第二章 龍の頂へ 14話 【会議の果て、決断の火種】
夜明けと共に沈静化した富士の麓。無残に破壊された拠点の中で、軍の司令官はただ呆然と立ち尽くしていた。新選組の隊士たちが帰還したことで、大型個体たちの活動は収まり、戦場には奇妙な静寂が訪れていた。
しかし、この一夜で決定的な事実が露呈した。
「近代兵器」という軍の誇りは、異形を相手に無力であったこと。そして、この国を守るはずの軍が、ただの足手まといに成り下がったという現実だ。
陣地の一角、天幕の中で緊急会議が招集された。
局長・近藤、副長・土方、そして参謀・山南。三人の重苦しい空気が、狭い天幕を満たしている。
「……軍は、囮に使いましょう」
葵の提案が天幕に響いた直後、山南が静かに頷こうとした。しかし、それを近藤が力強く制した。
「いや、軍はここにおいていく」
「……何とおっしゃいましたか?」
山南が驚きに目を見開く。
「頂上へは、新選組全隊でいく。余計な足枷は必要ない。戦いとは、信じられる者同士で背中を預け合うことだ。あの軍の連中と命のやり取りはできん」
山南は即座に難色を示した。
「しかし、それでは政府との関係が破綻します。公式の命令を無視して独断で進軍すれば、反逆と見なされかねない。それでは屯所の存続すら危ういのです」
土方が大きなため息を漏らし、その整った顔立ちの形の良い眉を深く歪ませた。
「山南の言う通りだ。近藤さん、この進軍はあくまで軍の指揮下で行うのが表向きの筋だ。それを無視すれば、今後、軍からの支援や物資の供給は一切なくなるぞ?」
隊の存続を預かる参謀と副長の切実な懸念。しかし、近藤はそれらを聞き流すように、ただ不敵に笑ってみせた。
「今までと変わらんさ」
その言葉には、迷いがなかった。
「元々、俺たちは誰かの飼い犬として生きているわけじゃない。死ぬときは死ぬ。だが、俺たちの死に様を決めるのは政府の命令じゃない。俺たち自身の誇りだ」
天幕の外で聞いていた葵は、その言葉に胸が高鳴るのを感じた。
組織の論理や、政治的な駆け引きなど、あのドラゴンの吐息の前では無意味だと、近藤は知っていたのだ。
「葵、準備はいいな。……我ら新選組、これより単独で頂を目指す」
近藤の決断に、天幕の空気が引き締まる。
軍という重石を切り離し、剣と誇りだけを携えて。新選組は、龍の棲まう天へと登る「最後の行幸」を開始した。




