第四章 黒き覚醒と家族の絆 42話 【再会の陽だまり】
清潔な匂いが漂う病室の窓から、柔らかな陽光が差し込んでいた。
葵がゆっくりと瞼を開くと、視界の先には見知らぬ天井と、かすかに揺れる一輪の花があった。あの禍々しい刀の気配はない。ただ、静かな時間が流れている。
葵が身体を動かそうとすると、全身に鈍い痛みが走った。しかし、それさえも自分が生きているという証のように感じられた。
「……起きたのか」
穏やかな声に導かれて顔を向けると、そこには近藤勇の姿があった。
葵は、うまく動かない身体を必死に奮い立たせ、布団の中で深く頭を下げる。
「……ご迷惑を、おかけしました。本当に、すいませんでした……」
喉の奥から絞り出した謝罪に、近藤は声を荒らげることも、厳しく叱責することもしなかった。近藤はただ、その大きな、温かな手を葵の頭にそっと乗せ、慈しむように撫でた。
「馬鹿野郎。……お前が今日まで無事でいてくれた、それだけで十分だ。本当によかった」
その微笑みは、軍の要塞で見た鬼神のような形相とは別人のようだった。葵の胸の奥で、張り詰めていた糸がふっと解ける。こらえきれずに瞳から熱いものが溢れ出た。
「起きてる! 起きてるなら教えてくださいよ、近藤さん!」
扉が勢いよく開かれ、藤堂平助が新鮮な花束を抱えて飛び込んできた。
近藤が葵の無事を喜び合っているのを見て、藤堂は目を丸くし、次の瞬間には弾かれたように踵を返す。
「おい、みんな! 葵が起きたぞ! おい、土方さん、山南さん、みんな早く来いよ!」
廊下の方へ向かって大声で叫びながら、藤堂は満面の笑みで走っていく。
葵の病室は、一瞬にして新選組の仲間たちの喧騒と活気に満ちあふれようとしていた。
戦いの傷跡はまだ残っている。しかし、そこには確かに「家族」が戻ってきたという確かな温もりがあった。葵は、自分を囲む仲間たちの気配を感じながら、もう二度とこの絆を離すまいと、静かに心に誓った。




