第4話 ロビー活動って悪い事じゃないの?
第4話
「ロビー活動って悪いことじゃないの?」
月曜日。
午前九時十二分。
ヤタガラス本社会議室。
久世トウマが、珍しく朝から難しい顔をしていた。
珍しく、というのは失礼かもしれない。
普段から難しい顔はしている。
ただ今日は、その難しさが三割増しだった。
大型モニターには、政府機関のウェブサイトが映っている。
画面上部。
《民間危機管理事業者の海外活動に関する新たなガイドライン案》
九条ホオズキが椅子にもたれた。
「長い」
久世が言う。
「タイトル?」
「全部」
「まだ一行目だよ」
「もう疲れた」
黒崎がコーヒーを飲む。
「読め」
ホオズキは露骨に嫌そうな顔をした。
久世が資料をスクロールする。
「政府が、海外案件を扱う民間危機管理事業者について、新しい事業者基準を検討してる」
「へえ」
「へえ、じゃない」
次のページ。
そこには検討項目が並んでいた。
《海外活動に伴う高額賠償責任保険への加入》
《一定数以上の常勤専門職員》
《専用訓練施設の保有》
《一定水準以上の情報管理システム》
《複数国における現地連絡拠点》
《継続的な監査体制》
《財務健全性に関する基準》
ホオズキ。
「……」
黒崎。
「……」
久世。
「……」
ホオズキが指を一本立てた。
「質問」
「どうぞ」
「うち、何個クリアしてる?」
久世が数える。
「完全にクリアしてるのは……」
沈黙。
「……二個くらい?」
「少なっ」
「部分的に満たしてるのを入れれば四個」
「増えた!」
「でも必須条件になったら意味ない」
「減った!」
ホオズキが机に突っ伏した。
久世は冷静に続けた。
「まだガイドライン案。確定じゃない。ただ、このまま通った場合――」
別の資料を出す。
ヤタガラスが現在受注している案件一覧。
海外要人警護。
危険地域での企業警備。
邦人退避支援。
船舶警備。
危機管理コンサルティング。
そのかなりの部分に、赤い印が付いた。
ホオズキがゆっくり顔を上げる。
「赤いの何」
「新基準だと参加できなくなる可能性がある案件」
「ほとんど赤いじゃん」
「だから言ってる」
「うち会社じゃなくなるじゃん」
黒崎が言う。
「何になるんだ」
ホオズキは考えた。
「武装した便利屋」
久世。
「今もそんなに変わらない」
「おい」
さらに久世が資料を拡大する。
「特に厳しいのがこれ」
《常勤専門職員三百名以上を目安とする》
ホオズキ。
「三百?」
黒崎。
「うち何人だ」
久世が答える。
「数え方にもよるけど、全然足りない」
「雑」
「だって全然足りないから」
次。
《自社保有の専用訓練施設》
ホオズキ。
「借りちゃ駄目なの?」
「現案では、自社施設保有が望ましい、って書いてある」
「土地買えってこと?」
「そういうことになる」
「いくら?」
久世が無言で視線を逸らした。
「ねえ、いくら?」
「場所による」
「東京近郊」
「聞かない方がいい」
「分かった」
さらに次。
《海外における常設連絡拠点三か所以上》
ホオズキ。
「三か所」
黒崎。
「グリムニルは?」
久世。
「世界中にある」
ホオズキ。
「ずるい」
「何が」
「世界中に会社あるのずるい」
「企業規模の差をずるいで片づけるな」
ホオズキは腕を組んだ。
「誰だよ、こんな大企業しか通れない基準考えた奴」
久世が少し言いにくそうに画面を切り替える。
そこには審議会資料。
有識者会議。
業界ヒアリング。
参加企業。
参加団体。
その中に、
《GRIMNIR SECURITY INTERNATIONAL JAPAN》
の文字。
ホオズキの目が細くなった。
「いた」
黒崎。
「何が」
「犯人」
久世。
「犯人じゃない」
ホオズキは立ち上がった。
「グリムニルじゃん!」
「だから犯人扱いするな」
「完全にロビー活動じゃん!」
久世が眼鏡を押し上げる。
「まあ、広い意味ではそうだね」
「ほら!」
「でもロビー活動そのものは違法じゃない」
「え?」
ホオズキの動きが止まる。
黒崎も久世を見る。
「違法じゃないのか」
「普通に合法」
沈黙。
ホオズキ。
「……悪いことじゃないの?」
久世。
「場合によるけど、少なくとも企業や業界団体が政策について意見を出すこと自体は普通」
「ドラマだと悪そうな政治家に封筒渡してるじゃん」
「それはロビー活動じゃなくて、だいたい別の犯罪」
「そうなの?」
「そうなの」
その日の午後。
ヤタガラスはグリムニル日本法人へ問い合わせた。
電話口。
ナディア・ハダッド。
外交・契約部長。
穏やかな声。
「はい。弊社は当該ヒアリングに参加しております」
ホオズキ。
「認めた!」
ナディア。
「何をでしょう」
「ロビー活動!」
「そうですが?」
ホオズキの勢いが止まる。
「……そうですが?」
「はい」
「もっとこう、誤魔化さないの?」
「なぜですか?」
「いや、ロビー活動って悪いことでしょ」
電話の向こうで数秒の沈黙。
ナディアは本気で意味が分かっていないようだった。
「九条さん」
「はい」
「審議会に参加することの、どの部分を問題視されているのでしょうか」
「え」
「私どもは政府の要請を受け、現場データと事故統計、海外制度との比較資料を提出しました」
「うん」
「業界団体を通じて意見書も提出しました」
「うん」
「パブリックコメントも行いました」
「うん」
「説明会にも出席しております」
「全部やってるじゃん!」
「はい」
「完全にロビー活動じゃん!」
「ですから、そう申し上げています」
ホオズキが受話器を押さえた。
「久世」
「何」
「この人強い」
「知ってる」
ナディアは続ける。
「制度を設計する行政側が、すべての現場事情を把握しているとは限りません」
ホオズキ。
「まあ」
「ですから、制度を作る人間へ現場情報を提供する」
「うん」
「必要な規制と、不必要な規制を区別できるよう材料を出す」
「うん」
「それも企業の仕事です」
ホオズキは黙った。
理屈としては。
正しい。
ものすごく正しい。
だから腹が立つ。
「でもさ」
「はい」
「グリムニルに有利な基準になってない?」
「当然、弊社に有利な意見も提出しています」
「認めるんだ!?」
「弊社にとって合理的だと考える制度案を提出することに、何か問題が?」
「開き直りがすごい!」
「ただし」
ナディアの声色は変わらない。
「最終的に判断するのは政府です」
「……」
「弊社が意見を出す自由があるのと同様に、御社にも意見を出す自由があります」
ホオズキ。
「うち、呼ばれてないけど」
ナディア。
「自分から行けばよろしいのでは?」
また沈黙。
ホオズキが久世を見る。
久世もホオズキを見る。
黒崎も二人を見る。
ホオズキ。
「……自分から行っていいの?」
久世。
「いいよ」
「知らなかった」
電話の向こうからナディア。
「今まで何をされていたのですか?」
「制度が決まってから文句言ってた」
「遅いです」
即答だった。
ホオズキ。
「言い方!」
電話終了。
会議室。
沈黙。
ホオズキが椅子にもたれる。
「負けた気がする」
久世。
「実際かなり負けてる」
「もっと優しく言って」
黒崎が資料を見る。
「で、どうする」
久世が答える。
「意見を出すしかない」
ホオズキ。
「ヤタガラス単独で?」
久世は首を振った。
「それだと弱い」
「じゃあ?」
久世は画面に業界構造を出した。
大手危機管理会社。
中堅警備会社。
医療搬送会社。
海運会社。
航空会社。
海外コンサルタント。
訓練会社。
警備機器会社。
通訳会社。
小規模PMC。
「今回の基準で困るの、うちだけじゃない」
ホオズキが画面を見る。
「……多いな」
「大企業なら自社で全部持てる。でも中小企業は必要な機能を外部企業と組んで補ってる」
たとえば。
自社で救急搬送機を持っていなくても、
医療搬送会社と契約すればいい。
自社訓練場がなくても、
認定訓練施設を借りればいい。
海外拠点がなくても、
現地企業と提携すればいい。
巨大な情報システムがなくても、
外部の専門事業者を利用できる。
久世が言う。
「問題は、安全性を高めることじゃない」
「何?」
「安全性の確認方法が、大企業の会社構造を前提にしてること」
ホオズキが少し考える。
「つまり」
「うん」
「金持ちしか参加できないルールになってる?」
「かなり乱暴に言えば」
「じゃあ言おう」
「誰に」
「みんなに」
翌日。
ヤタガラス営業部。
電話が鳴り続けた。
「はい、PMCヤタガラスです」
「はい、新ガイドラインについてなんですが」
「いえ、怪しい団体ではありません」
「武装蜂起もしません」
「政府に殴り込みにも行きません」
「合法的な意見交換会です」
「はい」
「本当に合法です」
電話を切る。
別の電話。
「はい」
「ええ」
「九条が言い出しました」
「大丈夫です」
「本人を会議ではなるべく喋らせません」
ホオズキ。
「聞こえてるぞ」
数日後。
小さな会議室。
参加者二十七社。
中小警備会社。
医療搬送会社。
船舶警備会社。
危機管理コンサルタント。
訓練会社。
通訳会社。
そしてヤタガラス。
ホオズキがホワイトボードの前に立つ。
大きく書かれていた。
《日本危機管理事業者連絡会》
黒崎。
「名前、固いな」
久世。
「信用第一」
ホオズキ。
「もっとカッコいい名前なかった?」
「例えば?」
「ヤタガラス連合」
会場から反対の声が上がった。
「嫌です」
「御社の下部組織みたいになる」
「絶対嫌」
「即答多くない?」
久世が話を進める。
「目的は、新ガイドラインに反対することではありません」
参加者たちが頷く。
「むしろ安全基準の強化には賛成する」
ホオズキ。
「え、賛成なの?」
久世が睨む。
「そこから?」
「いや、規制なくそうぜって会かと思った」
「違う」
医療搬送会社の社長が言う。
「規制が緩すぎても困りますからね」
船舶警備会社の役員も頷く。
「事故を起こす会社が出れば、業界全体の信用が落ちる」
警備会社。
「問題は基準の作り方です」
久世。
「その通りです」
ホワイトボード。
現行案。
《常勤専門職員三百名以上》
代替案。
《企業規模ではなく、事故率・訓練実績・任務遂行実績による評価》
ホオズキ。
「人数多くても駄目な会社は駄目」
久世。
「言い方」
次。
現行案。
《自社専用訓練施設の保有》
代替案。
《認定基準を満たす外部訓練施設の継続利用でも可》
訓練会社の代表。
「これなら施設そのものを第三者認証すればいい」
「そうです」
「小規模企業でも安全水準は維持できる」
次。
現行案。
《海外常設拠点三か所以上》
代替案。
《常設拠点、現地提携企業、緊急連絡網などを含め、一定時間以内の即応能力で評価》
ホオズキ。
「建物の数じゃなくて、何時間で動けるか」
久世。
「それ」
次。
現行案。
《自社情報管理システム》
代替案。
《第三者認証を取得したクラウド・外部情報管理サービスの利用も可》
ホオズキ。
「サーバー持ってる会社が偉いわけじゃない」
IT担当者。
「今どきむしろ外部の方が強い場合もあります」
ホオズキ。
「そうなの?」
「あります」
「じゃあうちも全部外に――」
久世。
「今はそういう話じゃない」
会議は三時間続いた。
途中。
ホオズキが資料に飽きた。
十五分後。
お菓子を食べ始めた。
三十分後。
ホワイトボードの端に鴉の絵を描いた。
四十五分後。
その鴉にサングラスを付けた。
久世。
「社長」
「はい」
「消して」
「上手くない?」
「消して」
だが。
意見書そのものは、次第に形になっていった。
重要なのは、
《規制に反対》
ではない。
《規制目的を達成する別の方法》
を提示することだった。
事故を減らしたい。
なら事故率を見る。
訓練水準を確保したい。
なら認定制度を作る。
海外で迅速に動ける企業を選びたい。
なら会社の支店数ではなく、実際の即応時間を見る。
情報漏洩を防ぎたい。
ならシステムを自社所有しているかではなく、安全基準を満たしているかを見る。
久世が言う。
「行政側が欲しいのは、反対意見じゃない」
ホオズキ。
「じゃあ何」
「代案」
「面倒くさい」
「社会だからね」
「殴った方が早いのに」
会場全員が言った。
「駄目です」
数週間後。
《日本危機管理事業者連絡会》
正式発足。
加盟企業。
四十八社。
共同意見書。
百二十七ページ。
ホオズキ。
「長い」
久世。
「グリムニルの資料より短い」
「それ聞くと急に安心する」
提案書は担当省庁へ提出された。
ヒアリング。
ヤタガラスからは久世。
医療搬送会社。
訓練会社。
船舶警備会社。
複数企業が出席した。
ホオズキも来た。
久世。
「絶対余計なこと言わないで」
「信用ないな」
「ない」
「社長だぞ」
「だから心配してる」
会議開始。
行政担当者が質問する。
「御団体としては、常勤人員数による基準を撤廃すべきとのご意見でしょうか」
久世。
「撤廃ではありません」
資料を開く。
「一定規模の人員を持つことは、継続的な運用能力を測る指標の一つだと理解しています」
「では?」
「ただし、それを唯一の参加要件にすると、専門能力の高い中小事業者が一律で排除される可能性があります」
担当者が頷く。
久世。
「例えば医療搬送では、自社ですべての医師・航空機・設備を保有する必要はありません。重要なのは、契約発生時に必要な能力を組み合わせて提供できるかです」
医療搬送会社が補足する。
訓練会社が続ける。
船舶警備会社が事例を出す。
数字。
事故率。
応答時間。
契約実績。
海外制度。
いつの間にか、
かなりまともな政策提言になっていた。
ホオズキは後ろで黙っている。
五分。
十分。
十五分。
久世がちらっと見る。
まだ黙っている。
奇跡だ。
二十分。
行政担当者。
「では最後に、九条代表から何かございますか」
久世の顔が凍った。
ホオズキ。
「あります」
久世が小声で言う。
「ないです」
ホオズキ。
「ある」
「ない」
「ある」
担当者。
「どうぞ」
ホオズキは少し考えた。
そして言った。
「でかい会社が安全とは限らないです」
久世が目を閉じた。
終わった。
と思った。
しかしホオズキは続ける。
「うちみたいな会社でも、ちゃんと仕事する会社はある」
会場が静かになる。
「逆に、人が千人いて、建物いっぱい持ってて、支店いっぱいあっても、事故る会社は事故る」
担当者がメモを取る。
「だから」
ホオズキは資料を指で叩いた。
「持ってる物じゃなくて、できることを見てほしいです」
久世が目を開ける。
ホオズキ。
「以上」
着席。
久世が小声で言う。
「まともだった」
「どういう意味だよ」
「褒めてる」
一か月後。
修正版ガイドライン案が公表された。
ヤタガラス会議室。
久世が読み上げる。
「常勤人員要件――」
変更。
一定数以上の人員を原則とする。
ただし、
業務委託体制。
契約専門家。
提携企業。
過去実績。
即応能力。
これらを総合的に評価可能。
ホオズキ。
「通った?」
「かなり」
次。
自社訓練施設。
変更。
《認定された外部訓練施設の継続利用を含む》
ホオズキ。
「通った!」
次。
海外拠点。
変更。
《常設拠点数に加え、現地提携体制及び一定時間内の即応能力を評価》
黒崎。
「これもだ」
久世。
「うん」
次。
情報システム。
《第三者認証を受けた外部サービス利用可》
ホオズキは立ち上がった。
「生き残った!」
ヤタガラス社内。
拍手。
「やった!」
「案件取れる!」
「会社残る!」
「給料出る!」
ホオズキ。
「最後だけ切実だな!」
その日の午後。
久世のもとへ、一通のメールが届いた。
送信者。
ナディア・ハダッド。
添付資料。
《日本危機管理事業者連絡会 政策提言書》
ホオズキが覗き込む。
「何て?」
久世が読む。
「『提案内容を拝見しました』」
「うん」
「『企業規模ではなく実効的能力を評価軸に含める点について、とても良い提案だと思います』」
ホオズキ。
「……」
久世。
「『特に認定訓練施設制度については、中小事業者の参入機会を確保しつつ、安全水準を維持できる現実的な方式です』」
ホオズキ。
「……」
黒崎。
「褒めてるな」
ホオズキ。
「何でだよ」
久世。
「何でって」
「敵だろ」
「競合企業ではあるね」
「だったら悔しがれよ!」
そこへ電話。
ナディアだった。
ホオズキが出る。
「もしもし」
『九条さん』
「はい」
『ガイドライン案の修正を拝見しました』
「見た」
『御社側の提言がかなり反映されていますね』
「おかげさまで」
『おめでとうございます』
「何で祝うんだよ!」
ナディア。
『何か問題が?』
「普通、ライバルが有利になったら嫌でしょ!」
『弊社が有利であることと、御社が不当に排除されることは別問題です』
ホオズキ。
「……」
『競争するのであれば、能力で競争すべきでしょう』
「……」
『制度で競合企業を消しても、グリムニルのサービス品質が向上するわけではありません』
ホオズキは受話器を少し離した。
「久世」
「何」
「やっぱこの人やりにくい」
電話の向こうからナディア。
『聞こえています』
「耳いいな!」
『それと一点』
「まだあるの?」
『次回の業界ヒアリングには、御社も直接参加された方がよろしいと思います』
「また?」
『制度は今後も変わります』
「面倒くさいなあ」
『企業経営ですから』
「もっと楽な方法ない?」
『ありません』
即答。
電話終了。
ホオズキは天井を見た。
「会社経営ってさ」
久世。
「うん」
「仕事取って、仕事すればいいんじゃないの?」
黒崎。
「違ったな」
「銀行行って」
「うん」
「入札して」
「うん」
「役所に意見出して」
「うん」
「保険入って」
「うん」
「法律読んで」
「うん」
「いつ戦うんだよ」
久世。
「経営してる時点でずっと戦ってるんじゃない?」
沈黙。
ホオズキは少し考えた。
「……地味」
黒崎。
「現実だ」
数日後。
《日本危機管理事業者連絡会》
定例会。
議題。
《今後の制度改正に対する継続的意見交換について》
ホオズキ。
「また会議?」
久世。
「毎月」
「毎月!?」
「業界団体ってそういうもの」
「解散しよう」
参加企業四十八社。
全員。
「駄目です」
ヤタガラスはその日、
また一つ学んだ。
規制とは、
上から突然降ってくる自然現象ではない。
誰かが考え、
誰かが意見を出し、
誰かが数字を示し、
誰かが反論し、
そうやって形になっていく。
大企業がそこへ参加するなら、
中小企業も参加すればいい。
一社で弱ければ、
集まればいい。
文句を言うだけでは、
制度は変わらない。
代替案を作り、
数字を出し、
現場を説明する。
それもまた、
競争だった。
ホオズキは百三十四ページある次回資料を見た。
「……戦場の方が楽じゃない?」
久世。
「多分、社長にはね」
黒崎。
「撃てば終わるからな」
ホオズキ。
「そうなんだよ」
久世。
「役所で絶対言わないでね」
ホオズキ。
「分かってるって」
三秒後。
「ところでロビー活動って、経費になる?」
久世。
「そこから勉強しようか」
ヤタガラスの戦場は、
今日も見積書の上だけではなかった。
時には、
意見書の上にもある。
そして意見書には、
だいたい見積書より多くの文字が書いてあった。
ホオズキにとっては、
そのことが一番の問題だった。




