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第25章 ダンジョン博物館へ連れていかれます



第25章 ダンジョン博物館へ連れていかれます


 現地の地図では Dorf auf dem Berg と書かれ、言語チートを通すと「山上村ダンジョン」と分かるダンジョンから地上へ戻ると、そのまま村のダンジョン博物館へ連れていかれました。


 収納には、さっき取り出した1m四方、厚さ約2cmの方解石板が9枚入っています。


 4枚はオリビアの分。


 5枚は研究用です。


 もう1枚は4階層で砕き、見学グループの人たちが破片を持って帰りました。


 博物館へ入ると、学芸員さんは見学案内のときより少し早足になりました。


「こちらへお願いします」


 奥の作業室へ案内されました。


 何人か呼ばれてきました。


 オリビアは収納から研究用の方解石板を1枚出しました。


 大きな透明板を床へ立てると、集まった人たちが周囲から見ます。


「これが、あの落とし穴の蓋ですか」


「はい。ダンジョンの中では、壊れると普通は消えて再生します」


 学芸員さんが説明します。


「オリビアさんが取り出したものは、砕いても残りました。測ると魔力反応は0でした」


 オリビアも、自分がやったことを説明しました。


「切ったというより、位置をずらしました。板の周囲を指定して、ダンジョン側より強い魔力で少しだけ位置を変えています」


「それで、接続が切れた?」


「たぶん。普通に踏み抜いたときは、破片になっても周囲の魂とつながったままなんだと思います。だから回収されて消える。でも、私は壊す前に位置をずらして、ダンジョンとのつながりを先に切ったみたいです」


 作業室に持ち込まれた測定器でも、方解石板の魔力反応は0です。


 魂反応も0でした。


「材料は?」


「炭酸カルシウムの結晶です。フズリナとかの殻部分の材料を集めて作ってるみたいですね」


 同じ炭酸カルシウム系でも、3階層で見た矢とは状態が違います。


 あの矢は大理石で、大量の魂が入っていました。魔力もありました。壁へ当たって砕けたあと、破片は消えています。


 方解石板は、ダンジョンとの接続を切った時点で、ただの鉱物になりました。


「それで持ち出せたんですね」


「地上へ出ても消えませんでした」


 研究用の5枚は、そのまま博物館へ預けることになりました。


 説明が一段落したところで、オリビアはようやく周囲の展示へ目を向けました。


 山上村ダンジョンの地質断面図があります。


 もともとは火山島だった場所の周囲に、生物起源の石灰岩が厚く形成され、その後の地殻変動と地下水による溶食で鍾乳洞ができたタイプです。


 火山活動の影響を受けたところには熱変成もあります。


 3階層で飛んできた大理石の矢も、その地質とつながっています。


「なるほど」


 少し離れた展示には、花崗岩があります。


 近くに花崗岩の採掘場があり、そこから出た岩石や鉱物もこの博物館で扱っていました。


 ペグマタイトの標本も並んでいます。


 大きな石英、長石、雲母の結晶。


 オリビアは展示ケースの前で足を止めました。


「ペグマタイトまである」


「近くの採石場で出ますよ」


 作業室の横には、これから切断する予定の花崗岩もいくつか置かれていました。


 どれも大きな塊で、その中には直径1mを超える巨岩もあります。オリビアは、その1つを見ながら考えました。


「これ、中に晶洞があるかもしれませんね」


「外から分かりますか?」


「密度を見れば、ある程度は」


 オリビアは、並んでいる岩の有効質量を少しずつ同じ割合で減らしていきました。


 外形に対して中が詰まっている岩は平均密度が高いままです。


 内部に空洞がある岩は平均密度が低いので、同じ割合で有効質量を減らしていけば、先に空気の浮力と釣り合います。


 1つが先に浮きました。


「あれです」


 少し回して手を離します。


 岩はゆっくり姿勢を変え、毎回ほぼ同じ向きで止まります。


「軽い側が上へ来るので、晶洞があるなら、この辺です」


 浮力中心と重心がずれているので、空洞の位置までおおよそ分かります。


「切ってみてもいいですか?」


「これはちょうど、これから切る予定の石です。お願いします」


 普段は、水を使いながらロータリー刃へ研磨剤を送り、花崗岩を少しずつ切っていきます。


 1面を切るのに、だいたい半日。


 オリビアは岩の端から1cm間隔になるよう、分離したい位置をまとめて指定しました。


「100枚くらいにしてみます」


 刃は使いません。


 指定した境界の位置を、まとめてわずかにずらします。


 操作は1回だけで、花崗岩の塊が1cmほどの厚みを持つ100枚の板に分かれました。


「……え?」


 周囲が止まりました。


 オリビアも100枚を見ました。


「1回でできるんだ」


 今まで1つずつ指定していた境界を、今回は1cm間隔で100か所ほど同時に指定しました。


 1回の魔法で全部ずらせます。


 空間をずらして分けるので、刃の厚み分の切りしろは0です。水も研磨剤も切削泥も出ません。


 順番を崩さなければ、元の岩石の内部構造を1cmごとの連続断面としてそのまま追えます。


 すでに100枚へ分かれている花崗岩を、端から1枚ずつ剥がすように外していきます。断面を見てから次の1枚を外し、元の並びを崩さないよう横へ置いていきました。


 何枚か外したところで、断面に紫色が現れました。


「あった。晶洞だ」


 さらに1枚ずつ剥がして晶洞の中心へ近づくにつれて、断面に現れる空洞が広がり、アメシストの結晶も大きく見えるようになりました。


「これ、普通に切ったら何日かかります?」


「1面で半日くらいです」


「100枚なら、やめたくなりますね」


 何人かが笑いました。


 少しすると、別の人が石を1つ持ってきました。


「これもお願いできますか。ここに印を付けました」


「この線でいいんですね?」


「はい」


 オリビアは印の位置を確認して、そこだけ少しずらしました。


 すぐに2つへ分かれます。


 それを見ていた別の人も、今度は別の標本を持ってきました。


「こちらは、この脈に直角で」


「分かりました」


 さらにもう1人来ます。


 いつの間にか、作業室の隅に「オリビアさんに分けてもらいたい石」が増えていました。


「博物館へ来たんだけどなあ」


 でも、半日かかる作業が数秒で終わるなら、持ってきたくなる気持ちは分かります。


 一通り終わったところで、学芸員さんが聞きました。


「今後、またお願いしたいことが出たら、どちらへ連絡すればいいでしょう」


「ギルドにお願いします。必要があれば呼んでください」


 研究機関からの連絡はギルドで受ける方が楽です。


「分かりました」


 帰ろうとしたところで、さっきの花崗岩を担当していた人が声をかけました。


「今日は切断をずいぶんお願いしてしまったので、手数料代わりに1つ持っていきませんか」


 いくつか候補を見せてくれました。


 オリビアは、また有効質量を少しずつ下げました。


 1つがかなり早く浮きます。


 手を離すと、はっきり同じ側を上にして止まりました。


「これ、中の空洞が大きそう」


「それにしますか?」


「はい」


 ペグマタイト質の花崗岩で、外から見える鉱物の組み合わせからも、内部にアメシストがありそうです。


 オリビアはその岩を収納しました。


 博物館を出ると、TALONを出しました。


 山上村から丘上町までは約10kmです。現地の地図で言語チートを外せば、それぞれの元の表記を読むことができますが、オリビアが普段使っている地名は「山上村」と「丘上町」です。


 来た道を戻ります。


 朝は山上村ダンジョンを見に行くだけのつもりでした。


 帰りの収納には、ダンジョンから取り出した大きな方解石板が4枚と、内部に晶洞がありそうな花崗岩が1個入っています。


 丘上町へ戻ると、オリビアはTALONを収納して、しらかば亭へ帰る前にギルドへ寄りました。


 いつもの受付のお姉さんがいます。


「山上村ダンジョン、4階層まで見てきました」


「どうでした?」


「すごかったです。あと、博物館にも連れていかれました」


 そこまで話してから、オリビアは今朝から気になっていたことを聞きました。


「観光じゃなくて、その先を探索するときは、どうすればいいんですか?」


「探索用の講習を受けてもらいます。受講した人には、探索用入場許可証が発行されます」


「許可証があれば入れる?」


「はい。ただしパーティーで入る場合は全員分必要です。パーティー全員の探索用入場許可証がそろっていることが条件です」


「あ、だから今朝、私は観光の方だったんだ」


「そうです。オリビアさんは未受講でしたから」


 今朝は山上村ダンジョンを見たいとだけ言ったので、受付のお姉さんはインフォメーションセンターと観光階層を案内してくれました。探索区域へ入るには、その前に手順が1つあったようです。


「講習は難しいですか?」


「座学だけですよ。週に1回です。暗い場所での行動も扱うので、夜間にやります」


「次はいつですか?」


 受付のお姉さんが少し笑いました。


「都合のいいことに、なんと今晩です。参加しますか?」


「参加します」


 その場で今晩の講習へ申し込みました。


 しらかば亭へ戻ると、オリビアはさっそく岩を出しました。


「開けてみよう」


 もう一度、有効質量を下げて姿勢を見ます。


 軽い側から晶洞のおおよその位置を確認し、中心を通りそうな面を決めました。


 今度は真ん中を1面だけ指定して、2つに分けます。


 境界を指定して、片側の位置を少しだけずらしました。


 花崗岩が静かに2つへ分かれます。


 内側に、大きめの紫色の結晶が並んでいました。


「当たり。アメシストだ」


 その間に、別の結晶もあります。


 透明感があり、形も違います。


「トパーズも入ってる」


 2つに分かれた岩を並べると、晶洞の左右がそのまま対になっています。


 空間をずらした断面なので、結晶は潰れず、切削泥も付きません。


 オリビアはしばらく2つの断面を見比べました。


 山上村ダンジョンを見に行った日の最後に、思いがけず、ずいぶんきれいな石まで増えました。


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