけたので、オリビアはもう1つ作ることにしました。


「休めるところ、作ろう」


 植物化石のきれいな部分を避けて、行き止まりの岩体へ横から掘り込みます。砂岩と珪化木の層は切り出しても再生せず、ダンジョン側の抵抗を受けずに加工できます。切り取った石材は区画ごとに収納へ入れ、床を平らにし、人が何人か座って休めるだけの空間を作りました。


 色や化石を見分けやすいよう、白色の光魔法も残します。フズリナの緑色の光とは違い、砂岩、珪化木、花崗岩、大理石化した部分の色がそのまま見えます。


 掘った形もそのままです。


「やっぱり、この露頭にはダンジョン側、何もできないんだ」


 作ったばかりの休憩所を眺めていると、本通路の方から声が聞こえてきました。


「あれ?」


 聞き覚えがあります。


「オリビア?」


「チャトラ?」


 現れたのは、チャトラ、タマ、ミミの3人でした。朝早く出た3人は、もう第5層を一通り回ってきたようです。


「まだここにいたの?」


 チャトラが言いました。


「うん。いろいろ見てた」


「私たち、しゅしゅって進んで5層もう終わりだよ」


「早いね」


「落とし穴も、落ちる前に走ればいいし」


「走るの?」


「床が落ちきる前に向こうまで行くの。矢も、そのまま前へ走ってれば後ろに飛んでいくよ」


 タマも続けます。


「スライムも落ちてくるころには、もうそこにいないし」


「そうやって通るんだ」


 オリビアは、第5層で普通の冒険者がどうしているのか、ようやく分かりました。罠を1つずつ止めて調べるのではなく、発動の仕方と時間を知って、危険になる前に通過しています。


 ミミが思い出したように言いました。


「途中に透明な落とし穴があったよ」


「あった?」


「うん。なんか怪しかったから、オリビアがいつもやってるみたいに見てみた。魔力とか魂とか。でも何もなかった」


「あ、それ私。上の偽装だけ剥がしたの」


「やっぱりオリビアだったんだ」


 3人が笑いました。


 ちょうど昼です。


「お昼はどうするの?」


 オリビアが聞くと、チャトラは肩をすくめました。


「お昼は持ってると走るの邪魔だから、我慢するよ」


「じゃあ、一緒に食べよっか?」


 収納から、朝に作ってもらった大きい方のハンバーグ弁当を4つ出しました。


「え?」


「4人分あるよ」


 まだ温かい弁当です。続けてカトラリー、4人分のコップ、ジャム入り紅茶の水筒も出します。


「オリビアの収納魔法って便利だね」


 タマが弁当を受け取りながら言いました。


「ご飯も温かいままだし」


「重たくならないしね」


 4人は、さっき作った休憩所で昼ご飯を食べ始めました。大きなハンバーグは朝に詰めてもらったときの温度のままです。ジャム入り紅茶をコップへ注ぐと、甘い香りが広がります。


 食べ始めて少しすると、ミミが壁の方を見ました。


「なんか、あっちの壁、がさごそしてるけどいいの?」


 30cm厚の石栓の向こうです。


「まあ、しばらくは大丈夫でしょう。ちょっとしたら静かになるよ」


「何がいるの?」


「大きいクモと、小さいクモがリポップする場所」


 3人の手が少し止まりました。


「塞いだの?」


「うん」


「それで静かになるの?」


「呼吸してたから、そのうち」


 オリビアは普通にジャム入り紅茶を飲みます。


 チャトラが別のことを思い出しました。


「そういえば、ベラミラ先生を浮かせたって聞いたよ」


「浮かせたというか、有効質量を軽くしたら浮いた」


「浮いたら軽くなるんでしょう? 軽くしたら速く走れる?」


 チャトラたちは、第5層を罠が作動するより先に走り抜けてきたばかりです。考えることはよく分かります。


「軽くすると天井に頭ぶつけるし、ダンジョンではやらない方がいいと思うよ」


「そっか」


 床を蹴る力が同じでも、質量を下げれば上下方向の動きまで大きくなります。段差を越えたり、少し跳んだりしただけで、低い天井へ近づきすぎます。走ることだけを考えるなら試す余地はありますが、狭いダンジョンでは危険です。


 しばらく食べていると、タマがハンバーグを見ました。


「町のハンバーグって、いつまであるかな?」


「熊5頭分あったから、まだしばらくはあると思うけど」


 熊型魔物の肉は普通の肉より腐敗が遅く、かなり長く食べられます。ただ、放っておけば少しずつ水分が抜けます。


「腐る前に、乾燥肉っぽくなってくるんだよね」


「ハンバーグじゃなくなる?」


「そのうちね」


 チャトラが即座に言いました。


「無くなったら、また狩りに行こう」


「今度は町に来るの待たないで?」


「そうそう」


 前回は、熊型魔物5頭が町へ向かってきたのでオリビアが倒しました。次はハンバーグの材料を補充するために、こちらから探しに行く話になっています。


 4人で弁当を食べ終え、残ったジャム入り紅茶も飲みました。


 オリビアは弁当箱、カトラリー、4人分のコップ、水筒を収納へ戻します。休憩所の外へ出るころには、石栓の向こうのがさごそという音も弱くなっていました。


 チャトラが第6層へ向かう方を見ます。


 オリビアも立ち上がりました。


「じゃあ、6層目に行こうか」


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