第一章 紅蓮の咆哮 5話 【紅き瞳の執着】
モニターの中に映し出された少年の背中は、震えていた。
しかし、その足は一歩も引いていない。
新人の背後には、恐怖で腰を抜かした数人の受験生たちが固まっている。彼は使い古された太刀を握りしめ、圧倒的な質量を誇る大型個体と、己の身体だけで対峙していた。
太刀はすでに血と脂で汚れ、刃こぼれが目立つ。切れ味はとっくに失われ、ただの鉄の棒に近い。それでも彼は、折れることのない意志をその眼差しに宿していた。
「……ッ、はぁ……っ!」
新人の額を、脂ぎった汗が伝う。その汗が目に入り、しみる。
だが、彼は瞬きひとつしない。瞬きをした瞬間に、大型個体の巨大な腕が襲いかかってくることを、その「瞳」が予見しているからだ。
(来る……!)
大型個体が右腕を振り上げた。空気が裂ける音がする。
並の人間ならば、視界に入った瞬間に死を覚悟する速度。しかし、新人の視界には、その腕の筋肉が収縮し、重心が左足へと移る「予備動作」が、スローモーションのように鮮明に焼き付いていた。
「……まだだ、今じゃない……!」
少年は歯を食いしばる。
極限の集中力が神経を焼き、鼻から熱い血が流れる。視界が真っ赤に染まる中、彼は大型個体の胸元――そこにあるはずの「核」の場所を、透視するように見抜いていた。
そこだけが、世界で唯一、静止して見える。
「――そこだ!」
新人が地を蹴った。
その瞬間、演習場を揺るがすほどの轟音が響く。大型個体の腕が、先ほどまで新人が立っていた地面を粉砕した。地面がクレーターのように凹み、砂塵が舞う。
だが、砂塵を切り裂いて突っ込んでくる影があった。
傷だらけの太刀を、両手で固く握りしめた新人だ。
モニター越しにその光景を見ていた山南が、思わず息を呑む。
「無謀だ……! あの切れ味では、核を砕くには至らない!」
大型個体が、獲物を仕留め損ねた苛立ちを爆発させ、巨大な口を開けて叫ぶ。
新人は、その喉元に迫りながら、己の中の「瞳」をさらに深く、地獄の底まで突き刺すように開いた。
「砕けないなら……そこにある『歪み』を突くまでだ!」
少年は、ただの真っ直ぐな斬撃ではない。
相手の重心を崩し、死角を縫い、核の力を殺すための最短の軌道――それは、彼が憧れ続けた、あの女局長の「紅蓮の太刀」に、どこか似ていた。
モニターの前、近藤局長は腕を組んだまま、唇の端を吊り上げる。
「見えたか。……あとは、その鉄屑(太刀)に、どれだけの『命』を乗せられるかだ」
演習場という名の地獄で、少年は紅い瞳を極限まで発光させ、絶望の塊へとその刃を突き立てた。




