第二章 龍の頂へ 20話 【飛翔の阻止、空を裂く双刃】
「――飛ぶぞ! 離陸させるな!」
近藤の咆哮と同時だった。ドラゴンがその巨大な翼を広げ、ばさり、ばさりと重苦しい羽音を響かせ始める。その巨体が浮き上がれば、この包囲網は一瞬で無効化される。そうなれば、空からの蹂躙が始まることは火を見るより明らかだった。
「土方! 葵! 翼を切り落とせ!」
近藤の指示を受け、二人は迷うことなく地を蹴った。
葵は眼前に立ちはだかる近藤の広い背中に迷わず足をかける。近藤もまた、二人の跳躍を最大限に活かすため、鋼のような肉体でそれを支えた。
「行くぞ!」
「応ッ!」
二人が頂点へと達する。
空中で交差するように、土方は右の翼へ、葵は左の翼へと刃を振り下ろした。
土方の放つ一閃は、冷徹なまでの精度でドラゴンの腱を断つ。葵の黒刃は、紅い核の熱量を最大限に解放し、まるで熱した鉄を突き刺すかのように鱗を焼き切った。
「――おおおおおっ!」
二人の体重が、重力と共に刃に乗り移る。
肉を切り裂く鈍い音と、鱗が剥がれ落ちる金属音が重なり合った。ドラゴンの咆哮が悲鳴へと変わり、翼の羽ばたきが強制的に中断される。
ドォォォォン!!
二人は着地と同時に大地を砕き、ドラゴンは巨大な身体をよろめかせながら、再び地に足をついた。
宙に浮かぶ自由を奪われたドラゴンが、憎悪の籠もった眼光で二人を睨みつける。
「……翼は殺した。飛ぶ羽音はもう聞こえんぞ」
土方が着地し、冷静に刃についた龍の血を拭う。
葵は黒刃を構え直し、荒い息を吐きながらも、その瞳から闘志を消すことはなかった。
空を飛ぶ力を奪われた龍。しかし、その怒りはより一層深まり、地上での殺戮兵器と化した。
包囲網は維持されている。だが、ここからが本当の地獄の始まりだった。




