第四章 黒き覚醒と家族の絆 40話 【身を挺した封印、魂の帰還】
「本能に従え……!」
葵の意識の中で、刀の誘惑と自身の理性が激しくせめぎ合う。
葵は狂おしいほどの叫びと共に、巨大な太刀を振りかざした。その刃が向かう先は、飛び込んできた近藤ではない。
「諦めるな、葵ッ!」
土方の悲痛なまでに鋭い怒号が、空間を切り裂く。
「お前ならできる! 俺たちがついているんだ!」
かつて泣き崩れていたときも、一番に駆け寄ってくれた藤堂平助の声が、鮮明に響いた。
その温かな記憶が、葵を支える。
葵は牙を剥く異形の姿のまま、振り上げた刀を、そのまま自身の胸元へと突き立てた。
「葵――ッ!!」
その光景を目の当たりにした近藤、土方、藤堂の絶叫が、施設中に木霊する。
隊長たちが目にしたのは、自らを貫く葵の姿。
しかし、葵はそこで力を緩めなかった。むしろ、刀のエネルギーが身体中を駆け巡り、内側から体を焼き尽くさんとする中で、葵は必死に祈りを捧げていた。
(……この力が、呪いなら。俺が、ここで消し去る)
刀が己の魂と直結しているなら、刀を折るのではなく、刀に喰らい付く「核」を己の意志で鎮めるしかない。葵は刀を胸に深く突き刺したまま、渾身の力を込めて、「守る」という想いを念じ続けた。
突き刺された傷口から、ドクドクと流れるのは鮮血ではない。
禍々しく輝いていた異形のエネルギーが、まるで浄化されるかのように、淡い光となって霧散していく。
葵の異形の姿が、徐々に崩れ始める。
ボロボロになった制服、血に染まった胸元。それでも葵は刀の柄を離さず、崩れ落ちるその瞬間まで、力強く、そして穏やかな瞳で隊長たちを見つめていた。
それは、化け物としての終わりではない。
「新選組・葵」が、その身を賭して呪縛を断ち切った、勝利の瞬間だった。




