第三章 軍との確執 32話 【暴かれた禁忌、そして崩れる日常】
同時刻――屯所の奥にある密室。
軍を内部から崩すべく、あえて懐に飛び込んでいた斎藤率いる3番隊、そして原田率いる5番隊が持ち帰った報告書を前に、幹部たちの顔色は見る影もなく強張っていた。
机の上に広げられた資料には、軍上層部が隠蔽し続けてきた恐るべき実態が記されていた。
彼らはドラゴンの「核」を利用し、人為的に異形の怪物――兵器としての異形を作り出す実験を繰り返していたのだ。
「……人間を、あんな化け物に……」
近藤の拳が、机を激しく叩きつけた。土方は眉間に深い皺を刻み、煙管を噛み締めて怒りを抑え込んでいる。普段、冷静沈着な参謀・山南でさえ、その瞳には凍りつくような殺意が宿っていた。
武士の道を歩む者として、決して許してはならない禁忌。軍という組織の腐敗は、もはや組織の枠を超え、人倫を外れた領域に達していたのだ。
彼らが「軍を清算する」という決意を新たにした、その刹那だった。
血相を変えた藤堂率いる四番隊の隊士が、天幕に飛び込んできた。
「局長! 土方さん! 大変です! 見回り中の葵が……刺客に襲われました!」
その報告を聞いた土方が、即座に立ち上がる。
「葵は無事か!」
「……葵は無事ですが。刺客を……葵が斬りました。ですが、その刺客は……」
隊士が言葉を詰まらせた。その表情から、嫌な予感が幹部たちの脳裏をよぎる。
報告を続けた隊士が告げた事実は、彼らが今まさに資料で突き止めた「禁忌」そのものだった。
「刺客は……軍の手によって、人間から化け物に改造された女でした。……葵は、事の顛末に絶望し、泣き叫んでいます」
張り詰めていた空気が、悲痛な怒りへと変わる。
軍上層部の非道な実験が、他でもない彼らの大切な「家族」である葵を、凄惨な血の渦へと巻き込んだのだ。
「……やりやがったな」
土方の低い声が、密室の空気を震わせた。
それはもはや、軍との確執というレベルの話ではない。新選組の誇りと、隊士の平穏を奪った軍に対する、終わりのない宣戦布告だった。
近藤はゆっくりと立ち上がり、自身の刀を腰に差した。
その背中からは、もはや迷いは消え、ただ「賊」を討ち果たすという、鬼神の如き決意だけが漂っていた。




