第四章 黒き覚醒と家族の絆 37話 【紅蓮の檻、静寂に満ちた死の宴】
軍事要塞の正面、近藤が門を粉砕し、一番隊・四番隊と共に内部へなだれ込む。軍の混乱は予想を超え、銃撃と斬撃が入り乱れる大乱戦となっていた。
しかし、施設内部の隔離区画では、さらに異様な事態が進行していた。
葵が監禁されていた部屋は、軍の科学者たちが並べた測定器のノイズで埋め尽くされていた。彼らは葵の刀から発せられる異常なエネルギー反応を調査し、さらに葵の精神を無理やり繋ぎ合わせて刀を「兵器」として制御しようと試みていたのだ。
だが、刀の渇きは彼らの制御など容易く踏み越えた。
「……ッあぁぁぁあああ!!」
葵の瞳が妖しく明滅し、刀の柄を握りしめるその指から、漆黒の殺気が溢れ出す。刀は「血」を強要し、周囲の兵士たちの命を養分として啜り上げた。科学者たちが叫ぶ間もなく、部屋は肉塊と鮮血で塗りつぶされ、施設内には警報のサイレンが虚しく鳴り響く。
「……遅かったか」
施設裏門を突破し、血の匂いを辿ってその部屋へと辿り着いた土方歳三。
重い鉄扉を蹴破った彼が目にしたのは、悪夢のような光景だった。
部屋中に転がる軍兵の亡骸。その中央に、血に染まった刀を握りしめたまま、うずくまる葵の姿があった。
葵の身体からは、人間離れした禍々しい瘴気が立ち上っている。それはもはや、かつて縁側で無邪気に話していたあの「新人」の姿ではなかった。
「……葵」
土方は刀を鞘に納めたまま、一歩ずつ葵へと歩み寄る。
葵は、土方の気配に気づくとゆっくりと顔を上げた。その瞳には、すでに理性の光はほとんど残っておらず、ただ鋭い獣のような飢えだけが宿っていた。
「……土方、さん」
葵の掠れた声が、血の海に響く。
土方は、葵の足元に転がる死体の山を横目に、迷うことなくその手に手を伸ばした。
葵が何を殺したのか、どれほどの血を浴びたのか。そんなことは土方にとってどうでもよかった。
ただ、目の前で壊れかけ、闇に飲まれようとしているこの少年を、何としてでも連れ戻す――。
「……帰るぞ、葵。俺たちの場所に」
土方のその一言が、狂気へと傾きかけていた葵の均衡を、わずかに引き戻した。
しかし、刀はまだ止まらない。土方の言葉に呼応するように、刀はさらに高熱を帯び、部屋全体を焦がすほどの殺気を噴出させ始めた。




