第一章 紅蓮の咆哮 4話 【鬼の局長、冷徹な理】
演習場に鳴り響くアラート音。大型個体の出現という異常事態に、司令室のモニター前は緊張に包まれていた。
「局長! 大型個体が演習場に紛れ込んでいます! このままでは受験生が……!」
参謀の山南が額に汗を浮かべ、即座の中止と救出部隊の派遣を具申する。しかし、巨大な体躯を仁王立ちさせ、腕を組んでモニターを凝視する近藤は、微動だにしない。彼女の背中は、まるで動かない山のように頑なだった。
「……近藤さん、それでは全滅です! 新入りたちに、アレを倒せる力などありません!」
山南の悲痛な叫びに対し、近藤は荒々しく鼻を鳴らした。その瞳には、仲間を案じる優しさとは別の、冷徹な「軍の長」としての輝きが宿っている。
「山南、甘ったれるな。俺たちの敵は、そんな手加減をしてくれるか?」
近藤の低く響く声には、絶対的な意志が込められていた。
「俺たちが守ろうとしているこの国で、化け物は俺たちの都合なんてお構いなしに牙を剥く。演習場に迷い込んだ? だから何だ。そんなことも予期できず、イレギュラーに飲まれて死ぬような奴を、俺は死地に連れて行けねぇ」
画面の中で、一人の受験生が大型個体の腕に潰され、肉片と化す。モニターの向こう側にいる局長は、その光景を直視しながらも、表情ひとつ変えない。
「生き残る奴だけが、俺たちの背中を追う権利を持つ。……たとえそれが、たった一人であってもな」
その言葉は、冷酷な宣告だった。
しかし、山南も土方も知っている。それは彼女なりの、極めて重い「愛」なのだと。新選組の隊士として戦うということは、昨日までの自分の命を捨て、明日をも知れぬ地獄の最前線に立つことと同義である。
近藤はモニターの中で、必死に大型個体と渡り合おうとする新人の姿に、一瞬だけ目を留めた。
少年の瞳は、極限状態の中で燃えるような熱を放っている。
「……あいつ、見えてやがるな」
近藤は口元に小さく、しかし野性味溢れる笑みを浮かべた。
「おい山南、救出部隊は待機だ。……この地獄の果てで、誰が『俺たちの器』に足る奴か、最後まで見届けてやる」
モニター越しに、少年が大型個体の懐へ飛び込んでいく姿が映る。
地獄の扉は、完全に開かれた。




