第二章 龍の頂へ 24話 【天を裂く咆哮、龍の死】
葵は紅く発光する黒刃を、再びドラゴンの首元へ渾身の力で振り下ろした。
刃が、先ほど裂いた傷口からさらに奥深くへと食い込む。しかし、龍の生命力と極太の筋肉が、刃の進行を強硬に阻もうとする。
ギリ、ギリと、鋼と硬質な骨肉が軋む不気味な音が、葵の鼓膜を打った。
「もっと、もっとだ……!」
柄を握りしめる葵の両手は、すでに限界を超えていた。手のひらの皮膚は破れ、流れ出る自身の血で柄が滑る。それでも、葵は歯を食いしばり、決して力を緩めなかった。
刀に宿る力が、葵の命そのものを燃料にして燃え上がる。
「落ちろォォォォォッ!!」
葵の魂を削るような絶叫が、富士の山頂に轟いた。
その声に呼応するように、黒刃が爆発的な熱と光を放つ。次の瞬間、抵抗していた龍の筋肉が断ち切れ、刃はついに巨大な首の骨を完全に掻っ切った。
ドゴォォォォンッ!!
首を断ち切った凄まじい反動が、葵の小柄な身体を弾き飛ばした。
空中に投げ出された葵は、為す術もなく荒れ果てた大地へと激しく転げ落ちる。激痛が全身を走り、視界が明滅した。
「葵!」
「無事か、新入り!」
地面に倒れ伏す葵の元へ、すぐさま近藤と土方が駆け寄る。土方が素早く葵の上体を抱き起こし、近藤がその盾となるように前に立った。
ズズンッ……!!
三人の背後で、大地を揺るがすほどの重い地鳴りが響いた。
天を突くような巨大な血飛沫を噴き上げながら、ドラゴンの巨体がゆっくりと傾き、ついに力なく横たわったのだ。これまで数多の命を奪ってきた絶対的な存在が、ただの肉の塊へと変わった瞬間だった。
燃え盛る炎の中、一瞬の静寂が降り立つ。
やがて、その静寂を打ち破るように、激闘を生き抜いた新選組の隊士たちが、次々と血塗られた武器を天へと掲げた。
「おおおおおおおおおおおっ!!」
それは、死線を越えた者たちだけが出せる、腹の底からの歓喜の声。
富士の頂に、人類が異形に打ち勝った証である「勝利の咆哮」が、どこまでも熱く、高らかに響き渡っていた。




