8話目 みんなのもの
派手に仰天した声はスゥだった。
「なんで、ポン吉!? 全部掘り出したから全部あたしたちのだよ!」
「いいや。『みんなのもの』だよ」
僕は黄色の看板を指差した。
「みんなの力で掘った。仮にミノルくんがいなくても、この宝石は置いておくつもりだったよ」
「ええええーっ!? なんで!?」
「この鉱山は、そういうふうに出来てると思うからさ」
全てを取ったり、独占したりはダメなんだろう。
欲張りは、結局全部を失うのだ。
「ここでは宝石を残す。だからいいんだ」
「だってポン吉~! それ、あたしたちが掘ったんだよ~!?」
スゴい力でそでにすがるスゥ。
「あたしたちがもらっといていいじゃ~ん!!」
「ん~……ミノルくん?」
「はい」
僕は、宝石2個をミノルくんの方へとスライドさせた。
「これは、君の取り分だよ」
「え!? ボクは残りますよ!?」
「だからさ。取ったのは10個だろ? 2個はミノルくんのものだ」
すがってくるスゥの頭を、フードごしになでた。
「スゥ。これならいいかな?」
「うぅ~……。すごくイヤだけど……、わかる」
スゥは未練たらたらでカウンターの宝石を見つめていた。
「ねぇ、ミノル。本当にあたしたちと来ない?」
「ごめんなさい。ボクは受付ですから」
「あうぅ……」
スゥはすごすごと撤退した。――うん、君がいてくれて良かった。
「あ、みなさん」
ミノルくんが手を叩いた。
「この宝石を使って、ボクらは遊びをしているんですけど、参加されますか?」
「遊び?」
「はい、こちらです」
ミノルくんが、背後の岩肌に手をかけると、ガコンと切れ目が入った。
「扉だったのか」
「はい。ここでみんな遊んでますよ」
隠し扉の奥は、細い通路の先で直角に折れ曲がっており、それ以上を窺い知ることはできない。
タクローがキュイィィとスキャンしていたが、動きを止めた。
「――ワタシノ調査ガ出来マセン。ココカラ先ハ、別エリアノヨウデス」
「なるほど。タクローの偵察も、部屋を跨ぐとムリだったか」
扉の向こうは、まさしく「別の部屋」なのだろう。
「あたし、遊びたい!」
スゥはもう行く気満々だ。
L:宝石で賭け事だと? ふっ、腕が鳴るぜ
「Lがどうやって参加するって?」
でもまあ、みんな行きたいのは分かった。もちろん僕も行ってみたい。
僕らはミノルくんにお礼を述べたのち、扉の奥へと足を踏み入れた。
「うん?」
次の部屋へ一歩進んだとき、ぐにゃりと空間が歪むような感覚があった。
「ワープみたいなもの、かな」
試しに153へ戻ろうとするも、見えない圧によってじりじりと押し返される。
「僕らの旅は前進あるのみらしいね」
「あたしはOKだよ、色んなところに行きたいもん」
「スゥは最初、戻ろうって言ってなかった?」
「にゅっふっふ。柔軟に変わるのがあたしの良いところ」
はいはい、都合の良いところだよね。
僕らが突き当たりを曲がると、そこは子供精霊たちによる遊び場が展開されていた。カードゲームやボードゲーム、ルーレットもある。
受付の女性だけは、大人の姿だった。
「ポン吉~、また受付の横に看板2つだよー」
「ああ。鉱山と似た造りだね」
まずは、いつもの白看板を見た。
――――――――――――――――――――
154 カジノ
・宝石を賭けた勝負で勝つ。
――――――――――――――――――――
――驚いた。誰かクリア済みじゃん。
あと、さっきは通常クリアが155だったから、特殊のほうが手前のナンバーってときもあるんだね。
続いて、鉱山にもあった黄色看板を見た。
――――――――――――――――――――
カジノの遊び方
宝石を賭けて遊びます。
宝石がなくなったら帰りましょう。
――――――――――――――――――――
「――帰る?」
どういうことだ?
ちょうどその時、カードで遊んでいた精霊の1人が、「うあー」とカードを放り投げて机に突っ伏した。他の精霊が宝石を全部回収し、ゼロになった精霊は「キュゥ……。みんな、じゃあね~」と、僕らのいた隠し通路をとぼとぼ通って鉱山に行く。
L:なんか今、俺らの世界でもよくある悲哀を見た気がする
「カジノでの第一コメントがそれかい」
L:趣味のために仕事でカネ稼いでる人間とか、いっぱいいるだろ
「まあね」
けれども、僕らは戻れない。宝石を失ったら、おそらく終了だろう。
「L。誰かがこの部屋をクリア済みなんだけど、どういうクリアだったか分かる?」
L:ああ、国内最高到達のチームだったな
L:151から来た2人組が、道中でゲットした宝石1個を賭けて戦ったらしい
L:で、勝ったはいいが、次の156が闘技場で、キマイラと戦わされてな
「うげ……」
L:山羊の角で跳ね上げられて、ヘビの尻尾に噛み付かれて、ライオンに炎吐かれて死亡だ
「う~ん、動物系の敵は困るな。Tシールドも、スゥの《透明》も通じなさそうだし」
ミーシャよりは勝ち目ある? ――いや、そもそも、156へ行くのを回避すべきだろう。
「とすると……、鉱山での8個ゲットを活かしたいね」
僕が受付を見ると、そこの女性がニコリと笑って、後ろの棚が見えるよう脇にどいてくれた。
「景品か。悪魔の羽と尻尾が宝石100個、精霊の疲労回復薬が宝石12個、と」
L:菓子との交換で宝石1個はないか?
「ないない」
まあおそらく、「景品と交換する」のが特殊クリアの条件だろう。他に考えられる条件は「宝石を100個にする」などだから、目指すものは結局一緒だ。
大勝ちすること。
「あたし、あれやる~!」
スゥが指差したのは、宝石を投げておもちゃを取るゲームだった。
「これも縁日っぽいね。スゥは得意だったの?」
「うまくいった覚えはないけど、楽しそうだからやる!」
「――じゃあ、1回だけね」
スゥは宝石を持って人形ゲットに賭けた。
ぽーい。
宝石はあらぬ方向へと飛んでいく。
「い、今のは練習!」
もちろん、宝石は支払い、スゥは2個目も明後日の方向に投げていた。
「――全然面白くない」
手首のスナップが大事かな。
僕は色んなゲームを見て回り、ひときわ子供精霊が集まってるゲームへと行った。
「ふふふ、おいらの勝ち~」
「はう、また負けたぁ」
どうやら「よくばり者の死」というゲームらしい。15個以上の宝石で3つの山を作り、最後の1個を取ったほうが負けのようだ。
テンガロンハットを被った子供精霊が、宝石の山を前にふんぞり返っている。丸っこい緑の体には、全身にトゲが生えていた。
――サボテンのギャンブラーか。
「さあさあ、このアガベ様に挑む奴はいないか~? 今なら、賭け金の倍払うぞ~?」
「それなら、僕がやろう」
新参者の挑戦に、精霊たちは大いに沸いた。
◆
「う~ん、僕の負けだ」
◆
「あちゃ、また詰んだ」
「ポン吉~、ヘタクソじゃ~ん」
「大丈夫だよスゥ、もう一回やろう!」
「それ、あたしが言ったパターンだし!」
「今度は勝てるさ! きっと!!」
僕は次に、宝石3個を賭けた。
◆
「おいらの勝ち~!」
「んー、またもや負けちゃったかー」
「勝負はこれで、5分5分だな!」
「そうだねえ」
たしかに、勝率は5割だった。
けれど、リターンが倍なので、宝石は順調に増えている。もちろん、獲得分はすぐさまリュックに仕舞っていた。勝ちすぎてる印象を与えないために。
ありがとう、アガベ。君が宝石持ちで本当によかった。みんなからかき集めると大変だったからね。金払いのいい富豪から取るのが一番効率的だよ。
なお、僕はTRPGのミニゲームで散々この手のゲームをやったことがあり、必勝法も知っていた。




