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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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皇太子の誘いと、夜会に落ちる北境の影

帝都魔法学院の「円頂大礼堂」は、今夜、魔力と黄金によって築き上げられた豪奢を極める宮殿へと完全にその姿を変えていた。


高位の浮空術式によって百メートルの虚空へと掲げられた数百もの水晶シャンデリアが、砕け散る星屑のように冷ややかな輝きを惜しみなく注ぎ落としている。


高価なシャンパンやエルフの甘露が給仕たちの手にする銀盆の上でほのかに輝き、オーケストラが優雅にして複雑を極めた宮廷ワルツを奏でては、その旋律が大理石の円柱と高くそびえるアーチ天井の間を心地よく反響していた。


見渡す限り、舞踏場は着飾った男女と高貴なる身分の者たちで埋め尽くされている。帝国各地の名門門閥貴族の子息たちは仕立ての良い軍礼服に身を包み、名門令嬢たちのドレスの裾は咲き誇る百花の如く優雅に交錯していた。


囁き、作り笑い、探り合い、そして権謀術数の暗流——そのすべてが、精緻を極めた完璧な社交の仮面の下へと覆い隠されている。


しかし、正門に立つ給仕が高らかに名を告げ、重厚な彫刻が施された樫の木の大扉がゆっくりと左右へ開かれたその瞬間——


まさに最高潮を迎えていたはずの円舞曲の旋律が、刹那の淀みを見せた。


それまで杯を交わし歓談していた宴会場の喧騒は、目に見えない極寒の領域が静かに吹き抜けたかのように、大扉を中心にして波紋のように静寂へと呑み込まれてゆく。


そこに佇んでいたのは、ルシアであった。


機械油と硝煙の匂いにまみれた、普段誰もが見慣れていた陰気な錬金術実習教授の姿など、そこにはなかった。


そこにあるのは、永夜の氷原より音もなく降り立ちし、生ける人形の如き美貌であった。


カリーナから贈られた夜会服には、北境公爵領ならではの横暴なまでの豪奢さと冷冽さが色濃く漂っていた。


生地には極めて希少な「暗夜氷蚕糸」が惜しみなく用いられ、その色合いは単なる純黒に留まらず、水晶の灯火を浴びて深淵の如き濃紺と冷銀の微光をゆらめかせている。


あたかも、北境凍原の極夜に広がる満天の星空をそのまま羽織ったかのようであった。


ドレスの裁断は、息を呑むほどに大胆であった。


平時は重苦しい法衣の奥深くに覆い隠されていた身体の輪郭が、肌に吸い付くような絹の曲線によって、見る者の心を揺さぶるほど鮮烈に描き出されている。


削げ落ちるように華奢で精緻な鎖骨は象牙のような冷白を帯び、背中を大きく露出させたデザインは腰元へと滑らかに続き、薄くも凛とした背骨の線条を冷気の前にさらしていた。


その白さは眩いまでに刺すようで、触れれば折れてしまいそうな儚い狂気すら孕んでいる。


両脇に施された深いスリットは、彼女が冷淡な歩みを進めるたびに涼やかな脚を覗かせ、床に広がるドレスの裾には、凍てつく風を退ける古代のルーンがミスリルの暗紋となって縫い込まれ、歩行に合わせて水銀が流れるかのような妖艶な質感を漂わせていた。


そして何より見る者の視線を奪い去ったのは、その美貌であった。


普段は気だるげに垂らされ、顔の半分を覆っていた乱れがちな黒髪は、今宵、侍女のフェリンの手によって銀の簪で上品にハーフアップへと結い上げられ、世人がこれまで完全に見落としていた絶世の容貌を白日の下に晒していた。


驚くほどに小柄な顔立ち、陽光を久しく浴びていない病的なまでに透き通った蒼白の肌。長く豊かな睫毛の奥に湛えられた墨緑の双眸は、底知れぬ古の深淵を思わせ、世俗の女子が浮かべるべき恥じらいや虚栄心など微塵もなく、万象を冷徹に見透かすような清冷と無頓着さだけを宿している。


首元には過度な宝石の類は一切なく、ただ一条の極細の黒曜石のチョーカーが、細く華奢な喉元をきつく引き締めていた。指先ひとつで容易く手折れてしまいそうな儚さを際立たせながらも、侵しがたい禁欲的かつ危険な魅力を放ち、見る者を惹きつけてやまない。


「……あれが……錬金術系の、あの特任教授なのか……?」


バルコニー席の上で、グラスを手にしたある侯爵子息は喉仏を激しく上下させ、指先がグラスの脚をへし折りかねないほど強く握りしめていることにも気づいていなかった。


会場に集まりし数千人の若き俊英や大魔導士たちの視線は、この瞬間、会場へと緩やかに足を踏み入れたその小柄な影へと、完全に釘付けになっていた。


彼女という存在には、極限の矛盾が共存していた。


その身に纏う夜会服は、本来であれば極上の艶やかさと蠱惑的な魅力を引き立てるためのものであるはずだ。


だが、彼女の全身から放たれる空気は、血を吸い尽くし、冷たく拭い清められたばかりの凶器のように研ぎ澄まされ、冷え切っていた。


彼女はただ赤絨毯の上を静かに歩みを進めているに過ぎず、その瞳の奥には、この退屈極まりない社交の場を定刻通りに終わらせたいという疲労だけが刻まれている。


それでありながら、見る者の心臓を鷲掴みにし、呼吸を奪うほどに美しかった。


そして貴賓席の最前列において、豪奢な礼装に身を包んだ帝国の皇太子は、金装飾のステッキを握る指先にぐっと力を込め、その瞳の奥底に揺らめいていた戯れの炎を、一瞬にして剥き出しの熱狂的な独占欲へと塗り替えていた。


人の波が無言のうちに、潮が引くように両側へと割れてゆく。


帝国の第一順位継承者の足音を前に、傲慢を極める門閥貴族も、己の実力のみでこの象牙の塔へと這い上がった平民の俊英たちも、本能的に頭を垂れ、舞踏場の中央へと続く一本のまっすぐな道を彼のために譲り渡した。


だがそれと同時に、ルシアの背中を見つめる無数の視線の中には、濃密な同情と惜別の念が静かに混ざり始めていた。


帝国の皇太子、クロード・レグニス。


全帝国の臣民の目に映る彼は、天がノーランド帝国へと授けた最も完璧な後継者であった。端麗な美貌、ウィットに富んだ会話、優雅にして誰に対しても誠実で優しい振る舞い。


貴族であれ平民であれ、その眼差しには常に春の陽だまりのような温かな包容力が湛えられている。


彼は異臭漂う貧民街へ足を踏み入れることを少しも嫌がらず、泥濘が自らの千金の宮廷服を汚そうとも意に介さず、泥だらけの浮浪児たちを笑顔で己の肩へと担ぎ上げ、高枝に実る果実をもがせてやるような男であった。


病に苦しむ平民の枕元で夜を徹して看病を続け、猛吹雪の折には被災した農民たちへ直々に温かいスープを配給したことすらある。


彼は本心からこの帝国を愛しており、この大地の上で懸命に生きるすべての卑小な命を慈しんでいた。宮廷の内外を問わず、歴代の皇室において彼以上に名君の器を備えた者はいないと誰もが認めていた。


現皇帝が彼の行事手段にはまだ政治的な経験を積む余地があると判断していなければ、とっくに喜んで皇位を譲り渡していたであろうほどに。


だが、権力の中枢に真に触れたことのある者だけが知っていた。そのあまりに純真な「仁愛」が、どれほど背筋を凍りつかせる狂気であるかを。


クロードは決して冷血漢ではない。むしろその血潮は、誰よりも熱く滾っていた。


この国家を深く愛しすぎているからこそ、彼は自らの魂も、道徳も、そして人生のすべてすらも、平然と天秤の上の籌として差し出すことができたのだ。


その清らかで温和な双眸の奥底において、世界はあまりに冷徹に二つへと二分されていた——帝国にとって有益な存在か、それとも何の価値もなき塵芥か。


ノーランド帝国に繁栄と安寧をもたらすためであるならば、彼は最も下劣な政略結婚も、最も陰湿な陥れも、己自身を商品として売り払うことすら躊躇わない。


一秒前に部下の涙を優しく拭ってやったその手で、国防戦略のために何のためらいもなくその者を奈落の深淵へと突き落とすことができる。彼が一度その瞳に定めた人材で、逃げ果せた前例など存在しなかった。


男であれ女であれ、帝国を前進させる「価値」をその身に宿している限り、彼はありとあらゆる甘言と懐柔、利益の罠を惜しみなく投じ、相手を帝国の戦車へと完全に縛り付けるまで決して手放さない。


その場に居合わせた貴族たちがルシアを見て息を詰まらせたのは、他でもないクロードの手口を熟知していたからに他ならなかった。


後ろ盾を持たず、人智を超えた才覚だけを抱えた若き女教授が、この温和な巨獣の網にかかったが最後、待っているのは甘美なお伽噺などではなく、骨の髄まで搾り取られる残酷な支配であると知っていたからだ。


「ご機嫌麗しゅう、美しき貴女」


クロードはルシアの三歩手前で足を止め、胸に手を当てて寸分の隙もない帝国の宮廷礼を執った。


わずかに顔を上げたその端麗無比な面輪には、計算し尽くされた驚嘆と真摯な熱が浮かび、水晶の光を浴びた金色の前髪が眩い光沢を散らしている。


その声音は、あたかも最愛の伴侶へと甘やかに語りかけるかのように優しげであった。


「余の名はクロード・レグニス。決闘場におきまして、余は貴女の神業の如き戦いをこの目でしかと拝見いたしました。率直に申し上げれば、余の魂は、貴女の比類なき気品と強大なる力によって完全に奪われてしまったのです——今宵、最も燦然と輝く星である貴女と、最初の一曲を共に踊る栄誉を余にお許しいただけないでしょうか?」


率直にして大胆、そして一片の隠蔽もない求愛。


クロードは確かにルシアに惹かれていた。だがその心惹かれる想いは、極めて冷静かつ狂気的な政治の設計図の上に築かれたものであった。


この時代には存在し得ない規格外の戦闘様式を目にした刹那、クロードの胸中の心臓は歓喜のあまり喉から跳び出さんばかりに脈打っていたのだ。


それは旧態依然とした魔法の進歩などではない。大陸全土の軍事構造を根底から覆しかねない「技術の転換点」そのものであった。


現在の大陸情勢は平穏を保っているように見えて、その実、薄氷の如く脆い。北境のあの女暴君が誇る個人の武威によって保たれている均衡など、毒を飲んで渇きを癒すような一時凌ぎに過ぎないと、彼は誰よりも深く弁えていた。


カリーナとて、畢竟は血肉を持った生身の人間に過ぎない。歳月という名の無慈悲な刃の前に、彼女もいつかは老い、衰え、全土を圧倒する高強度の戦闘力を失う日が必ず訪れる。


そしてカリーナが単身で他の六大陸をすべて平定するなどという企みは、荒唐無稽な妄想に過ぎない——全面戦争の火蓋が切られれば、燃え広がる戦火の中で無数の民草が故郷を追われ、命を散らすこととなるのだから。


クロードは平和を渇望していた。だが、真の平和とは慈悲を乞うて得られるものではないと痛感していた。


この淀んだ膠着状態を打破する術はただ一つ、圧倒的な技術の格差を手中に収めることのみである。


ルシアを帝都へ、己の傍らへと留め置くことができるならば——山と積まれた財宝であれ、至高の学者特権であれ、果ては己の隣に並び立つ未来の「帝国の皇后」の座であれ、彼は何のためらいもなく両手で差し出す心算であった。


だがその代償として、ルシアの頭脳に刻まれた兵器の構造、錬金回路、そして機械技術のすべては、一字一句漏らさずノーランド皇室直属軍の専売機密とならねばならない。


彼は武力の行使を頑なに否定するわけではない。だが、意味なき流血を心底から忌み嫌っていた。


彼が望むのは、ルシアの技術によって帝国を武装し、他の六ヶ国が剣を抜く気概すら失うほどの絶対的な威圧を完成させることだ。


敵国の君主たちがノーランドの鋼鉄の影に震え上がり、自ら進んで通商権を差し出してきたその時、豊かな商品と、栄える文化、そして安寧に暮らす理念を春雨の如く敵国の民草の心へと染み渡らせ、異邦の民に心底から思わせるのだ——ノーランド帝国の庇護下に入ることこそが、自らの旧国に留まるよりも遥かに幸福であると。


これこそが政治家としての最も壮大な野心であり、民を我が子の如く愛する皇太子が導き出した、最も流血の少ない征服への道であった。


『つまるところ……統治する民草が路頭に迷い、明日の命すら危ぶまれるようであるならば、この金箔塗りの玉座に座る者が、どの面を下げてこの帝国の皇帝を名乗れるというのだ?』


クロードは優雅に会釈の姿勢を保ったまま、長く伸びた手をルシアの面前へと差し出し、手のひらを上に向けて静かに彼女の返答を待っていた。


その笑みは春風のように穏やかで、眼差しは澄み渡り深情に満ちている。だがその瞳の深淵には、「国家」という名の巨大な網が張り巡らされ、退路を断つほどの執念をもって、目の前の黒髪の少女を逃さぬよう覆い尽くしていた。


「大変申し訳ございません、殿下。あいにく今宵、私にはすでに先約の舞伴がおります」


数多の名門令嬢を狂喜乱舞させるであろう帝国皇太子の深情の視線を前に、ルシアは睫毛の一本すら揺らすことはなかった。


ただ微かに腰を落として一礼し、まるで無機質な実験データを淡々と読み上げるかのように平坦な口調で、唇の端に微かな、どこか皮肉めいた弧を描いてみせた。


「それに、あの方が、殿下がこのように身をやつしてまで私をお誘いになっている姿を目にされましたら……きっと怒りのあまり、この宴会場そのものを吹き飛ばしてしまうのではないかと、危惧しておりますので」


清冷にして従容、そして言葉にし難いほどの遊刃の余地。


何と言っても、前世において社会の過酷な洗礼を浴び、地球の商談や競技の場で荒波を幾度となく乗り越えてきた魂である。


この大礼堂を満たす豪奢な黄金や皇権の威圧など、尋常の異界人にとっては神殿の如く犯しがたいものであったとしても、ルシアの目に映るそれは、規模がやたらと大きく、空調が効きすぎて肌寒く、誰もが顔に貼り付いたような作り笑いを浮かべている「大規模な忘年会」に過ぎなかった。


社畜たるもの、上辺だけの社交辞令で権力者をいなし、表情一つ変えずに厄介な責任を押し付け返す術など、骨の髄まで刻み込まれた反射動作であった。


その針を含んだ拒絶の言葉によって空気が凍りつき、周囲の貴族たちが息を呑んで戦慄したその刹那——


「あらまあ、そこにいらっしゃるのは尊き皇太子殿下ではありませんこと?」


絶妙な愛嬌と落ち着きを帯びた軽やかな笑い声が、人の垣根を割って優雅に滑り込んできた。


ヴァレリーがワインレッドの豪奢なベルベットのドレスを片手で優雅に持ち上げ、もう一方の細い手には黄金色のシャンパンを満たした二つのクリスタルグラスを危なげなく掲げている。


その赤ワイン色の長い髪は灯火の下で熟成した美酒のように輝き、金色の瞳には手慣れた社交の機知が宿っていた。


自らの「試験の相棒」がこの温和な巨獣によって袋小路へと追い詰められているのを見て、同じく実力派を誇る彼女が拱手傍観しているはずもなかった。


「今宵はこの象牙の塔へ、無数の若く優れた帝国の俊英たちが門を潜り、皇太子殿下の温かな激励の言葉を胸を躍らせて待ちわびておりますのよ」


ヴァレリーは優美な足取りで二人の間へと割って入り、極めて自然な動作でクロードの放つ侵略的な視線を遮ってみせた。


そして細やかな泡を立ち上げるシャンパンを皇太子の目前へと差し出し、軽やかかつ立て板に水のような流麗さで言葉を重ねた。


「内気な新任教授をここで困らせるよりも、皆が待ち望んでいるのは、殿下の朝露のように温かなお言葉なのではございませんこと?」


それは、教科書に載せたいほどに見事な助け舟であった。


皇族の至高の面子を完璧に立てつつ、「新入生全体への配慮」という大義名分を盾にして、クロードの執着をルシアから鮮やかに逸らしてみせたのだ。


クロードとて、眼前に立つこの名うての女教授を知らぬはずがなかった。


並び立ち、それぞれの頂の才能の輝きを放つ二人の若き女性を見つめ、クロードの視線はヴァレリーの上で半秒ほど留まった。


そしてその脳裏の奥底には、習慣化された極めて不躾かつ狂気的な政治的打算が、悪癖のように閃いていた——


『もし、この才気溢れる二人の女性を皇室の血統へと迎え入れることが叶ったならば……その胎から産まれ落ちる子らは、一体いかほどの魔力と才覚を継承することになるのだろうか?』


そのような思考は、白日の下に晒されれば破廉恥の極みとして罵声を浴びせられるに違いない。


だがクロードは気に留めもしない。ノーランド帝国の万世の礎となるならば、彼は最も功利的な視線であらゆる価値ある血肉と魂を品定めし、算段をつけることを厭わなかった。


自らの根底が浅ましい政治家であることは百も承知であったが、その狂気じみた愛国心ゆえに、万死の汚名を背負うことになろうとも本望であったのだ。


「——この星の煌めく夜において、帝国の誇る美貌と才知を兼ね備えた二人の淑女と巡り逢えたことこそ、真に光栄に浴するべきは余の方であろうな」


クロードの瞳の奥に宿る功利の光は、温和な仮面の奥深くへと完全に隠蔽された。


彼はヴァレリーから差し出されたシャンパンを従容として受け取ると、空いた右手を伸ばし、レースの手袋を纏ったヴァレリーの指先を紳士的に持ち上げ、微かに腰を折ってその甲へと寸分の狂いもない宮廷のキスを落とした。


身を起こしたその刹那、クロードの青き双眸の奥底に、極めて鋭利な冷芒が掠めた。


彼は見抜きすぎていたのだ。


ヴァレリーという女は奔放に見えて、その実、極めて引き際の心得のある抜け目のない人間である。


何の意味もなく火中の栗を拾うような軽率な真似をするはずがなく、皇族の不興を買うリスクを冒してまでルシアの前に立ち塞がったという事実は、水面下に潜む兆候が外見よりも遥かに複雑であることを雄弁に物語っていた——


一つは、ルシアが決闘場で見せたあの規格外の戦闘体系には致命的な制約か欠陥が潜んでおり、同僚として彼女を権力層の詮索から直ちに庇い立てせねばならなかった可能性。


そしてもう一つ、最も可能性の高い結論——ヴァレリーはすでに、ルシアの背後に控えるその「舞伴」の政治的陣營へと身を寄せているのではないか、ということだ。


もしルシアが後ろ盾を持たぬ、自らの意思で道を選べる自由な身の上であるならば、ヴァレリーがこれほど拙速に防壁を築く道理がない。


彼女が介入してきた唯一の理由は、ルシアが値踏みされるのを待つ無主の宝玉などではなく、ヴァレリーをして慎重にならざるを得ぬ強大な勢力が、疾うに所有権を誇示している「禁忌の領域」であることを示していた。


そこへ重なる、ルシアの先ほどの意味深な言葉——「あの方が、殿下が身をやつしてまで私を引き込もうとなさっている姿を見れば、怒りのあまり吹き飛ばしてしまう」。


その「あの方」という一言が、クロードの脳裏に、極霜の外套を翻し生殺与奪の権を握る冷徹な女傑の輪郭を即座に結ばせていた。


『北境の吹雪は……疾うに、余の帝都へと浸透していたということか』


クロードは手元のグラスを微かに揺らし、黄金色の酒波を揺らめかせた。


その笑みは春風の如く穏やかさを深めていたが、微笑の奥底に秘められた殺伐たる算段は、帝国全土を揺るがす権力の軋みの幕を、静かに引き落としていた。

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― 新着の感想 ―
語彙力がすごくて読んでて楽しい。戦闘やキャラに厚みが出てるし…だが! 百合に挟まる男は死んでくれ
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