第三章 軍との確執 28話 【新たな志、覚悟の志願兵】
富士の麓を去る新選組の行軍の背後から、呼び止める声が上がった。
振り返ると、そこには息を切らした数十名の若者たちの姿があった。彼らは元々、軍の後方支援部隊として配属され、三番隊と共に後方支援を担っていた者たちだ。
彼らの瞳には、先ほど見た軍の指揮官たちの卑屈な光とは違う、強烈なまでの熱が宿っていた。
若者たちは新選組の隊列の前で跪くと、局長・近藤勇に向かって直談判した。
「……俺たち、こんな軍にはもういられません!」
一人の青年が、震える拳を握りしめて叫んだ。
「あんたたちが命をかけて戦っている横で、自分たちの保身と手柄しか考えていない指揮官たちを見て、心底腐りきっていると悟りました。お願いします! 俺たちを新選組に入れてください。貴方たちの掲げるその『志』に、人生を懸けてついていきたいんです!」
彼らはほとんどが戦場を知らぬ新人だった。しかし、その声には、死線をくぐり抜けた者たちだけが持つ「覚悟」が滲んでいた。
新選組の隊士たちが顔を見合わせ、斎藤一は冷ややかな目で、しかしどこか興味深そうに彼らを見つめた。
近藤は無言で若者たちを見下ろしていたが、やがてその厳格な表情を崩し、不敵で、かつ仲間を迎え入れるようなニヤリとした笑みを浮かべた。
「うちは厳しいぜ? ……軍の規律なんざ、生ぬるい遊びに思えるほどにな。隊規違反は即、腹切りだ。それでも来るか?」
それは脅しではない。新選組という組織が背負う、生と死の境界線そのものだった。
それでも、若者たちの瞳は揺るがなかった。
「命を捨ててでも、あんたたちの背中を守りたいんです!」
一斉に頭を下げる彼らの姿に、土方は口元に微かな笑みを浮かべ、山南は眼鏡の奥で温かな眼差しを向けた。
隊員たちの間から、歓迎の笑いと、古参隊士による「地獄へようこそ」という無言の激励が交わされる。
「……いいだろう」
近藤の声が、富士の麓に響き渡った。
「今日からお前たちは新選組だ。その志、俺たちが預かる。その代わり、命を懸けて俺たちの背中を追いかけてこい」
軍から離反した者たちを加え、新選組の陣容はさらに熱を帯びた。
権力に従うのではなく、個々の意志が繋ぎ合う組織。
軍を置き去りにしたその先で、新選組という巨大な楔は、さらに深く歴史の地に打ち込まれることとなった。




