第三章 軍との確執 26話 【譲れぬ義、突きつけられた銃口】
富士の麓に設営された仮設拠点。
龍の熱気と血の匂いが未だこびりつくその場所へ、軍の指揮官たちは意気揚々と乗り込んできた。彼らは、新選組が命を賭して戦っている間、安全な後方で戦況を伺っていただけの連中である。
「ドラゴンの核、および今回の討伐におけるすべての戦果は、軍の管理下に移管する。即刻差し出せ」
軍の指揮官は、薄汚れた新選組の隊士たちを見下ろすように言い放った。その背後では、正規軍の兵たちが冷たい銃口を新選組の面々に突きつけている。
その要求を聞いた瞬間、拠点の空気が凍りついた。
「……何もしなかったお前たちに、差し出すものなど何一つない」
近藤の怒りは、爆発寸前の火山のように静かで、そして何よりも重かった。
今回、幸いにも隊士の死者は一人も出していない。全員が互いを守り抜き、血の滲むような連携で勝ち取った勝利だ。だからこそ、その結晶をどこの馬の骨とも知れぬ連中に踏み汚されることは、彼らにとって絶対の許容不可だった。
「これは俺たちが、俺たちの血で勝ち取ったものだ。指一本、触れさせるわけにはいかねぇ」
近藤が要求を真っ向から突っぱねると、場は一気に一触即発の事態となった。
「ほう、軍の命令に背くというのか? 逆賊として裁かれたいか?」
指揮官が傲慢に言い放った瞬間、永倉が地響きのような足音を立てて前に躍り出た。その形相は鬼そのもの。今にも指揮官の胸倉を掴み、そのまま拳を叩き込まんとする猛烈な殺気が、軍の兵士たちをたじろがせた。
「逆賊だと? 誰が俺たちを援護した? 誰が命を捨ててこの龍の喉元まで肉薄したんだ!」
永倉の咆哮に、他の隊長陣も続いた。
沖田は薄い笑みを浮かべながらも、その手はすでに鞘にかけられている。斎藤もまた、無言で軍の兵士たちの死角を見据えていた。彼らの間には、軍に対する忠義など欠片も残っていない。
「俺たちの仲間が流した汗と血は、お前らの手柄にするためのもんじゃねぇ」
土方は煙草を地面に投げ捨て、冷徹に軍の指揮官を見据えた。
「その核が欲しけりゃ、俺たちの死体を踏み越えてからにしろ。……もっとも、そんな覚悟、お前らにあるとは思えねぇがな」
拠点を取り囲む兵士たちの銃口が震える。
新選組の隊士たちは、軍の威光になど屈しない。彼らは今、ただの組織の一員ではなく、自分たちの「誇り」を守るための獣となって、対峙していた。




