第18章 護衛さんたちと夕食を食べます
第18章 護衛さんたちと夕食を食べます
冒険者ギルドを出て少し歩いたところで、後ろから声がした。
「オリビア、待ってくれ」
振り返ると、さっきまで商隊についていた護衛の二人が追いついてきた。
「精算、終わったんですか?」
「終わった。延長が二日分だったからな」
護衛の仕事は一人一日1フローリン。今回、予定していた遅れの分はすでに使い切っていて、さらに二日遅れた。その追加分として、一人2フローリンずつが精算されたらしい。
「そういえば、名前をちゃんと言ってなかったな。俺はデンゼル」
「アルガーだ」
「オリビアです」
「それは知ってる」
三人で笑った。
オリビアはしらかば亭へ向かう。二人も同じ方向へ歩いている。
「そっちなんですね」
「ああ」
デンゼルが答えたあと、少しだけ歩調を速めた。
「二日遅れだからな。今ごろ、かなり心配してると思う」
「連絡できなかったんですか?」
「道の途中じゃ無理だ。伝令を出そうにも、馬が二頭とも歩けなくなった」
アルガーも苦笑した。
「荷車を置いて一人だけ歩いて戻るなら、もう一人は荷と商人を守らないといけない。だから護衛は最初から二人だったんだが、それでも四十キロ歩いて救援を呼びに行けば、その間ずっと一人になる」
「だから止まって待ってたんですね」
「そういうことだ」
しらかば亭が見えてくる。
デンゼルが店の方を見た。
「さて、怒られるかな」
「誰に?」
「嫁に」
アルガーも言った。
「俺もだ」
「二人とも?」
「二人とも」
しらかば亭の扉を開ける。
「ただいま」
先に声を出したのはデンゼルだった。
料理を運んでいたデイジーさんが止まる。
「デンゼル!」
「ただいま」
「遅い!」
「二日遅れた」
「分かってるよ!」
少し離れたところでは、アカシアさんがアルガーを見つけていた。
「アルガー!」
「ただいま」
「もう、心配したんだからね」
「悪かった」
ダリアちゃんとアマリリスちゃんも奥から走ってきた。
「おかえり!」
「帰ってきた!」
オリビアはそこでようやく分かった。
「デイジーさんとデンゼルさんが夫婦で、アカシアさんとアルガーさんが夫婦なんだ」
「知らなかったの?」
ダリアちゃんが聞く。
「知らなかった。今日ずっと一緒だったのに」
今度はデイジーさんがオリビアを見る。
「一緒だった?」
「救援に来てくれたの、オリビアだぞ」
デンゼルが答えた。
「二輪の変な乗り物で四十キロ走ってきて、馬二頭の折れた脚を治して、最後は青い車を出して荷車二台まとめて引っ張って帰ってきた」
「タロンとNew Holland T5です」
「名前までちゃんとあるんだよな」
アルガーが笑う。
デイジーさんとアカシアさんが顔を見合わせた。
「オリビアちゃん、また何かやったの?」
「救助依頼だったから」
「救助依頼で荷車二台まで持って帰ってくる人、そうそういないよ」
カメリアさんの声が厨房の方から飛んできた。
「話はごはんを食べながらにしな。帰ってきたばかりの二人も腹減ってるだろ」
「減ってる」
「俺も」
「オリビアちゃんもでしょ」
「はい」
今日はみんな一緒の卓になった。
大きな鍋から、白いシチューが取り分けられる。野菜と一緒に肉がたくさん入っている。
デンゼルが一口食べて、肉を見る。
「鶴か」
「そうだよ」
カメリアさんが答える。
「この前、オリビアちゃんが森から持ってきたやつ」
「これ、オリビアが?」
「水草が運んでくれました」
「水草?」
「うん」
デンゼルとアルガーが一度顔を見合わせたが、今は食べる方を優先した。
オリビアも鶴肉の入ったクリームシチューを普通に食べる。
「おいしい」
アルガーがその様子を見ていた。
「そういや、肉食うんだな」
「食べますよ」
「エルフって、あんまり肉食わないだろ」
「そうみたいですね」
「そうみたい?」
「私は普通に食べるから」
デンゼルが笑った。
「やっぱり変わったエルフだな」
オリビアはシチューをもう一口食べてから、今度はこちらから聞いた。
「二人は普段、何を狩ってるんですか?」
「鳥なら鶴とかカモだな」
「コウノトリも取る」
「イノシシも。あとは魚」
「魚は何を?」
「いろいろだ。川にも池にもいるし、季節で変わる」
「熊は?」
二人の答えは早かった。
「熊は狩らない」
「いるんですよね?」
「いる」
「見つけたら、向こうに見つかる前に逃げる」
「そんなに危ないんですか?」
「危ない。肉を取りに行って、わざわざ熊と勝負する理由がないだろ」
「なるほど」
オリビアは素直にうなずいた。
少しして、今度はデンゼルが聞いた。
「オリビアは、どこから来たんだ?」
前にも聞かれたことのある質問だった。
「森からなんだけど、町の名前はないんだ」
「森?」
「うん。標高が1900mくらいあって、そこで弓の練習をしてた」
「ずいぶん高いところだな」
「泊まれるところがあって、みんなで練習してたよ。弓だけじゃなくて、速く走る練習をしてた人もいた」
「走る?」
「100mとか」
ダリアちゃんが言う。
「チャトラたちがやった試験みたいなやつ?」
「そうそう。ああいうの」
オリビアは前にチャトラ、タマ、ミミへ話したときと同じように続けた。
「練習してた場所は、近くにあるちょっと大きな町から、山を越えて谷へ下りて、また山に登ったところ。歩いたら三日くらい、馬なら一日くらいかな」
「それは近くないな」
「山だからね。その町はリンゴがいっぱいあって、道の横にもリンゴの木が植えてあるよ」
「取っていいの?」
アマリリスちゃんがすぐ反応する。
「たくさんあるから、少しくらいなら大丈夫だと思う」
「いい町だなあ」
「そこもリンゴで決めるんだ」
食卓で笑いが起きた。
「それから、練習してたところの近くに大きな穴があるよ」
「穴?」
「すごく昔に、空から星が落ちてできた穴」
「星が落ちた?」
「誰も見たことないくらい昔だけどね」
アルガーが聞いた。
「そこから、どうやってこの町まで来たんだ?」
「弓の練習をしてたら、突然こっちに来たの。気がついたら森の中だった」
「転移か?」
「たぶん。何か魔法が暴発したのかもしれないけど、私にも分かんない」
「帰れるのか?」
「今は分かんない。でも、こっちで暮らせるようにはなってきたよ」
デンゼルがしばらくオリビアを見ていた。
「ところで、何歳なんだ?」
「220歳」
二人とも黙った。
「身分証にそう書いてあるよ」
「いや、エルフだから二百二十自体はおかしくないんだが」
デンゼルが言葉を探す。
「話してると、十八くらいだよな」
「見た目もそのくらいですよ」
「エルフって見ただけじゃ歳が分からんからなあ」
アルガーがシチューの器を置く。
「普通のエルフって、もっと何でも知ってるみたいな顔してるだろ」
「それに、あんまり何にでも興味を示さない」
「いつでもできるから急がない、みたいな感じだな」
オリビアはカメリアさんを見る。
「前に、エルフは急がないって言われました」
「言ったねえ」
「オリビアは逆だな。分からないものがあると、すぐ聞く」
「思いついたら見に行く」
「試してみる」
「そんなに違います?」
「かなり」
デンゼルが笑ったあと、少し真面目な顔になった。
「それより、チャトラたちを治したんだろ?」
「うん。チャトラとタマの尻尾と、ミミの耳」
「そこが一番変だ」
「回復魔法が?」
「回復魔法そのものを使えるのはハイエルフくらいだ。しかも、切れた耳や尻尾をあそこまで元通りにするなんて、ハイエルフでも普通はできない」
アルガーが続ける。
「その力を、会ったばかりの獣人三人に使ったんだろ」
「治せたから」
「そこだよ」
デンゼルが苦笑する。
「俺たちみたいな短命種を、エルフがそこまで助けるのはまずない。あいつらからしたら、俺たちなんてどうせすぐ死ぬって感覚なんだろうな」
「ハイエルフなら治せることがあっても、わざわざそこまでしてくれるとは思わない」
オリビアは少し考えた。
「でも、困ってたから」
「だから、話してると十八くらいなんだよ」
「それに肉食ってるしな」
「おいしいよ?」
「そういう問題じゃない」
また笑いが起きた。
アルガーがオリビアの長い耳を見る。
「でも、どこから見てもエルフなんだよな」
「回復魔法まであれなら、ハイエルフなのも間違いないだろ」
デンゼルもうなずく。
「高位貴族じゃないハイエルフなんて、俺は初めて見た」
「俺も」
「家の爵位はあるみたいだけど、高位貴族じゃないよ」
「山の中で弓の練習してて、そのままここへ飛ばされたんじゃ、今の暮らしがこうなるのも仕方ないか」
「うん。まず、この町のことから覚えてるところ」
話している間にも、シチューの鍋はずいぶん軽くなった。
オリビアは二人が狩りの話をしていたことを思い出す。
「私、当分この町にお世話になると思うんです」
「そうみたいだな」
「だから、今度狩りに行くとき、連れていってもらえませんか?」
デンゼルとアルガーが顔を見合わせる。
「狩りなら、明日の朝行くぞ」
「明日?」
「行きたいんだろ?」
「行く!」
「じゃあ朝飯食ったら出よう」
アルガーが指を一本立てた。
「ただし、この辺の獲物は俺たちの方が知ってる。勝手に先へ行かないこと」
「はい」
「熊を見つけたら戦わない。向こうに気づかれる前に離れる」
「分かりました」
オリビアは素直に返事をした。
夕食が終わるころには、二日遅れで帰ってきた二人の顔から疲れも少し抜けていた。
デンゼルとデイジーさん、アルガーとアカシアさんは、それぞれ子どもを連れてしらかば亭を出た。
「あれ、ここに住んでるんじゃないんだ」
「裏だよ」
ダリアちゃんが教えてくれる。
しらかば亭の裏には、四軒が並んだ長屋がある。二組の家族はそちらへ帰っていった。
「また明日ね、オリビアお姉ちゃん」
「うん。おやすみ」
オリビアも二階の自分の部屋へ戻った。
明日は、初めて地元の人と一緒に狩りへ行く。
そのことを考えながら、弓と矢が収納のどこにあるかだけ確認してから眠った。
『オリビア』




