3話目 くまVS人間
「同朋よ。この小屋に、人間どもが襲撃してくる」
「うん、そこをミーシャと一緒に撃退するんだね? いいよ」
「ありがとう、ポン吉」
ミーシャと名乗った熊人は、「装備を調える」と言い残して別の部屋に行った。僕は胸ポケットからスマホを出す。
L:イヤ~、笑ったな!(耳だけに
L:おーっと。遅くなったが、ハッピーニュー「イヤー」!
「初っ端からダジャレかい」
L:おいおい、バイリンガルは知的だろ?(伊達めがねクイッ
L:ったく、熊め。耳を疑わないなんて耳を疑うぜw
「笑い事じゃないってば」
参ったね。さっきは安請け合いをしたけどさ。
「熊退治に来たのが普通の人だったら……、僕は戦えない。自決するよ」
L:思いつめんでもいい気はするがね
L:人型モンスターだっていっぱい殺したろ
「それはTRPGの話。ここは、異空間だろうと現実だよ」
そう、現実だった。スゥと握手したときの骨の感触も生々しかったし、ミーシャの嗅覚で探り当てられたときなど、生きた心地がしなかった。
「僕だって命は惜しいから、盾ぐらい構えるけどさ」
L:おー、Tシールドか
「テック同好会を巻き込んで作った、スゴイ改造鍋だよね」
ティファールの新しい鍋を買った先輩が、古い方(こっちはティファールじゃない)を処分すると言うので譲り受けたのだ。そのさい、盾の裏面に、なめした革を接合して持ち手を作っている。
その後、ノリでチャンバラをやって、意外に鉄鍋への攻撃はスベって腕に当たると分かったため、表面にスパイクまでつけた代物だ。
L:セッション中、「英雄の盾」として直接お前へ渡したときは大ウケだったなw
「あれは笑い死にしかけたよ。ナニ仕込んでるかな?」
ミーシャが来たので、スマホを胸ポケットにしまった。
「ポン吉よ、防具はそれだけか?」
「うん。盾だけ持って、あとはよけるよ」
「なるほど」
すでに革鎧を着ていたミーシャは、トゲ付きの肩当てと膝当ても装着していた。巨漢がさらにゴツく見える。
「慣れ親しんだ装備なら、それが良いな……むっ?」
鼻をひくつかせたミーシャが、素早く外に出た。
「ポン吉。東から来たぞ」
僕も出ると、道の向こうから青い集団がやってきた。皮膚も角も真っ青で、貧弱な翼にひょろ長い尻尾をつけている。
「――あれ? まさかミーシャ、奴らが?」
「ああ……人間どもだ」
いや、悪魔だよ?
おいミーシャ! あれ悪魔だって!! 肌見ろよ、真っ青だろ!?
スマホがひっきりなしに震えている。あー、Lもウケまくってるなコレ。
「ポン吉よ、俺が打って出る。お前はムリをするな」
「うん。お言葉に甘えるね」
さすがにつっぱり棒よりは片手槍が強いだろうと、武器だけは借りていた。右手に槍、左手にTシールドを構える。
「ケヒャッハハハー!」
甲高い奇声とともに襲ってきたのは、貧相な体躯の悪魔たちだった。大部分はミーシャを囲んだが、僕の方にも少し来る。向こうも槍を持ち、一体が大きく振りかぶってきた。
ガッキィィイン!
――よし、止まる!
でも、あえてフラついてみせた。
「うあぁ~……。僕、怖いなー。こんな感じで振りかぶられたら、重いし、スゴく怖いなー」
「ヒャッハー! バカめ、いいこと聞いたぜー!」
――よし、悪魔の世界に「まんじゅうこわい」は無かった。
正直、大振りならば怖くないのだ。どの方向にブツけてくるか、余裕で分かるから。
刺してくる方が、動きの「起こり」がつかみづらいため、よっぽど僕には怖かった。
――悪魔のくせに、敵の言うこと信じちゃダメだってば。
小屋を背にした僕は、ほどほどに槍で牽制しつつ、悪魔の槍を盾でガンガンと止めていく。――ふぅ~、ラク。盾アリと盾ナシの勝負とか、あんまり見ないハズだよ。盾もった方が爆アドだもん。
もちろん、攻撃力のない僕だけならジリ貧だったろうけど、コッチには強い味方がいる。
「ぬぅん!!」
ミーシャが長槍を大回転させて、数体の悪魔を一気になぎ倒していた。――うん、武器と知恵をもった直立するヒグマとか、絶対戦いたくない。体格差ありすぎだよ。
倒したところをザクザク刺していくミーシャ。悪魔どもは、断末魔を上げて次々と消滅していった。――あのー、もうコレ、ミーシャ1人でいいんじゃないかな?
かくして僕らは、悪魔の集団を退治したのだった(主にミーシャの力で)。
「あっ」
最後の一体が消えたさい、僕に光が差し込んできた。見上げると、“次の部屋は150”の文字が。――えーっ? 134から数字が結構空くってことは、これが特殊クリア? つまり、熊人ミーシャを倒すのが「通常」?
「――逆でしょ、難易度」
◆
「ポン吉よ、旅立つのか」
「うん。用事は済んだみたいだからね」
「ならば、餞別をやろう」
ミーシャは、僕がさっき使った槍を差し出してきた。
「持っていくといい。役に立つぞ、人間」
「ありがと……え?」
戸惑う僕を、ミーシャは不敵に笑った。
「案ずるな。人間にもいい奴はいると分かった」
「――大した役者だよ、ミーシャ」
鼻で嗅ぎ分けるのだから、むしろ納得だ。ヒトと獣人の区別ぐらい、匂いなら楽勝だろう……ってか、悪魔と人間は近いのね、トホホ。
「ミーシャ。この槍は大事に使わせてもらうよ」
「ああ、もう1人にもよろしく頼む」
「――それも分かってたんだ」
「ガッハッハ。もし襲ってくるなら、返り討ちにしたがな」
豪快に笑うミーシャ。
片手槍を受け取った僕は、改めて御礼を述べたのち、看板へと歩いていった。
――――――――――――――――――――
134 最低な人間
・悪魔を全員倒す
――――――――――――――――――――
――ふぅ、ちゃんと悪魔だった。「元は人間かも?」って、ちょっぴり気になってたんだよ。
完全に憂いの消えた僕は、草むらを見回した。
「スゥ、熊さんにはバレてたって」
「う~ん、そんなら行けば良かったなー」
すでに透明化の解けていたスゥは、ほほを膨らませた。
「最初はあたしね? 助かって良かったーって、ホッとしてたんだけど。ちょっと過ぎてから、見てない所でポン吉が死んじゃったらヤダなーって」
「そういえば、僕が死んだとき、スゥってどうなるのかな」
L:俺の見た限りだと、リタイアした奴らにも精霊はついてきてるな
「ふぅん。スゥ、ずっと一緒だってさ」
「そんなら、あたしが助けてあげる」
僕をペシペシ叩くスゥ。
「どうせ行くなら、とことんまで行こっ!」
「ありがとう、スゥ」
L:よかったな、ポン吉^^
L:お、そうそう。槍でスゴイ発見をしたから、振ってみろ
「え、どういうこと?」
言われるままに、ブンブン振ってみた。
L:シェイク、スピアー
――ぽーい。
L:うおおおおい! 投げ槍になるな! ポン吉には重い槍がないのか!?
「やかましいよ」
僕は槍を回収した。
「そうだ。この槍といえば、ミーシャは役者だったね。寝首を掻こうとしてたら御陀仏だったよ」
L:ふぅ~む、「この世はすべて舞台」、か……。やはり、シェイク・スピアー
「槍ってもう、その名前で決定?」
「あ、ポン吉~。体が透けてきてるよ~」
「本当だ、スゥもだね」
部屋のイベントに不参加でも、やはり一蓮托生らしい。
L:次は16分後か。――長いな
「いつ出るか分かったし、すぐだよ」
L:ま、……そうだな
L:んじゃあ次までに、情報集めと、このチャンネル広めとくわ
「あんまり期待しないで待ってるよー」
僕は槍を振りつつワープした。
転移した先は、廃品がうずたかく積まれたゴミの集積場のような場所だった。周りは空き地で、辺り一面、鉄くずの匂いが漂っている。
「ポン吉~、あそこにサビた看板があったよー」
「おー。今回のはよく見つけたね、スゥ」
周辺のサビ同様、看板も茶色く同化していたため、結構見つけづらかった。
――――――――――――――――――――
150 瓦礫の山
――――――――――――――――――――
「ふむふむ、多分ガレキに何かあるんだね。じゃあ、L。さっきのミーシャの部屋みたいに、何か知ってれば……って、アレ?」
まーた居ないのか。
さっきもリスナーが0人だったし、ワープのときは一旦接続が切れる仕様とかかな?
僕は、何の気なしに同接数を見た。
100万人。
「――え?」
視聴者……ひゃくまんにん!?




