第四章 黒き覚醒と家族の絆 36話 【帝都強襲、二面作戦の幕開け】
帝都・東京。明治の面影と軍の威容が混ざり合うこの街で、新選組の姿は異様なほどに際立っていた。
軍の第一軍事要塞施設は、すでに鉄壁の厳戒態勢を敷いている。配置された兵たちの目は鋭く、周辺の路地裏にまで武装した憲兵が網を張っていた。
「葵は必ず取り戻す。……たとえ、俺たちの首を賭けてもな」
近藤の言葉は、帝都の冷たい夜風に飲まれることなく、隊士たちの魂に深く突き刺さった。
「表と裏から同時に攻めましょう。軍の注意を正面に向けさせ、その隙に中枢を突くのが最善です」
山南の提案に、近藤は迷わず頷いた。戦術の妙、これこそが新選組の真骨頂である。
直ちに戦力が分かたれる。
正面突破の「表」には、近藤が自ら立つ。その傍らには、一番隊と四番隊が配され、軍の注意を一身に集める役割を担った。
対する「裏」には、副長・土方が二番隊と五番隊を率い、施設背面の防衛網の隙を縫って潜入する奪還任務に就く。
そして、その作戦の心臓部となる情報戦。
斎藤率いる三番隊は、東京の拠点である宿屋の一室を即席の司令部へと変貌させていた。収集した機材と、軍の内部から引き抜いた通信回線を繋ぎ、施設の警備配置、葵が幽閉されている監禁区画の特定を急ぐ。山南もまたここに留まり、複雑に絡み合う軍の通信を攪乱し、最適解を導き出していた。
「……表の近藤局長たちが動けば、施設内の兵の八割は正面へ向くはずです」
山南が静かに告げると、斎藤は抜かりなく刀の柄を締め直した。
「ああ。裏門の警備が手薄になった瞬間が、土方さんの突入タイミングだ」
要塞施設の正面。
近藤が堂々と、しかし静かな殺気を纏って軍の正門前に立った。その威圧感は、門を守る兵たちを戦慄させるのに十分だった。
「新選組局長、近藤だ。……俺たちの『家族』を返してもらう。話し合いの余地はない、通すか、死ぬか選べ」
近藤の怒声が、帝都の夜空に木霊する。
軍の指揮官が驚愕し、サイレンが鳴り響く。要塞が怒涛の騒乱に包まれる中、その裏側では、土方率いる精鋭たちが、音もなく夜の闇へと溶け込んでいった。
葵奪還のカウントダウンが、今、始まった。




