4話目 報われるのが確定だなんて、泣けちゃうぐらいに優しいさ
僕の配信が大バズりしていた。まる。
「――いやいや、増えすぎでしょ!」
「ポン吉、どったの?」
「えっとね、スゥ。僕らの配信を見てる人が、100万人もいるらしいんだ」
「えーっ!? スゴイじゃん、ポン吉! ヤッホー!」
スマホに向かって骨の手をブンブン振っていたスゥだが、やがて首を傾げた。
「……コレ、本当に見られてる?」
「あー、リアクションがないと分かりづらいよね」
これまでのイベントと言えば、スゥに出会って、耳をつけて、ミーシャの悪魔退治に付き合ったくらいだ。
コメントも流れないし、100万人の数字に現実味がないのは僕も同じである。
L:よお、主演俳優と女優よ!
「出たな、極悪GMめ」
L:ん~? 有言実行の天使GMがどうしたって~?(幻聴
「じゃあ、ペ天使GM。なんでこんなに視聴者が増えたのさ?」
L:そりゃあもう、『熊クリア』からの新ルーム突入で、外が大騒ぎだからだな!
L:一躍、時の人ってワケだ!
「ふーん。なんか、人生で一番注目されてる気分だよ」
でもこれは、一時的なものだろう。
さらに凄い探索者が出てきたら、すぐ忘れ去られるぐらいのね……ん?
「――ケテ。タ、ス……ケ、テ……」
機械音声みたいな、抑揚のない声。
「ポン吉~、なんか聞こえたよ?」
「うん。『助けて』かな」
「小さい声なのに、よく分かったね」
「そういえば、確かに」
タヌキ耳の効果かな?
モフモフ耳を軽くなでた僕は、軍手をはめた。
スゥと一緒に、ガレキの山を登っていく。
「たしか声は、この辺りから……。もし踏んでたらゴメンね」
慎重にガレキをどけると、奥から鈍い銅色の球体が現れた。
中心の赤いランプが、まるで心臓のように明滅している。
「えぇっと、そこのセパタクローっぽい君かな? 助けてって言ったのは」
「ソウ、デス……」
そっと両手で取り出すと、赤い光が弱々しく揺れた。
「ケレドモ、モウ、ダメ……」
「どうして?」
「ワタシニハ、ねじガ、アリマシタ……。ケレド、1コ、ナクシマシタ……」
「ネジ、か」
僕はガレキの山を見回した。
「特徴はある?」
「……サガスノ、デスカ?」
「もちろん」
「えぇ~っ!?」
悲鳴を上げたのはスゥだった。
「ポン吉、ネジって知ってる!? 絶対こんぐらいだよ!?」
小指の骨を外して見せるスゥ。
「しかも、この山のどっかって! どけた物までジャマになるよ!」
「たしかに、別の場所へ置かないとね」
僕は隣の平地を指した。
「あそこに置いとこう」
「うえぇーっ!? あたし、超ヨケーなこと言った!?」
「いや、ナイスアイデアだよ」
静かに球体を置いた僕は、「見た目は普通だけど専用の特殊ネジ」と確認を取ったのち、ガレキを運び始めた。
目覚まし時計。
電気ポット。
割れた板。
スゥも途中から、ふて腐れつつも手伝ってくれる。
「モウシワケ、ナイ……」
背後で機械音声がした。
「ワタシノ、ねじハ、ミツカラナイ……。ソット、シトイテ……」
「そんな風に思いながらも、『助けて』って声が出たんだよね?」
赤いランプが、かすかに揺れた。
「ナゼ、ソコマデ……」
「ぶっちゃけ、これがクリア条件っぽいからさ」
L:うはっww 台無しだwww
「うるさいね、この悪友は」
スマホを一瞥し、即しまう。
「でも、『必ずネジがある』って分かってるのは、優しいよ」
「……ヤサシイ?」
「うん。報われるのが確定だなんて、泣けちゃうぐらいに優しいさ」
現実は、違う。
頑張っても、徒労に終わることなんて山ほどある。
でも、ここでは“ある”と分かっている。
「だから、僕は探せるんだ」
「僕『ら』ね!」
スゥが大声で訂正した。
「それと、さ……? 1人で寂しいときに、『助けて』って言う気持ち、ちょっと分かるから」
「スゥ……」
「だから、助けてあげたいかなぁって」
「――いい子だね、スゥは」
「えっへへ~」
照れ笑いしたスゥは、銅色の球体へ向き直った。
「ねえ。ところであなた、名前は?」
「ナマエ……。ジョウホウ、タンマツ、でばいすト、イイマス……」
「なっが~い!」
スゥはほほを膨らませた。
「あたしなら、スゥ! ポン吉なら、ポン吉! そういった、呼びやすい名前!」
「ケンサクチュウ……。トクニ、ナシデス」
「そっかあ」
スゥは球体をじっと見た。
「じゃあ、タクローだね!」
僕は怪訝な顔をした。
「――スゥ、なんで?」
「だって、ポン吉がさっき言ってたじゃん。『なんとか、たくろー』って」
「ああ、セパタクローね」
「ほら~! だからタクロー!」
自信満々の命名だった。
「ワタシノ、ナマエガ……たくろー……」
球体の内部が、キュイインと鳴る。
「セッテイ、カンリョウ。ワタシノ、ナマエハ、たくろーデス」
「わ~い! あたしが名付け親~!」
スゥがぴょんぴょん跳ねた。
「ねえ。じゃあタクローは、なんでここにいたの?」
「マエノ、アルジガ、シュウリ、シマシタ……」
「うんうん」
「デモ、ねじガ、ナクナッテ、ステラレマシタ……」
「ありゃ~」
――ん?
「あのさ、タクロー。前の主とやらが修理してた場所って、ここじゃないよね?」
「ほえ?」
「だって、ネジをなくした時点だと、まだ修理中だったハズだから。わざわざココに昇って作業しないでしょ?」
「あっ……、ホントだ!」
タクローのランプが明滅する。
「――タシカニ。シュウリ、シテタノハ、アナタタチガ、モノヲ、オイテイル、バショデシタ……」
「やっぱり!」
僕は勢いよく山を下りた。
「よーし、俄然やる気が出てきたぞー!」
「なぁんだ、ポン吉もしんどかったんじゃ~ん」
スゥもタクローを抱えて下りてくる。
「でも、この平地だって広いよ? 頑張って探さないと」
「そこは、持ってきたヘッドライトを使おう」
「ほえ? 暗くないよ?」
「うん。明るくするためじゃないんだ」




