第二章 龍の頂へ 16話 【境界線、誇りの咆哮】
天幕を出た新選組の前に、一台の装甲車を背にした軍の指揮官が立ちはだかった。
彼は夜半の襲撃で指揮下の部隊を半壊させ、自らも肩に深手を負っている。それでもなお、プライドを守るために近藤の進路を遮った。
「……まさか、己たちだけでいくつもりか。このドラゴンを単独で討伐するなど、狂気の沙汰だぞ!」
指揮官の声は震え、その瞳には新選組に対する妬みと、己の無力さへの怒りが入り混じっていた。
近藤は歩みを止めると、不敵な笑みを浮かべてその男を見下ろした。
「お前らは邪魔なんだよ」
その言葉は、冷酷なまでに断定的な響きを持っていた。
「己の信念も持たず、鉄の塊に縋ってしか戦えんような奴が、死線を越える場所じゃない。……お前らの戦いはここで終わりだ。黙ってここで待っているんだな」
近藤は指揮官の肩を乱暴に押し除け、前へと進み出す。
その背中を、1番隊の沖田、2番隊の永倉が続く。隊士たちは指揮官の視線を意にも介さず、ただ前方の山頂だけを見つめて通り過ぎていく。
指揮官は唇を噛みしめ、近藤の背中を睨みつけた。
怒りが身体を支配し、拳が握りしめられる。しかし、彼は何も言い返せなかった。
夜半の襲撃において、自分の部隊がどれほど無力であったか。そして何よりも、自分たちが全滅しかけたところを、あの「野蛮」と蔑んでいた新選組に救われたという動かぬ事実が、彼の言葉を封じ込めていたからだ。
「……行かせてやるのか」
配下の兵士が呟くが、指揮官は何も答えられない。
新選組の背中は、戦いを知り尽くした者だけが持つ、圧倒的な威圧感と誇りに満ちていた。
「葵、行くぞ」
隊列の中にいた葵もまた、指揮官の傍を通り抜ける。
少年の眼差しは、軍の兵士たちが持つ冷たい近代兵器ではなく、確かな熱を帯びた「刃」の方を向いていた。
新選組が去った後の山道には、打ち捨てられた近代兵器の残骸と、静まり返った軍の陣地だけが残された。
新選組は、もはや国の道具ではない。彼らは自分たちの「義」のために、人知を超えた龍の住処へと足を踏み入れていく。
道は険しく、標高は上がる。
頂のドラゴンが、ついにその巨大な眼をゆっくりと見開いたような気がした。




