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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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焦熱の地獄と、残業したくない錬金術師

その刹那、天穹はもはや晩秋の深い青ではなく、轟音とともに崩落した溶鉱炉と化していた。


フェニックスは万仞の絶嶺の頂より、神経を貫くような甲高い啼き声を放った。山脈をも覆い尽くさんばかりの暗赤色の巨翼が、猛然と羽ばたく! 


だが、巻き起こったのは突風ではなく、宙を埋め尽くす豪雨の如き赤金の火羽であった。


時節はまさに晩秋、霜降の頃。太古の絶嶺の前哨平原には、積もるほどの雪も凍土もない。ただ見渡す限り枯れ果て、脆くなった枯草や落ち葉、そして早朝のひび割れた大地を薄く覆う蝉の羽のような白霜があるばかり。


極限の乾燥と冷気は、この平原を平時においてすら巨大な火薬庫へと変貌させていた。


そして、優美に舞い散るように見えたその落羽の実体は、万度の高熱を宿した生ける溶岩そのものであった。


最初の一片が平原に触れた瞬間、地表の脆い霜は水蒸気になる暇すら与えられず、一瞬にして消滅した!


轟――!!


乾ききった草地と落葉が、火の粉に触れた刹那に爆発的な燃焼を起こす! 何万もの火羽が神の裁きたる流星雨の如く、前哨平原へ容赦なく降り注いだ!


極限の乾燥は炎にとってこの上ない燃料となり、見渡す限りの枯野は目に見える速度で荒れ狂う火の海へと呑まれていく。


吹き荒れる晩秋の鋭い山風に煽られた炎の舌は、立ち並ぶ枯木や軍旗を、わずか一秒で灰燼へと帰せしめた!


だが、広がる業火よりも速く命を刈り取ったのは、地獄のような物理的絶殺――極度に乾燥した大気中の酸素が、超高温によって一瞬にして吸い尽くされたことだった。


「カハッ……ゲホッ……!」


千度を超える高熱が、瞬く間に周囲数キロの酸素を根こそぎ貪り食った。逃げ惑う戦士たちは口を大きく開き、眼球を鬱血で飛び出させながら、熱せられた鉄板の上に打ち上げられた魚のように悶絶し、命を繋ぐわずかな空気を必死に貪ろうとする。


しかし、晩秋の冷風はすでに灼熱の真空へと焼き変えられていた!


肺腑に吸い込まれたのは空気などではなく、赤熱した鉄砂のような猛毒の熱波だった!


空しく繰り返される深呼吸のたび、乾燥した高熱が鼻腔、気管、そして肺胞の粘膜を容赦なく焼き爛れさせ、焦げ付いた血の味が喉の奥で炸裂する。


無数の戦士が悲鳴すら上げられず、水ぶくれとなり爛れた己の喉笛を両手で掻きむしりながら、酸欠の窒息と目眩の中で乾き切った焦土へと絶望的に崩れ落ち、痙攣し、己の肉を掻き毟りながら、暗転する視界の中で意識を失っていった。


そして、この乾燥した窒息の煉獄にあって、真の残酷な拷問は甲冑を纏いし戦士たちの上に降りかかった。


金属とは、極めて優れた熱伝導体である。


降り注ぐ火羽は重装歩兵や精鋭騎士の胸甲、籠手、兜へと張り付いた。暗赤色の火種は小さく見えながらも骨に食らいつく蛆虫の如き執拗さを持ち、闘気をもってしても払いのけることができない。


三秒も経たぬうちに、晩秋の冷気を帯びていた剛鋼の鎧は、真っ赤に灼熱していった!


「ぎゃあああああああああっ――!!」


引き裂かれるような、およそ人のものとは思えぬ絶叫が、窒息の静寂をようやく破った!


それは、生身の肉が焼き焦がされていく生々しい音。


戦士たちは狂ったように鎧を剥ぎ取ろうとしたが、留め具も革帯もすでに高熱で溶けて粘つく塊となり、骨肉に焼き付いていた。


裏地の乾いた麻布は一瞬で炭化し、超高温の金属板は皮膚を、真皮を、皮下脂肪を瞬く間に煮えたぎらせ、焼き爛れさせていく!


ジューッ、ジリジリと!


鼻腔を突く吐き気を催すような脂の焦げ臭さとともに、灼熱の金属が生きた人間の肉と混ざり合い、同化していく。


激痛にのたうち回り、地面に背中の甲冑を擦り付けて剥がそうとする者もいたが、そのたびに焦げた粥状の皮膚が引き裂かれた筋肉ごと、骨から無残に剥ぎ取られていくだけだった!


「助けてくれ……脱がせてくれ……これを脱がせてくれええええッ!!」


一人の騎士が泣き叫びながら仲間に縋りついた。胸甲の縁を掴もうとしたその指先は、灼けた鉄に触れた瞬間に白く爛れて張り付き、無理やり引き剥がした指には、鎧ではなく自身の骨と焼け爛れた肉片がぶら下がっていた!


周囲の者たちに救う術などなかった。焼き爛れた者たちの顔面は熱に融解して蝋のように垂れ下がり、瞼は焼け焦げて癒着し、眼球すらも高熱に萎縮して光を失っていく。


晩秋の寒冷と劫火の灼熱が織りなす最悪の皮肉――身を守り暖を取るはずの重厚な鎧は、この瞬間、骨髄に喰い込む生きた「鉄の処女」と化し、心臓が脈打つたびに爛れた肉と赤熱した鉄錆をかき混ぜ続けていた!


焦げた四肢が枯野の火海で痙攣し、太古の絶嶺の前哨平原は、高熱と猛火、そして窒息が支配する完全な屠殺場へと成り果てていた。


天高くでは、フェニックスの巨大な赤金の翼が今なお緩慢に羽ばたき、冷酷なる神の如く、秋霜と劫火の中で無様に身悶える地上の羽虫どもを見下ろしていた。


「アネさんッ!」


煙の立ち込める火の海を突き破り、野太く、それでいて極限まで情けない怒号が響き渡った。


フェニックスが火羽を広げた最初の数秒、ルシアの社畜特有の労災と致命的リスクを嗅ぎ分ける鋭敏な本能は、すでに最大警報を鳴らし響かせていた。


英雄気取りで踏み止まる気など毛頭なく、契約書を交わした瞬間には即座に後退を下令し、ベテルギウスの重装甲を盾にして一息に数百メートルもの距離を離脱していたのだ。


貴族の矜持など一欠片も持ち合わせていないその徹底した生存本能ゆえに、彼女は紙一重で死線をすり抜け、平原全域の酸素を根こそぎ奪い去った初撃の破滅を躱しおおせていた。


だが、熱波と炎の境界から転がり出るように駆けてくる影を認めた瞬間、ルシアの深緑の瞳は引きつるように激しく痙攣した。


ガルクだった。


あの獣のように獰猛な聖庁の審判官は、今や高価で重厚な神聖重鎧の影も形もなく、それどころか下着の革鎧に至るまで綺麗さっぱり脱ぎ捨てていた。


全身を覆うのは、炎に舐められて端が焦げ落ちた、ボロボロの麻布の切れ端が一枚きり。荒れ狂う熱風の中、腰の周りに哀れなほど必死に巻き付けられ、どうにか最後の尊厳を覆い隠している状態だった。


剥き出しになった筋骨隆々の肉体は煤煙に塗れ、ところどころ水ぶくれの紅斑が浮かび、その姿はさながら火刑台から命からがら逃げ出してきた野蛮人のそれであった。


「……アンタ、よく生きてたわね?!」


無表情を崩さないルシアの顔に、珍しく露骨な驚愕が走った。


先ほど彼女が二人の皇子と死闘を演じていた間、ガルクは命を受け、前線の最深部へと突入して狂暴な魔獣を狩り、ついでに乱戦に紛れてオースの命を狙う刺客を秘密裏に始末していたはずだった。


道理から言えば、フェニックスの火雨が降り注いだ時、ガルクは火力の密度が最も高く、退路のない肉挽き機の中心にいたはずなのだ。


精鋭騎士すら鎧ごと炭化するようなあの地獄から、息絶えずに這い上がってきたというのか――聖庁の飼い殺す狂犬の生命力は、まさに規格外という他なかった。


「ゲホッ、ゲホッ! 昔、南方の反乱鎮圧でさぁ……異端の火術士に火海で包囲されて痛い目見ちまってよ。危うく野垂れ死ぬとこだったんだ」


ガルクは灰の混じる息を吐き捨て、今にも吹き飛びそうな腰布を死に物狂いで押さえながら、ひび割れた唇で生き延びた者の苦笑いを浮かべた。


「だからよ、あのデカい鳥が頭を出して空が赤くなった瞬間、迷わず一秒で全身の鎧の留め具をぶった切って脱ぎ捨てたのさ……運が良かったぜ。昔の時ぁ、あんな化け物じみた火じゃなかったからな。それでどうにか拾った命よ」


その決断力は、幾度となく死線を潜り抜けてきた血と涙の賜物だった。だが、脱ぐ猶予を失い、あるいは己の防護闘気を過信した貴族騎士たちは、今や骨の髄まで灰となって焦土に溶けている。


ガルクは周囲を見回し、最後に目の前の華奢な少女へと視線を戻すと、その表情をわずかに固まらせた。胸中に渦巻くのは、複雑極まりない衝撃と畏敬だった。


ルシアの状態も、決して万全とは言えなかった。


作業服のあちこちが裂け、右腕の強化外骨格からは過負荷による煙が上がり、首筋には短刃が掠めた生々しい血線が残っている。まさに薄氷を踏む死闘を切り抜けてきた姿だった。


ガルクはあの帝国の皇子二人の実力を嫌というほど知っていた――エドワードとロバート。無数の戦火を潜り抜け、大陸の頂点に君臨する怪物たち。


政治的配慮から急所を外す手加減をしていたとはいえ、二人の皇室の英傑が織りなす連携の網は、生半可な人間の抗える領域ではない。


だが、目の前の黒髪の女は、単身でその合撃をねじ伏せたばかりか、屈辱にまみれた相手に頭を下げさせ、攻守同盟を結ばせてみせたのだ。


ガルクの瞳から不貞腐れた光が消え去り、骨の髄からの敬意がそこに宿っていた。


だが、まじまじと見つめるうちに、彼の眉が奇妙そうにひそめられた。


「アネさん、ポーション飲まねえのか? 体中ボロボロじゃねえか……」


半分焼け焦げた眉をポリポリと掻きながら、ルシアのあまりにも華奢で薄い体躯を上から下へと眺め回し、ガルクは思わず小声で呟いた。


「それに何だか……前よりちっこくなった気がしねえか? 骨粗鬆症ってやつか? そういや、成人の平民女ってのはそういうカルシウム不足の悩みが多いって聞くが……」


ピキリと、ルシアの額に青筋が立った。彼女は無表情のまま手を上げると、冷たく硬い錬金手袋の指関節を、容赦なくガルクの額へめり込ませた。澄んだ打撃音が響く。


「喋れないなら口を閉じなさい。誰もアンタを口の利けない人間だとは思わないから」


彼女は冷ややかに手首を振り、腕の擦り傷を一瞥すると、まるで医学論文を読み上げるかのような平坦な口調で言い放った。


「高位神官の治癒術も、万能薬も、私が調合した特製回復剤も、本質はすべて『未来の生命力を前借りして現在の欠損を埋める』ものよ。即座に命を落とすような欠損や内臓破裂でもない限り、私は一口も口にしないわ――細胞の分裂回数には、上限があるんだから」


「さい……ぼう?」


額のたんこぶを押さえ、ガルクはぽかんと目を瞬かせた。地球の現代生物学に由来するその単語は、ただ剣を振るうことしか知らない異世界の住人にとっては、深遠な太古のエルフの呪文と大差なかった。


ルシアもまた、彼に義務教育を施す気など微塵も持ち合わせていなかった。


瞬時に肉体を全快させる神域の錬金ポーションを懐に忍ばせながら、傷の鈍痛と神経の灼熱に歯を食いしばって耐えている真の理由は、そこにあった――


この世界の愚かな聖職者や貴族どもは、治癒魔法や霊薬を神の奇跡と崇めているが、その「急速な治癒」の根底にあるカラクリをまるで理解していない。


莫大な外来魔力で人体の組織を乱暴に活性化させ、細胞に超高頻度の分裂を強いて寿命を前借りさせているに過ぎないのだ。


さらに厄介なことに、活性化の術式はいったん発動すれば、表面の傷が塞がった後も効果時間が切れるまで体内で燃え続ける。


平素から擦り傷一つで高級霊薬を煽り、事あるごとに大治癒を賜っていた帝国貴族たちが、一見すれば若々しく無傷でありながら、その内側の生命の蝋燭をボロボロにすり減らし、若くしてポックリと逝くのはそのためだった――あの間抜けどもは、それを一族に伝わる神秘の呪いだと本気で信じ込んでいる始末だ。


彼女は長生きを愛する元社畜である。過労死という地獄を一度味わった身として、拾い直したこの命を誰よりも惜しんでいた。


「要するに、軽々しく体を前借りするバカほど早死にするってことよ」


ルシアは簡潔に結論を吐き捨てると、踵を返し、平原を覆い尽くす猛火の彼方、山の頂に太陽の如く君臨する暗赤色の神獣を見据えた。


「無駄口は終わりよ、素っ裸の審判官さん。そこらの死体からまともなズボンを剥ぎ取ってきなさい――あのお高くとまった神話のバケモノから、きっちり手当を請求しに行くわよ」


ガルクは迷うことなく、後方の比較的安全な残存戦線へと駆け出した。


ただ、この男の倫理のハードルは、ルシアの想定よりも遥かに柔軟だった――わざわざ焦げた肉片のへばりつく死体の山を漁る手間を嫌い、審判官の野蛮な直感に従って、火海の縁から命からがら這い出し、瓦礫の上でガタガタと震えていた哀れな傭兵を正確にロックオンしたのだ。


「な、何すんだテメエッ?! 狂ったのか?! やめろ、離せええええッ!!」


傭兵の喉を裂くような絶叫が響く中、高位戦士であるガルクの理不尽な怪力の前に、布地の引き裂かれる音が連続した。


ルシアは無表情のままその場に佇んでいたが、口元だけがピクピクと引きつっていた。


呆れとわずかな戦慄が混ざり合う視線の先で、ガルクは山賊の略奪じみた手際の良さを遺憾なく発揮し、わずか三秒でその哀れな傭兵の装備を頭から爪先まで綺麗に剥ぎ取り、下着の一枚すら残さず奪い取って、堂々と自分の足を通した。


「アネさん、履けたぜ!」


奪い取ったばかりの、明らかにパツパツで股に食い込んでいる野暮ったいズボンを叩きながら、ガルクは背後で股間を押さえ、晩秋の寒風吹き荒れる瓦礫の中で咽び泣く全裸の傭兵を完全に無視した。


何食わぬ顔で大股にルシアの前へ戻ってくると、まるで道端の草でも摘んできたかのような平然とした面構えで、息一つ乱さず本題を切り出した。


「で、どう動く? 正面から突っ込むか? だが、あの火の鳥を仕留めるのは骨が折れるぜ。近づくだけで消し炭にされかねねえ」


二人の間に気まずい沈黙がコンマ数秒漂ったが、百戦錬磨の社畜たるルシアは極めて高い職業倫理を備えていた――目的が定まっている以上、過程の些末な倫理観の破綻など脳内で即座にフィルタリングできる。


彼女は眼前の難題へ即座に意識を切り替え、最も肝要な疑問を投げかけた。


「闘気は攻防一体の力よ。なら、あの伝説級の高熱に対して、あらかじめ闘気を極限まで練り上げて全身を完全に覆った場合、短時間なら熱波の浸食を耐え切る見込みはある?」


ガルクが自身の経験を踏まえて口を開きかけた、その時――背後の硝煙の中から、低く威厳に満ちた掠れ声が割り込んできた。


「可能だ」


回復ポーションを煽り、骨折の激痛をねじ伏せたセリフィア帝国第一皇子、エドワードが大股で歩み寄ってきた。


顎にこびりついた乾いた血を拭い去り、その瞳にはベテルギウスに叩きのめされた屈辱と警戒の色を滲ませつつも、戦術を論じるその声音には次期皇帝たる冷静さと研ぎ澄まされた知性が宿っていた。


「高位戦士が全身に闘気の防護壁を展開し、魔力と体力が尽きぬ限り、十数分間であれば火羽による直接の炭化を防ぐことはできる。だが、フェニックスを完全に討伐する上での真の詰み筋は、高熱そのものではない――奴の有する、ほぼ不死と言ってよい『再生』の特性だ」


エドワードは深く眉根を寄せ、死刑宣告を読み上げるかのような重苦しさで告げた。


「古き記録によれば、肉体を千々に引き裂き、首を刎ね落とそうとも、中心にある『不滅の心火』が燃え続ける限り、奴は滅びの灰の中から第二波となる破滅的な涅槃の天火を呼び起こし、瞬きの間に業火を纏って完全復活を遂げる」


ルシアは淡々と耳を傾けていた。その深緑の瞳には、微塵の動揺も浮かんでいない。


「不滅の心火……灰からの再構築、ね」


彼女は小さく呟いただけだった。眉一つ動かさない。


地球で無数の神話やファンタジーを読み漁り、ポップカルチャーの中で「不死鳥の涅槃」などという擦られ尽くしたギミックを嫌というほど見知ってきた現代人にとって、その手の理不尽な伝承など、認識の埒外ですら何でもなかった。


仕組みが存在する怪物である以上、エラーコードを吐き散らすポンコツシステムと何ら変わりはない――そして工学系社畜の最も得意とするところは、そうした増長したデッドロックに対し、物理法則の側から力づくでブレーカーを落とすことだった。


「詰まるところ、燃焼には酸素が必要よ」


天空で羽ばたくたびに熱波を撒き散らす巨鳥を見据え、ルシアは実験室で制御不能に陥った化学反応を検証するかのように、極めて平坦な声で言い放った。


「どれほど高位の魔の炎であろうと、燃焼の三要素を叩き潰して、火の粉一つ熾せない状態にしてしまえば……『死と再生』とやらも、ただの熱源を失った破綻プロセスに過ぎないわ」


極めて危険な、常軌を逸した物理的アプローチが、彼女の脳裏で目まぐるしく組み上がっていく。


だが、焦って突撃するつもりは毛頭なかった。デッドラインの際で綱渡りを続けてきた社畜として、「規格外案件のワンオペ」が過労死に直結することなど骨身にしみている。


あの神話級の巨大反応炉を完全に窒息させ、絶対真空の中に圧殺するには、手持ちの魔力水晶とベテルギウスだけでは安全マージンが絶望的に足りない。


外注が必要だった。リスクと工数を、他人に無慈悲に押し付けるための頭数が。


ルシアはわずかに首を巡らせ、戦場の外縁を這う黒煙の向こう、数千メートル彼方に聳える主観覧席を見据えた。


立ち込める陽炎と歪む大気の向こう、彼女はその二つの視線を確かに捉えていた。


貴賓席の最前列に並び立ち、硬い表情で戦場を見下ろすカリーナとクレア。


狩猟祭には絶対の鉄則があった――号角が鳴り響いた以上、外部の人間が途中参戦することは許されない。まして二人は今日、それぞれが複雑に絡み合う家の事情を抱えており、最初から出撃名簿に名を連ねてすらいなかった。


だが、カリーナとクレアの背後、帝国屈指の武門を象徴する獅子の軍旗の下に、山岳の如く重厚な巌の如き人影が屹立していた。


クレアの父であり、当代随一の武名を誇る名将――シルヴィア侯爵。


深紫の剛鋼の重鎧に身を包み、両手で巨大なブロードソードを杖のように突くその男の顔には、火光に照らされて溶岩の如く浮かび上がる幾条もの刀傷があった。


尋常の魔獣ならば視線を交わすことすら恐れるほどの殺気を全身から放ち、遠目に一瞥しただけで並の兵士なら腰を抜かすほどの威容。


だが、今のルシアの目に映るその強面で威圧感の塊のような中年男は、恐ろしい貴族の重鎮などでは断じてなかった。


――この戦場において最も頑強で、最もタフで、高圧排気ポンプ兼物理シェルターとしてこれ以上なく適した、最高級の「タダ働き要員」だった。


迷いなど一瞬で切り捨てられた。ルシアの瞳に冷徹な光が宿る。


エドワードやガルクに声をかける暇すら惜しみ、踵で焦土を力任せに踏み砕くや、背後のベテルギウスを引き連れて、シルヴィア侯爵の座す防衛線の陣地へ向けて一目散に猛ダッシュを開始した。


背筋の凍る堅物な父親だろうが、厳格な侯爵だろうが知ったことではない。


神話の怪物に焼かれるか、定時で無事に帰宅するかという二者択一の前で、ルシアは利用できる強大な味方をことごとく、この狂気の強制残業へと巻き込むことに何の躊躇いも持ち合わせていなかった。

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