第二章 龍の頂へ 21話 【業火の包囲網、捨て身の囮】
翼を失ったドラゴンは、もはや理性を失ったかのように荒れ狂った。
咆哮するたびに口腔から灼熱の熱風が噴き出し、山頂の雪と岩を焼き払う。あっという間に辺りは業火の壁に囲まれ、新選組の隊士たちは炎の檻に閉じ込められる形となった。
「クソッ、熱い……!」
隊員たちが必死にドラゴンの四肢や胴体に刃を叩き込むが、その分厚い皮膚と強固な鱗は、まるで岩石を斬るかのような反動を返すばかり。どれほど斬り刻んでも、それは巨体にとってはかすり傷にもならなかった。
「ちっ、でけぇな……! これでは埒が明かん、首を狙うしかねぇ!」
近藤が焦りを露わにして吐き捨てる。しかし、その首は高すぎて、正面からでは剣が届かない。
その時だった。葵が静かに、だが決然と前に出た。
「……囮になります」
葵の瞳には、死への恐怖ではなく、ただ勝利への執念だけが宿っていた。その言葉に、近藤が葵の肩を力強く掴む。
「死ぬんじゃねぇぞ。……生きて、龍の首を落として戻ってこい」
局長の言葉が、葵の背中を力強く押し出した。
葵は黒刃を両手で握りしめ、業火が渦巻くドラゴンの正面へと躍り出る。
「こっちだ、化け物!」
葵は叫びながら、紅い核を限界以上に脈動させる。
少年の全身から立ち上る蒸気は、自身の血液が蒸発するほどの熱量だった。
ドラゴンがその巨大な頭部を下げ、葵を食い殺さんと殺意を向ける。その一瞬の隙――龍の首元が、わずかに空いた。
「今だ!」
葵は火炎の中を疾駆する。
死の熱風が皮膚を焼く。それでも葵は踏み込んだ。
局長の言葉を背に、葵はたった一人、龍の懐へと飛び込んでいく。




