第三章 軍との確執 27話 【絶縁の宣告、背を向ける獅子たち】
「……擁護できないですね。貴方たちは夜半の奇襲ですら対応できず、ただ震えていたというのに、核に戦果を奪うと?」
普段、温厚な笑顔を崩さない参謀・山南敬助が、冷え切った瞳で言い放った。その言葉は、軍の指揮官たちの自尊心を刺す、毒を含んだ矢のように鋭い。
「誰を相手に言っているのか、わかって言っているのですか?」
近藤は、静かな怒りを纏ったまま、軍の指揮官たちを冷ややかに見据えた。
「悪いが、お前らにくれてやるものは一つもねぇ。……消えな」
近藤はそれ以上、彼らに構う価値もないとばかりに背を向け、隊員たちに向かって短く告げた。
「……帰る支度をしろ」
その指示に、軍の指揮官の顔色が毒気に染まる。
「わかっているのか? 軍に逆らうということがどういうことか。それは反逆、即ち――」
指揮官が一歩踏み出し、脅しをかけようとしたその瞬間。
永倉の殺気が爆発した。今にも愛刀が抜き放たれ、その首を跳ねんばかりの猛烈な気迫が周囲の空気を震わせる。
「なら、聞くが。お前らは今まで何をした? いや、何をしていた?」
土方が一歩前に出る。その声は氷のように冷たく、理詰めで軍の欺瞞を暴き立てる。
「近代兵器をぶっぱなして村を壊滅させておきながら、民衆の声を聴けているとでも思っているのか? ……民衆は俺らの味方だ。お前らのような腰抜けに、俺たちの何がわかる」
軍の理屈を完膚なきまでに論破する土方の言葉に、指揮官は反論の糸口すら見失い、顔を真っ赤にして立ち尽くした。
「……軍の犬に何を言っても無駄ですよ、土方さん。帰りましょう」
山南が吐き捨てるように言い放つと、永倉もニヤリと不敵に笑って刀から手を離した。
「だな。犬が何を吠えても、意味はねぇな」
「相変わらず血気盛んすぎるぜ、永倉」
五番隊隊長・原田が、少し呆れたように永倉の肩をポンと叩く。その横では、四番隊隊長・藤堂がすでに指揮を執り、隊員たちと共に淡々と撤収の準備を進めていた。
彼らにとって、これ以上軍と論争することは、時間の無駄でしかなかったのだ。
新選組は軍の指揮官をあえて無視し、堂々と背を向けた。
怒りに震える指揮官たちの制止の声を背に、彼らは屯所へ向けて歩を進める。
富士の麓に、新選組の誇り高い足音が響く。
それは、軍という巨大な権力から完全に決別し、自分たちの「義」を貫くという宣戦布告でもあった。
軍は、ただ立ち尽くし、去り行く背中を見送ることしかできなかった。




