第二章 龍の頂へ 19話 【黒霧の咆哮、至近の死神】
ついに、富士の頂に新選組の全隊員が集結した。
頂を占拠していたドラゴンを四方から囲い込み、死角を完全に封じ込める。隊士たちの殺気が一つにまとまり、山頂の空気を張り詰めさせる。
「お前ら、勝ち鬨をあげるときだ! 踏ん張れ!」
近藤の叱咤激励が戦場に響き渡ると、新選組全隊の咆哮が頂上に轟いた。
その気迫に呼応するように、ドラゴンが纏っていた黒い霧が渦を巻き、ついにその巨大な姿を露わにする。
――ガァァァァァァァッ!!
ドラゴンの咆哮。ただそれだけの音圧が、物理的な衝撃波となって隊員たちを襲った。
前列の平隊員たちが、抗う術もなく身体を飛ばされる。葵は地面に突き刺さるほどに足に力を込め、激流のような衝撃に必死で踏ん張った。
(でかい……これが、頂上の主……)
葵は、獲物を狙う鷹のような瞳でドラゴンの挙動をじっと伺った。
これまで戦ってきた大型個体とは次元が違う。その巨体から放たれる圧倒的な質量。わずかな筋肉の伸縮から動きは読み取れるものの、その全身を覆う硬質な鱗と纏った霧のせいで、致命的な「弱点」を見極めることができない。
その時、ドラゴンの巨大な尾が風を切る音が響いた。
「――尾が来ます! 右に掃いてくる!」
葵の鋭い警告が飛ぶと同時に、近藤が瞬時に反応した。
「全隊、回避!」
近藤は咆哮を上げる巨大な尾に対し、自らの巨大な大剣を渾身の力で振りかざした。
鋼と鱗が衝突し、火花が夜空を焦がす。近藤の剣が尾の勢いをわずかに殺し、その隙を突いて新選組の陣形が流れるように動く。
しかし、これはまだ「遊び」に過ぎないというのか。
ドラゴンは黒い霧の中で静かに、だが確実に、次の破壊の準備を整えていた。
絶対的な力の前に、葵の黒刃がこれまで以上に紅く、激しく脈動し始める。死線の一歩手前、運命を分かつ戦いが今、幕を開けた。




