第二章 龍の頂へ 23話 【覚醒の連撃、龍の頸木(くびき)を断つ】
宙に投げ出された葵の耳に、雷鳴のような声が届いた。
「刀を信じろ!」
近藤の叫びに、葵は空中で姿勢を立て直すと、ドラゴンの首元に再び飛び移った。分厚い鱗の狭間に爪を立て、死に物狂いでしがみつく。葵は黒刃の柄を握りしめ、魂の叫びを込めた。
(力が欲しい……! この龍の首を切り落とす、ただそれだけの力を……ッ!)
その願いに呼応するように、黒刃が耳をつんざくような高音で鳴り響く。刀身に宿る紅い核が眩いばかりに発光し、葵の腕を伝って全身へと凄まじい熱量が駆け巡る。
「今だ! やれ!」
土方の怒号が戦場を支配した瞬間、土方が渾身の力で自身の愛刀を投げ放った。
鋭い一閃がドラゴンの視界を貫き、眼球を容赦なく射抜く。
「――ギャァァァァァァァァッ!!」
龍が激痛に身体をのけぞらせる。
まさに一瞬の隙。その瞳が潰れ、首の動きが止まったその隙に、葵は黒刃を頭上高くに振り上げた。
(切れる。今の俺なら……この刃なら、断ち切れる!)
黒刃が紅い軌跡を描き、先ほど弾かれたはずの鱗へと振り下ろされる。
さきほどまでの硬質さが嘘のように、龍の鱗がバターのように裂けていく。
葵の身体を震わせるほどの衝撃と共に、刃が龍の喉元を深く、深く切り裂いた。
富士の山頂で、龍の黒い血が雨のように降り注ぐ。新選組の命運を賭けた一撃が、ついにその巨体の均衡を崩そうとしていた。




