第6章 海峡の船泊
第6章 海峡の船泊
LY 650は帝都の半島を回り、マルマラ海へ出ました。
後ろへ遠ざかる町を見ながら、ミミが言いました。
「ここ、一昨日も通りましたよね」
「通ったよ」
オリビアは操船席から前を見たまま答えました。
「ミズーリで」
「今日は小さいですね」
チャトラが窓の外を見ます。
「20mあるんだけどね」
「ミズーリのあとだと小さく見えます」
「それは仕方ないかも」
タマは残っていた鯖サンドを食べ終えました。
「こっちの船の方が家みたいです」
「寝るならこっちの方が落ち着くよ」
ベラミラ先生は、買った工具をもう1度見ています。
「先生、まだご覧になっているんですね」
「市場では細かく見られなかったので」
「明るいうちに見ておいてくださいね」
「そうします」
*
午後から夕方へ変わるころ、ダーダネルス海峡へ入りました。
両岸が近づき、行き交う船も増えます。
「このまま行けば海峡の外ですね」
チャトラが言いました。
「そうだね」
オリビアは前方を見ています。LY 650は南西へ進み、海峡の先へ向かっているように見えました。やがて左手に町が近づき、オリビアが速力を落とします。
「今日はここ」
「ここで泊まるんですか」
「うん。チャナッカレ」
タマが窓へ近づきました。
「まだ海峡の途中ですよ」
「続きは明日でいいよ」
オリビアは海岸沿いの船溜まりへLY 650を入れました。
地元の帆船や小型船が泊まる一角へ寄せ、係留索を取ります。
「上陸します?」
ミミが聞きました。
「今日はもういいかな。明日の朝、町を見よう」
「じゃあ船で寝るんですね」
「そうしよう」
夕食は収納に入っている料理をサロンへ並べました。
昼に買った菓子も少しだけ出します。
「20個のうちの1個ですか」
チャトラが丸いケーキを見ます。
「全部は食べないよ」
「それは分かります」
タマが笑いました。
前と同じ部屋割りで、オリビアが1室、チャトラとタマが1室、ベラミラ先生とミミが1室を使いました。
窓の外では、海峡を通る船の灯りがゆっくり動いていました。
*
翌朝、5人は早めに起きました。
「今日は朝ごはん、外で探そうか」
「賛成です」
チャトラの返事が早い。
5人は上陸しました。
オリビアは最後に係留索を外し、重力魔法でLY 650を水面から少し持ち上げます。船底から海水が落ちたところで収納しました。
さっきまで白い船がいた場所には、水面だけが残りました。
「行こう」
朝の町へ入ると、市場には野菜や果物、パン、乳製品、魚が並んでいました。ミミが果物の山を見つけます。
「これ、買っていいですか」
「好きなの選んで」
葡萄、桃、イチジク。食べる分とは別に、いくつか箱でも買って収納へ入れました。
チャトラは焼きたてのパンを持っています。
「朝ごはん、これでいいです」
「チーズも買おう」
タマが隣の店を指さしました。
ベラミラ先生は酒を並べた店の前で止まりました。
「これ、香りが強いですね」
透明な酒の瓶です。
オリビアも香りを確かめました。
「アニスでしょうか。ウゾですね」
「ギリシャのお酒ですか」
「はい。この辺は海を挟んで向こうが近いので、入ってくるんだと思います」
「1本買います?」
「何本か買っておきましょう」
オリビアは数本まとめて買い、収納へ入れました。
先生が少し笑います。
「昨日は唐辛子、今日はお酒ですね」
「先生向けのものが増えていますね」
「歓迎します」
*
朝市を一通り見たあと、5人は町から少し離れた開けた場所へ歩きました。周囲に人がいないことを確かめて、オリビアが5人乗りの軽ヘリコプター、Bell 505を出します。
「今日はこれでカッパドキアまで行くよ」
チャトラが地図を見ました。
「かなり遠いですよね」
「700km以上ある」
「このヘリで届きます?」
「普通なら途中で燃料を考えたい距離だけど、今日は重力を使う」
ベラミラ先生が機体を見ます。
「前に使っていた方法ですね」
「はい。少し調整します」
荷物は全部収納に入っています。5人が乗り込み、オリビアはエンジンを始動しました。
ローターの回転が上がります。
「この音、やっぱり大きいです」
ミミが言いました。
「外だともっと大きく聞こえるよ」
オリビアは計器を確認し、機体を低く浮かせました。機体と乗っている5人にかかる重力の有効値を小さくし、さらに重力の向きをほんの少し進行方向へ傾けます。ベラミラ先生が計器へ目を向けました。
「前へ引っ張るんですか」
「引っ張り続ける感じではないです。巡航に入ったら、空気抵抗で失う分を少し前向きの重力で受け持たせます」
「ローターが前へ進むために使う力を減らすんですね」
「そうですね。上向きに支える分も軽くなるので、両方で燃料を節約できます」
計器を見ながら重力の向きを細かく合わせます。
「このくらい」
エンジンの負荷が下がりました。
「変わりましたね」
「これなら、だいぶ楽になります」
オリビアは機首を東へ向けました。
Bell 505はチャナッカレを離れ、内陸へ向かいました。
更新をお待ちいただいている間のおまけに、数分で読める技術・生物ネタの超短編を二本置いてあります。
「ひとつだけ残した卵」と「王子様は美しい人魚姫と結婚しましたが?」です。気分転換にどうぞ。
タイトルは、
ep1 彼氏はいませんが可愛い息子が生まれました。 ep2 王子様は美しい人魚姫と結婚しましたが?
で魔法少女3作品にシリーズ登録しています。




