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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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優しい呑兵衛お姉さんと、熱血の天才少年

教皇専用のプライベートな休憩室の中、本来なら神々すら息を呑むはずの恐ろしい威圧感は、今や極めて滑稽な低気圧へと成り下がっていた。


ルシアは完全に夢を失った塩魚のように、ベルベットのソファへ深々と身を沈めていた。


片手で気だるげに頬杖をつき、もう片方の錬金指套を嵌めた手で、暗赤色の幽光を放つ八角の走馬灯をつまんで、でんでん太鼓のように宙で退屈そうにゆらゆらと揺らしている。


走馬灯の軒下に下がる数体の青白い小型紙人形は、彼女の乱暴な揺さぶりに振り回されて宙で激しく揺れ、不気味な笑みを浮かべた白塗りの顔の皮が慣性で左右に揺れていた。


本来の陰森とした圧迫感は、文字通り「車酔いで吐きそう」な荒唐無稽の喜劇へと完全に揺り落とされていた。


「だから……これの一体どこが守護者の権限なわけ?」


ルシアは盛大に白目を剥き、天井に向かって力なく悪態をついた。


「先代のあのクソ守護者は死に際だけは潔く、尻を叩いて灰になって消え去ったくせに、まともな取扱説明書の一枚すら残さないなんて! 引き継ぎはどうしたのよ? 帝都の工房にいる一番強欲な鍛冶屋の親父だって、交代の時には弟子に『このやっとこは熱いぞ』くらい言い残すでしょうに」


ルシアは泣くに泣けなかった。今になって思い出してみれば、長生寺の老僧と話していた時、確かに記憶を思い出してこそ初めて消去できるとは言っていたが、その記憶を消去する能力をどうやって使うかについては一切触れていなかったのだ。


「このポンコツランプ、今や『読み込み』機能しかなくて『削除キー』がないじゃないのよ?! 他人に過去を全部思い出させておいて、記憶を消す裏口すら私に残さないなんて! じゃあ私が過去にやらかしたあの数々の悪行はどうすればいいの? 全大陸の被害者たちに捕まって市中引き回しにされるのを待てって言うわけ?!」


激高したルシアはソファの肘掛けを勢いよく叩き、手の中の禁忌の石板をレンガのように投げつけそうになった。


「ルシアさん、ルシアさん! 落ち着いて、どうか怒りを静めてください……!」


傍らにいたオースは肝を冷やし、淹れたての安らぎハーブティーを手に小走りで駆け寄ってきた。


その卑屈極まりない笑みとへつらう姿は、もし教廷の外にいる何万もの敬虔な信徒たちに見られようものなら、総殿の信仰の塔がその場でガラガラと音を立てて崩壊しかねないものだった。


「全部私のせいですから、どうか気を荒立てないで、深呼吸を……そうです、吸って、吐いて――後で私が人を遣わして、教廷の宝物庫にある雪蓮蜂蜜をありったけお届けして喉を潤していただきますから! それにルシア様に……コホン、ルシアさんがうっかり『お世話』してしまった被害者たちについても、教皇庁の免税特権と贖罪符を使って私がもみ消してみせます。誰一人としてルシアさんに文句を言わせたりしません!」


オースは手慣れた手つきでお茶を差し出し、彼女の背中をさすりながら、生き残るための必死な従順さを全身から滲み出させていた。


どうにかこの毛を逆立てた守護者のご機嫌を宥めると、オースは額の冷や汗を拭い、ふと本題を思い出したかのように軽く咳払いをして話を切り替えた。


「ところで、ルシアさん、ヴァレリー教授。我々の陣容はすでに……ええ、極めて強力ではありますが、今回の狩猟祭に向けて、実は私が水面下でもう一人、極めて重要な仲間を引き入れてあるのです」


「はぁ? 仲間?」


ルシアは温かいお茶を一口すすると、片眉を吊り上げ、嫌悪と疑念を露わにした。


「あんたの身の回りなんて、寝首を掻こうと狙ってる奴らばかりじゃないの。そんなあんたが連れてくる奴なんて、どこに信用できる要素があるわけ? どうせまた、口を開けば聖光だのなんだの喚き散らす生臭坊主なんじゃないの?」


「いえいえ、決して生臭坊主などではありません!」


オースは両手を振り、その瞳に珍しく真剣さと期待を宿らせた。


「少年なのです。我流の叩き上げではありますが、あの子の瞳には光があり、並外れた天賦の才を秘めています。四六時中『世界樹の頂へ登る』なんて言葉を口にしていて、熱血すぎて馬鹿に見えるほどですが……しかしその身のこなしは本物です。私が見てきた中でも、もっとも純粋な戦士の原石ですよ」


オースは扉の脇へ歩み寄り、案内するように手を差し向け、苦笑い混じりに提案した。


「今も教廷内部の訓練場で汗を流しているはずです。狩猟祭の混乱が本格化する前に、どうでしょう……まずは彼に会いに行ってみませんか?」


オースが「世界樹」を口にしたのを聞いて、ルシアとヴァレリーは思わず視線を交わし合い、互いの瞳に驚きと奇妙さを走らせた。


「世界樹」は七大陸において極めて特殊、かつ神秘の禁区に近い場所だ。大陸の最中心部に位置し、天を支える巨柱の如くそびえ立ち、生い茂る枝葉は雲海の彼方へと没し、その頂を見ることは叶わない。


さらに厄介なのは、その巨樹自体の性質だった。それ自体が強大で暴虐な原生の魔力と結界を宿しており、近づこうとする者は体内のすべての魔力回路を行使できなくなり、完全に窒息し凝固してしまう。


魔導士の詠唱はおろか、魔力鉱石で動く精密な魔導器すら、そこでは何ら反応を示さない鉄くずと化してしまうのだ。


言い換えれば、頂の見えないその巨樹を登りきるには、己の肉体のみを頼りに素手でよじ登るしかない。


鳥すら飛び越えられないあの高空の死域において、まさか「世界樹の頂へ登り詰める」ことを夢と掲げる熱血少年がいるというのか?


「近頃は馬鹿の夢までずいぶんとお洒落になったものね……」


ルシアは舌打ちを一つ漏らすと、手のひらに浮かんでいた八角の走馬灯を再び体内へと収め、ローブの裾を払って立ち上がり、顎でオースに先導を促した。


心中でどれほど悪態をつこうと、現実の状況は選り好みなど許されない。狩猟祭の暗流はすでに足元まで迫っている。ここで現在の戦力を整理してみれば――


自分自身は高熱と魔力の反動で半ばポンコツ状態であり、守護者の切り札を握っているとはいえ無茶は利かない。ヴァレリーは元素魔法と陣地戦を得意とするが、強烈な前線の突破力に欠ける。


桃香の身のこなしは俊敏で護衛には申し分ないが、頂点級の強者を正面から受けて立つには力不足。そこへ加えて、隙あらば爆破されてパンツ一丁にされる、歩くヘイト製造機こと至高の教皇オース。


そこへさらに、筋肉詰めの熱血馬鹿を放り込もうというのだ。


大陸の免税権を勝ち取り生き残るためのパーティだというのに、その戦力構成は涙が出るほどお粗末で貧相極まりない。


ルシアは心の中で深くため息をついた。もしこのポンコツ走馬灯に「記憶の初期化機能」でも備わっていたなら、白昼堂々と狩猟祭のフィールドを我が物顔で歩き回れたはずなのだ。こんなビクビクと影に怯えながら逃げ隠れする情けない真似など、端からお断りだった。


彼女は屈み込み、長机の片隅で待機していた機械梟の刻刻を抱き上げると、華奢な右肩へとそっと乗せた。


体内からカチリと微かな歯車の噛み合う音が響く中、一行はオースの足取りに従い、薄暗く入り組んだ内殿の回廊を抜けて地下訓練場へと向かった。


途中でいくつかの偏殿の検問や中庭を通り抜ける際、ルシアはわずかに眉をひそめた。


巡回にあたる聖騎士や従僕、果てはすれ違う高位祭司たちに至るまで、自分に向けられる視線が以前よりも明らかに増えていることに彼女は気づいていた。


値踏みするような、疑念を孕んだ詮索の眼差し。それは現在のルシアにとって決して良い兆候ではなかった――彼女にしてみれば、全世界から空気として扱われることこそが望みなのだ。


存在感が急激に膨れ上がるということは、すなわち「隠匿の力場」が急速に崩壊へ向かっている証拠であり、過去の仇敵たちがドアを蹴破ってくる日へのカウントダウンがすでに始まっていることを意味していた。


ルシアは顔を伏せ、黒髪で自らの表情を覆い隠すようにしながら、無意識に足早になった。


重厚な防音の鋼鉄扉を押し開けると、外界から隔絶された地下の秘密訓練場が視界に広がった。


敷居を跨いだ瞬間、焼けた鉄の摩擦臭と汗の熱気、そして剛烈な風圧の混じり合った空気が正面から吹きつけてきた。


広大な石造りの演武場の中央で、引き締まった上半身を晒したしなやかな人影が、疲れを知らぬ猛獣のように手にした無銘の重剣を一心不乱に振り回していた。


フッ――! ガッ――!


重剣が大気を切り裂くたびに、雷鳴を思わせる鈍く重い衝撃波が叩きつけられる。


汗に濡れた少年の肌は健康的な小麦色の輝きを放ち、鼻梁には端の擦り切れた白い湿布薬が横一文字に貼り付けられていた。


額を覆う小気味よく散った短めのオレンジ髪が、剣の乱舞に合わせて激しく跳ね回り、無駄のない精悍な顎の輪郭には、露骨なまでの不屈と執念が刻み込まれている。


純粋で、生命力に満ち溢れ、どこか単細胞生物特有の眩しいまでの輝きを放つその気配が、冷え切った地下空間を瞬く間に満たしていた。


ルシアは足を止め、隣に立つヴァレリーと再び息を合わせるように視線を交わした。


同じく異郷の魂を宿す二人の転生者は、申し合わせたかのように口元を引きつらせ、脳裏に寸分違わぬ荒唐無稽な疑念を思い浮かべていた――


こいつ……一体どこのどいつよ?


あの特徴的なオレンジ髪といい、顔の負傷を主張する湿布といい、全身から滲み出るド直球の熱血馬鹿オーラといい、どう見ても王道少年熱血漫画の表紙からそのまま飛び出してきた標準的な男主人公そのものじゃないの!


「私たち……作中で主人公を成長させるために、敵に拐われるか無惨に散っていく運命のお使い系女サブキャラとかじゃないでしょうね……?」


ルシアは引きつった唇の端から、思わず小声のツッコミを零した。


「冗談じゃないわ! 断じてそれだけはお断りよ!」


ヴァレリーはどこかの地雷を踏まれたかのように、苛立ち交じりに金縁の眼鏡を押し上げ、歯噛みしながら即座に否定した。


前世で無数の異世界エンタメや漫画を読み耽ってきた転生者として、ヴァレリーの脳裏には、数々の胸糞悪いテンプレ展開がフラッシュバックしていた――彼女は横目で、黒いローブに身を包んだ黒髪の女性をまじまじと見定めた。


ルシアの体躯は確かに痛々しいほど細く頼りなく、だぶついた外衣を羽織っている姿は、まるで大人の服をくすねて着ている未成年そのものだ。


だが、その顔立ちの美しさはあまりにも鋭利で、儚げな透明感の中に無数の男たちの理性を狂わせかねない色香を秘めている。


ヴァレリーの眉根がピクリと跳ねた。もしこの偏屈で悪戯好きな同胞が、男主人公に成長を促すための当て馬ヒロイン枠だとしたら、その後のシナリオは胃に風穴が空くほど劣悪なものになるに違いない。


「おーい! オース!」


その時、訓練場の中央で唸りを上げていた風切り音がピタリと止んだ。


入り口の気配に気づいたオレンジ髪の少年は、汗まみれの腕で重剣を無造作に石畳へと突き立てた。ズシン、と重厚な石板が重い音を立てて震える。


彼は額の汗を手の甲で乱暴に拭うと、オースが纏う至高の法衣も教皇という尊い身分も一切意に介さず、白い歯を剥き出しにして豪快に笑い、その名を大声で呼び捨てにした。


「やっと戻ったか! 忘却の神殿の守護者は見つかったのかよ? 連れてきたのが、なんで揃いも揃ってか弱そうな小娘ばっかりなんだ?」


少年の視線はルシア、ヴァレリー、そして桃香へと向けられ、途端に不満げに歪んだ。その双眸には隠しようもない失望と困惑がありありと浮かんでいる。


それに対し、オースはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。ガルクのように荒野を泥水すすって生き抜き、純粋な力のみを信奉してきた野良犬の頭には、頑固な先入観がこびりついているのだと教皇はよく知っていた――


少年の単細胞な思考回路において、大陸最高峰の禁忌を司り、「守護者」と呼ばれる規格外の化け物とは、筋骨隆々たる巨躯を持ち、雷のような怒号を轟かせる豪傑に決まっているのだ。


帝国や魔法同盟において傑出した女性の強者が星の数ほど存在しようとも、この少年の頭の中ではその事実が未だ処理しきれていないらしかった。


「ガルク、まずは服を着なさい」


オースは軽く咳払いをして威厳を整えると、ルシアに見せていたあの情けない揉み手モードを封印し、年長者らしい落ち着きを払って前へと進み出た。


「皆様にご紹介しましょう。この少年の名はガルク。今年十六歳にして、荒削りながらも肉体の剛健さと重剣の技量において、極めて稀有な天賦を秘めた剣術の天才です」


そう言い終えると、オースは身を翻し、胃のあたりを片手で押さえながらこの世のすべてに愛想を尽かしたような顔で佇む黒髪の女性を指し示した。そして、どこまでも厳粛な面持ちで少年へと命じた。


「そしてガルク。こちらにおわすお方こそが、ルシアさんだ。我らが探し求めていた忘却の神殿の守護者その人である。見た目こそ可憐ではあるが、とうに成人を迎えておられる。その無礼な偏見を改め、ルシアさんには最大の敬意をもって接するように。良いな?」


「……はあ?」


ガルクはその場に突っ立ち、ぼさぼさのオレンジ髪を乱暴に掻きむしった。鼻梁に貼られた白い湿布が、顔の筋肉の強張りに合わせてピクピクと引きつる。


彼はまるで御伽噺のホラ話でも聞かされたかのように目を剥き、風が吹けば吹き飛びそうなルシアの頼りない身体を真っ直ぐに見下ろすと、全身から吹き出す馬鹿馬鹿しさを剥き出しにして吠えた。


「おいおい……からかってんじゃねえぞ、オース! こんなチビが守護者だと?! その枯れ枝みてえに細い腕で、俺の剣の柄すら握れるのかよ!」


ガルクは石畳に突き刺さっていた無銘の重剣を一息に引き抜くと、唸るような突風を巻き起こしながら、その切っ先を一直線にルシアの鼻先へと突きつけた。


切っ先の奥にある瞳には、傲岸不遜な闘志と負けず嫌いの意地が爛々と燃え盛っている。


「冗談じゃねえぞ、オース! あんたが教皇様だろうが、こんな茶番で誤魔化されてたまるかよ!」


露わになった少年の上半身の筋肉が鋼のように軋み、オレンジの前髪の下で燃え盛る闘志が焦燥と共に爆発する。


「俺が登るのは世界樹なんだよ! 魔力が完全に死滅するあの頂の絶界で生き残れるのは、極限まで鍛え抜かれた肉と骨だけだ! 狩猟祭の相棒が自分の武器すらまともに構えられないような小娘なら、最初から一人で突っ込んだほうがマシだぜ!」


ガルクにとって力こそが世界のすべてだった。かつて手にした重剣と規格外の闘気によって、大魔導士の放った火球すら両断してみせた本物の重剣の達人。


だからこそ魔法を小馬鹿にしており、ましてや小柄な女など歯牙にもかけていなかった。


「てめえが守護者を名乗るってんなら、力で証明してみせな――俺の剣を三度受けてみろ! 俺の剣風すら耐えきれねえってんなら、とっとと温室に戻ってママの乳でもしゃぶってな!」


重剣が一閃し、訓練場の空気を引き裂いて鈍く鋭い轟音を響かせた。巻き起こった重苦しい風圧が、数歩先に立つルシアの黒い法衣の裾を激しく煽り立てる。


目の前で毛を逆立て、剣を振ることしか頭にない単細胞の狼を見つめながら、ルシアは胃を押さえていた手をゆっくりと下ろした。


侮辱された怒りも動揺も、その蒼白な貌には微塵も浮かんでいない。


眉毛一本すら動いてはいなかった。


彼女はただ気だるげに瞼を持ち上げ、切っ先の向こうにいる少年を、足元でキャンキャンと吠え立てる子犬でも眺めるかのように深淵の如き黒瞳で見下ろした。


そして、その薄い唇の端を、この上なくサディスティックで冷徹な嘲笑の形へと吊り上げてみせた。


「三本受けてみろ、ですって?」


ルシアは首を傾げた。右肩に留まる機械梟の刻刻の体内から、微かな歯車のロック音が響く。


彼女は右手の五指をゆっくりと解し、指先を宙で気まぐれに弾かせながら、今日の天気でも尋ねるかのような平坦な声音で言葉を紡いだ。


「ガキ、どうやらあんたの筋肉の詰まった頭蓋骨には、真っ直ぐ剣を振り回すこと以外、現実を理解するための容量がこれっぽっちも残っていないようね」


彼女は立ち位置を直すことすら怠り、相変わらず重心の定まらない病み上がりの佇まいのままだった。


ただ、少年から放たれる狂暴な殺気を真正面から受け止め、気だるげに視線を絡めながら、底知れぬヘイトを孕んだ挑発を軽やかに吐き捨てた。


「三本どころか……あんたみたいに腕力任せに喚き散らすだけの筋肉馬鹿ならね。十人まとめて並ばせようが、私が本気を出して、手の中の葡萄酒を下に置かせる気にすら届かないわよ」


言い終えるや否や、ルシアは無造作に黒い袖口へと手を滑り込ませ、指先で引っ掛けるようにして、古びた意匠の小ぶりな瓢箪を取り出した。特殊な耐魔皮革で丹念に仕立てられた、深褐色の酒器である。


それは彼女が退屈しのぎに自ら鞣し、調律を施して作り上げた、極上の美酒を蓄えるための特製容器だった。


教廷の内殿に足を踏み入れた直後、誰にも悟られぬよう肩の機械梟の刻刻を放ち、教皇専用の地下蔵から極上ヴィンテージの熟成葡萄酒をなみなみと盗み出させてあったのだ。


現在の彼女の体内では、制御を失った「忘却」の魔力が煮え立つ湯のように荒れ狂っていた。だが、それは戦闘不能を意味するものでは決してない。


むしろ逆だ――「半夢半醒」の瞑想状態を保てないシラフのルシアには、魔力の出力を繊細に絞るブレーキが利かない。


一度その引き金を引いてしまえば、体内の回路は決壊した水門の如く全出力を垂れ流し、リミッターを振り切った最大飽和値で炸裂する。そこに「手加減」という微調整の余地など、最初から存在しないのだ。


ポン、と小気味よい音が響いた。


ルシアは片手で木栓を弾き飛ばすと、細い首筋を反らせ、躊躇うことなく瓢箪の呑み口へと口をつけて一息に煽った。


濃厚でとろりとした暗赤色の液体が口腔を滑り落ちる。安酒のような喉を焼く辛味は一切なく、幾重もの年月が織りなした深みのある芳醇な果実香と、柔らかな温もりが瞬く間に口内を満たした。


微かな渋みのタンニンとオーク樽の薫香を纏った雫が食道を滑り、鈍痛の疼く胃袋へと沈んでいく。


それは毛布のように温かな重みとなって広がり、荒れた胃壁を刺すどころか、極上のベルベットのように神経を包み込み、強大な魔力による神経の激痛の痙攣を力づくで鎮め抑えた。そして、死人のように蒼白だったルシアの頬に、微醺を帯びた淡い紅を差させた。


「てめえ……どこまで舐め腐りやがって……!」


ガルクが握りしめる無銘の重剣の柄に、青筋が怒張した。


オレンジの乱れ髪の奥にある瞳から、今にも怒りの焔が噴き出さんばかりだった。


真剣勝負を前にして、平然と酒を呷る対戦相手。戦士の誇りを命綱として生きてきた少年に対し、その剥き出しの傲慢と侮蔑は、彼の尊厳を泥靴で踏みにじるに等しい凶行であった。


「舐めてるに決まってるじゃない」


ルシアは唇の端から零れかけた一滴の暗赤色を指先で無造作に拭い、腰の帯へと瓢箪を戻すと、伏せていた双眸をすっと持ち上げた。


そして、その唇に、どこまでも澄み切った、甘やかな微笑を浮かべた。


「酒でも呑んで神経を麻痺させて……少し酔っぱらっておかないとね。万が一手が滑って、あんたを骨ごと挽き肉にでもしちゃったら――オースが泣きついて賠償金を請求してきそうだから」


その笑みはどこまでも柔らかく、春の陽だまりのような温もりすら湛えていた。だが、背後で見守るオースとヴァレリーの背筋には、一瞬にして総毛立つような戦慄が駆け抜けた。


――カリーナの笑みだ。


北境軍団を統べる鋼鉄の女大公。骨の髄まで狂気に染まった氷雪の悪魔が、戦場において獲物の息の根を止める最後の一撃を振り下ろす時。


その口元に浮かべる、恋人に囁きかけるかのような、頭蓋の芯まで凍りつかせる「温かな笑み」と、それは完全に瓜二つであった。

最近、かなりの高頻度でキーボードを叩き続けており、仕事中もずっとタイピング漬けの日々を送っています。

そのせいか、最近手が痛むというか、少し攣るような感覚が出てきてしまいました……。

一応、台湾の湿布(一条根)を使ってみてはいるのですが、あまり効果が感じられず……。

もしこういった症状を和らげる良い方法や、おすすめのアイテムをご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただけると嬉しいです!

どうぞよろしくお願いいたします。

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