閑話 鉄火場の職人と、託された絆
葵が第一軍事要塞に囚われていたあの日、新選組が守るべき場所は屯所だけではなかった。
山奥の工房に身を寄せていた名匠・鍛冶師のもとにも、軍の影は静かに忍び寄っていたのだ。
「新選組の『牙』を作る男を排除しろ。さもなくば、その技術を奪え」
軍の特攻部隊が工房を包囲し、強襲を仕掛けた瞬間、鍛冶師の悲鳴が森に響いた。しかし、その声が途切れることはなかった。沖田総司率いる一番隊の精鋭たちが、まるで風のように軍の包囲網を切り裂き、鍛冶師の命を、そしてその魂とも言える槌を守り抜いたからだ。
葵が奪還され、屯所の病室で静養していた数日後。
窓の外から聞こえてくるのは、忙しない荷運びの音だった。近藤の計らいで、鍛冶師の工房は屯所の敷地内に移築されることになったのだ。
「もう大丈夫か?」
病室の障子が開かれ、煤で汚れた顔を拭いながら、鍛冶師が無骨な笑みを浮かべて顔を出した。その手には、葵の新しい刀を仕上げるために使われた道具たちが握られている。
葵は、まだ痛む身体を少しだけ起こし、穏やかな笑みを返した。
「……はい、おかげさまで。鍛冶師さんも、ご無事で本当に……」
「わしなどどうでもいい。それより、あの刀はどうだ? お前の魂に馴染んでいるか?」
鍛冶師はぶっきらぼうに言いながらも、その目には葵を案じる温かな色が宿っていた。彼にとっても、あのドラゴンの核を打ち直した刀は、ただの武器ではなく、守り抜いた「絆の証」なのだ。
葵は胸元に手を当てた。あの日、近藤から受け取った刀は、今や葵の体温を帯び、静かに鼓動を合わせている。
(この人が刀を作ってくれて、沖田さんたちが守ってくれて、局長が俺を連れ戻してくれた)
自分は決して一人ではない。この場所には、自分を支えてくれる多くの「家族」がいる。
鍛冶師が去り際に手を振る姿を見送りながら、葵は改めて心に決めた。この刀と、この仲間たちと共に生き抜こうと。
屯所の庭先では、今日も鍛冶師の槌音が心地よく響いている。それは、新選組の明日を造り上げる、希望の音色でもあった。




