第二章 龍の頂へ 15話 【選別、そして斎藤の眼】
近藤の「軍との決別」という決断は、隊内に瞬く間に浸透した。
天幕の中、各隊長たちが集められる。重々しい空気の中、近藤は地図に描かれた富士の山頂を見つめ、静かに切り出した。
「これより、我らは軍を切り離して頂上を目指す。だが、突撃だけが戦いではない。頂上の龍、およびその周辺を固める眷属の動きを正確に把握し、部隊に的確な指示を飛ばす必要がある」
近藤は各隊長たちを見渡した。
「3番隊は、指示を出すために後方からの支援で頼む。……いつもすまんな」
その指名を受けた3番隊隊長・斎藤一は、一切の表情を乱さず、冷徹なまでの静けさで近藤を見つめた。
「それが俺達の役目ですから」
斎藤の簡潔で重みのある言葉に、近藤は深く頷く。続けて、近藤は最前線を担う者たちへ視線を移した。
「1番隊と2番隊は先陣をいく。踏ん張れよ、沖田、永倉」
その名を聞くや否や、天幕の中にいた沖田総司と永倉新八が、顔を見合わせ不敵な笑みを浮かべる。二人の眼には、強敵との死闘を待ちわびる武者震いが宿っていた。
「任せてください、局長。龍の喉元まで、一番乗りで斬り込んでみせますよ」
沖田が愛刀の柄を小気味よく鳴らすと、永倉も豪快に笑って応じる。
「お安い御用だ! 龍だろうが何だろうが、俺たちの剣が通じない相手なんざいねぇ!」
二人のやる気満々たる姿に、山南が冷徹な手つきで地図を指し示し、全体の陣形を告げた。
「作戦はこうです。4番隊は右翼から、5番隊は左翼から攻めます。本隊が正面から龍の注意を引きつけている間に、左右から眷属を排除し、包囲網を敷く。……近代兵器など不要。我らの連携こそが、この山における最強の武装となるはずです」
天幕の空気が、かつてないほど緊迫する。
軍という重石を切り離し、新選組はその精鋭のみで頂上を目指す。
葵は、その張り詰めた空気の中で、改めて自分の胸に手を当てた。
自分の名が刻まれた今、この部隊の一員として、龍の棲まう天へ剣を捧げる覚悟は固まっていた。
「行くぞ。龍の頂へ、新選組の意地を見せつけるために」
近藤の号令とともに、天幕の幕が跳ね上げられる。
富士の険しい斜面に、新選組という巨大な刃が、再び突き進んでいった。




