第四章 黒き覚醒と家族の絆 38話 【修羅の変貌、対峙する刃】
土方が踏み出した一歩は、生存本能による拒絶だった。
刀から漏れ出した殺気は、物理的な質量を持って空気を押し潰す。その中心にいた葵の身体が、不気味な音を立てて変形を始めた。肌の色は赤黒く染まり、骨格が軋む。人間の形を保つ限界を超え、それは龍の力を宿した「異形の化け物」へと変貌を遂げたのだ。
次の瞬間、施設内部を揺るがす爆発が起きた。
葵を中心に噴出したエネルギーは、鋼鉄の壁を紙のように引き裂き、要塞の隔離区画を跡形もなく焼け野原へと変えた。
「くそっ……! 隊員たち、下がれ!」
土方の怒声と同時に、二番隊・五番隊の隊士たちが一斉に斬りかかる。しかし、化け物と化した葵の瞳には、一切の感情が消え失せ、代わりに驚異的な戦闘予測が浮かんでいた。隊士たちの殺気、気配、呼吸。すべての動きを完璧に読み切り、葵はまるでダンスを踊るかのように、隊士たちの攻撃をすべて回避し、逆に圧倒的な力で弾き飛ばしていく。
「あいつ……! 俺たちの動きを完全に読みやがってる!」
「もうダメだ……あいつはもう、葵じゃない! ただの化け物だ!」
隊士の口からこぼれた絶望の言葉。
それを聞いた土方は、握りしめた刀が白くなるほど強く、唇を噛みしめた。
「……黙れ!」
土方の叱咤もむなしく、葵は再び唸り声を上げ、その巨大な腕を振り下ろそうとする。土方は死を覚悟した。その刹那、崩れ落ちた壁の向こうから、地響きのような雄叫びが響いた。
「葵ぃぃぃいいいい!!!」
土方が振り返ると、そこには血気盛んな一番隊、四番隊を引き連れた近藤の姿があった。
局長は、要塞の正面を突破し、死の炎に包まれた隔離区画へとたどり着いたのだ。
「近藤さん……!」
土方が安堵するよりも早く、近藤は真っ直ぐに葵へと歩み寄った。
「葵! 俺だ、近藤だ! その化け物から、今すぐお前自身を取り戻せ!」
近藤の言葉は、爆音の中で葵の耳に届いているのか、いないのか。
葵の異形の瞳が、近藤の姿を射抜く。近藤は剣を捨て、丸腰のままその懐へと飛び込んでいく――家族の絆が、怪物となった少年に届くのか。帝都の要塞が、静寂に包まれるような極限の緊張が二人を覆った。




