第二章 龍の頂へ 22話 【登龍、砕けぬ鱗】
葵の身体は、ドラゴンの巨体に比べれば塵のように小さかった。しかし、その小柄な身体こそが最大の武器となる。
葵は左右に激しく跳躍し、ドラゴンの視線を執拗に引きつける。業火の熱風を紙一重で回避しながら、じりじりと懐へと距離を詰めていく。
「こっちだ、こっちだ!」
葵が挑発するたびに、ドラゴンは巨大な頭部を振り回す。その挙動のひとつひとつが、大地を揺るがす衝撃となって葵を襲う。
視界を覆うのは、鉄よりも硬い脚の鱗だけ。だが、葵は迷わない。その背後には、信頼する局長と副長が控えているからだ。
「今だ、土方!」
「応ッ!」
合図と共に、近藤と土方が左右から同時に地を蹴った。
二人の剣がドラゴンの巨脚の腱を的確に斬り上げる。巨大な衝撃でバランスを崩したドラゴンが、天を仰いでひときわ大きな咆哮を上げた。
「今だ、葵!!」
近藤の声が、空を切り裂く。
葵はそのチャンスを逃さず、瞬時にドラゴンの腕を駆け上がり、屈強な筋肉の隆起を足場にして、首元へと跳躍した。
「……ッ、首を取る!」
葵は黒刃を両手で構え、ドラゴンの喉元に全身全霊の力を込めて突き立てた。
紅い核が砕け散らんばかりに輝き、黒刃がドラゴンの鱗に食い込む。
だが――。
――カキンッ!!
甲高い金属音が響き、衝撃で葵の腕が痺れる。
ドラゴンの首元を覆う鱗は、まるでダイヤモンドのように硬質だった。突き立てた刃は弾かれ、葵の身体は逆に宙へと放り出される。
「くそっ……切れない……!」
刃を通すことすら許さない絶対的な防壁。
絶望的な光景を前にしても、葵は空中で姿勢を整え、再び龍の首へ向かって黒刃を振るった。
勝負の刻は、刻一刻と過ぎ去っていく。




