第一章 紅蓮の咆哮 10話 【峻険なる試練、登りゆく死線】
富士の麓に築かれた討伐拠点は、軍の近代兵器による無機質な熱気で満ちていた。
整然と並ぶ重火器の列の端に、新選組の陣地が設営される。心身を極限まで研ぎ澄ます剣客たちと、鉄の塊に頼り切った軍の兵士たち。その空気は、互いに触れれば火花が散るほどに険悪だった。
「……結局、あいつらは機械がないと何もできねえんだな」
新選組の隊士が、演習場で空砲を乱射する軍の兵士を見て吐き捨てる。
確かに、軍の兵装は圧倒的だった。しかし、彼らは「異形」の生命力を直接肌で感じ、剣で断ち切るという戦いの本質を理解していない。新選組にとって、それは戦士の誇りを汚される行為に等しかった。富士の麓に築かれた拠点で、作戦の全貌が明かされた。
山頂に鎮座するドラゴンは、微動だにせず獲物を待ち構えている。だが、到達を阻むのはその圧倒的な存在だけではなかった。
「……甘くはないな」
山南参謀が地図を指でなぞる。富士山へと続く登山道、そして険しい斜面のいたるところに、無数の「大型個体」の反応が確認されたのだ。それは、山頂の主を守るための障壁か、あるいは山そのものを侵食する眷属か。
「頂上のドラゴンへ辿り着くには、これらの大型個体を全て排除しながら登るしかない。……新選組、先陣を切る覚悟はあるか?」
軍の司令官の傲慢な問いに対し、近藤局長は鼻で笑い、即座に隊士たちへ号令を下した。
「3番隊、全機登山準備! 麓で遊んでいる暇はねぇぞ。山頂の龍を屠る前に、眼前の虫どもを叩き潰す!」
新選組の隊士たちが、一斉に山へと駆け出す。少年もまた、黒刃を背にその列に加わった。
山を登るにつれ、気温は下がり、空気は薄くなっていく。しかし、それ以上に少年の背筋を冷やすのは、周囲の森から漂う異常な殺気だった。
木々の間から、鈍色の巨体が現れる。大型個体だ。
軍の砲撃は標高の高さと地形の険しさにより、その正確さを失いつつあった。近代兵器が火を噴くよりも早く、新選組の隊士たちが肉薄し、一刀の下に敵を切り伏せる。
「くそっ、次から次へと!」
少年が黒刃で大型個体の頸椎を断ち切ると、紅い核が熱を帯び、少年の肉体を強化する。
山を登ることは、同時に戦い続けることを意味していた。体力は削られ、肉体は限界に近づく。しかし、頂上のドラゴンは、なおも動かない。まるで、麓の騒乱を冷ややかに見下ろす神のように。
「……登り切るぞ。たとえ、頂上で命が尽きようともな」
少年は荒い息を吐きながら、次なる大型個体へと跳躍した。
眼下に広がる拠点の灯りは、すでに遠い記憶のように小さくなっていた。これはただの山登りではない。頂上の絶対者へ向かうための、果てしない死の行軍だった。




