第三章 軍との確執 29話 【蠢く陰謀、軍の焦燥と毒】
新選組の行軍に加わった数十名の離反者。それは、彼らの志が「軍」という巨大な権威よりも、「新選組の義」を求めたことを意味していた。
この事実は、軍の上層部にとって何よりの失態だった。
正規軍からの離反者が続出するということは、組織の規律が崩壊していることの証明に他ならない。さらには、彼らが保有するドラゴンの「核」は、軍が新兵器開発のために喉から手が出るほど欲しがっている至宝。このままでは、核も、軍の威信も、すべて新選組という一介の部隊に奪われたまま終わってしまう。
「このままでは済まさん。奴らの結束を、内部から切り崩せ」
軍上層部は焦燥し、卑劣な謀略を張り巡らせ始めた。
彼らが狙ったのは、新選組の強さを支える「兵站」と「組織の構造」の弱点だった。
「奴らの強さは、あの少年が持つ異質な刀と、それをメンテナンスする鍛冶屋にある。そして、戦線において主力から一歩引いた立ち位置にある、四番隊と五番隊を抱き込め」
軍は、新選組内での役割分担に着目した。
最前線で激闘を繰り広げる一番隊や三番隊に比べ、四番隊、五番隊は後方支援や屯所の守備といった地味な任務が多い。そこを「冷遇されている」と扇動し、さらに鍛冶屋に圧力をかけて「刀の補給を断つ」という二段構えの作戦を立てたのだ。
「四番隊の藤堂、五番隊の原田……彼らを軍の重要顧問として迎え入れると甘言を弄せ。鍛冶屋には、軍直属の工房と莫大な報酬を約束しろ」
彼らは、新選組の隊士たちが「結束」ではなく「利」で動いていると錯覚していた。
軍の密使が、屯所周辺で怪しい影を落とし始める。
「新選組にいても、先はない。軍に戻れば、お前たちは英雄だ」
甘い毒を含んだ誘いが、新選組の影に忍び寄る。
しかし、軍上層部は決定的な誤りを犯していた。彼らが抱き込もうとした隊長たちは、近藤や土方と死線を越えてきた絆の深い者たちであり、鍛冶屋もまた、新選組の「魂」を打っているという誇りを持っていたのだ。
新選組の屯所を覆う、静かなる暗雲。
軍の焦りが生んだ毒は、彼らの絆を試す試練となって、今まさにその刃を研ぎ始めていた。




