第二章 龍の頂へ 25話 【神殺しの代償、戦いの終わり】
いにしえより語り継がれてきた伝説の存在――ドラゴン。
その首を地に落とし、新選組はついに「神殺し」という神業を成し遂げた。
勝利の歓声が遠くで響く中、葵の身体からは急速に熱が引いていった。刀に力を吸い取られた反動で、指一本動かす力も残っていない。唇を動かそうとするが、喉からは掠れた吐息が漏れるだけだった。
そんな葵の背中を、近藤の分厚く大きな手が力強く叩いた。
「よくやった、葵」
その声には、部下というよりも、誇るべき仲間を見守るような温かさがあった。
傍らに立つ土方は、整った顔立ちに珍しく柔らかな笑みを浮かべ、少し乱れた髪を指で梳きながら、いつもの毒気を含んだ口調で労いの言葉を投げた。
「やればできるじゃねぇか。……死ぬんじゃねぇぞと言っただろ、生きて戻ってきて正解だ」
二人の言葉が、葵の凍えかけた心を溶かしていく。
土方はそれ以上何も言わず、ドラゴンの切り離された首へと歩み寄った。そこに深々と突き刺さっていた自身の愛刀を、力強く引き抜く。冷徹に血を振り払うと、土方は流れるような動作で刀を鞘へと納めた。
カチン、と硬質な音が静かな山頂に響く。
土方はそのまま、力なく横たわるドラゴンの巨体の胸元へと歩を進める。鱗を切り裂き、その深淵から、激しく鼓動を続けていた核を鷲掴みにした。
ずぶり、と肉から引き抜かれたドラゴンの心臓――それは、新選組がこの地で戦い抜いたことの証であり、新たな戦いへの楔でもあった。
「局長。終わりましたね」
山南が静かに歩み寄り、戦場の全景を見渡す。
空は薄明を迎え、富士の頂を染め上げている。葵は、空を見上げる余力すらなかったが、土方の手に握られた「核」の温もりを感じながら、ようやく深く、長く息を吐き出した。
神を殺した男たちの背中に、朝陽が降り注ぐ。
伝説が終わったのではない。新選組という組織の、真の伝説がここから始まるのだ。




