第二章 龍の頂へ 17話 【死闘の山道、刃が刻む道】
標高が上がるにつれ、酸素は薄く、大地は龍の放つ熱気で焼けるように熱い。
頂へと近づくにつれ、山を徘徊する大型個体の密度は異常なまでに高まっていた。それはまるで、主を守るために山そのものが牙を剥いているかのようだった。
「……ッ、次から次へとキリがねえな!」
新選組といえど、この環境での連戦は過酷を極めた。
あちらこちらで激しい怒号が飛び交う。怪我を負った隊士は即座に斎藤率いる3番隊の防衛ラインへと後退し、手当てを受け、再び戦列へ戻る。完璧な連携による撤退と補充のサイクルが、かろうじて全滅を免れていた。
しかし、戦況は膠着状態に陥りかけていた。
その空気を切り裂いたのは、先陣を切る二人の男だった。
「沖田! 溜まってんじゃないの、そこ!」
「永倉さん、譲りませんよ!」
1番隊隊長・沖田と、2番隊隊長・永倉。
二人は大型個体の群れの中に飛び込むと、まるで舞を踊るかのようにその巨体を斬り裂いていく。沖田の突きは異形の急所を正確に射抜き、永倉の豪剣は分厚い皮膜を豆腐のように断つ。
その二人の後ろには、さらに強固な盾となる近藤と土方が続いていた。
「遅れるな、皆の者! 龍の首は目の前だ!」
近藤が叫ぶと、隊士たちは沸き立つような歓声で応える。
局長の背中は、どんな防壁よりも頼もしく、副長の土方が放つ冷徹な戦術指示は、迷える隊士たちの進むべき道を正確に照らしていた。
葵もまた、二人の隊長たちの背中を追いながら、黒刃を振るっていた。
紅い核が熱く脈動する。刀が龍の眷属たちの命を吸い上げ、少年の身体能力を極限まで引き上げる。かつては孤独に戦っていた少年だったが、今、周囲を見渡せば背中を預け合える仲間がいる。
「あぁ……この人たちとなら、地獄の底までだって行ける」
葵は確信した。
荒れ狂う嵐のような戦場を、新選組という巨大な刃が突き進む。頂上のドラゴンの咆哮が、まるで新選組の進撃を嘲笑うかのように富士の山肌を震わせた。
しかし、誰も怯まない。
新選組の刃は、龍の逆鱗に触れるための距離を、確実に詰めていた。




