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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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夜より来たりし悪魔と、星を象る騎士

山鳴りのような歓声、怒号、そして声援が擂鉢状の観客席の上で狂乱の波となって渦巻いていた。決闘場全域を覆う防護結界すら、その熱狂の圧力によって細微な波紋を激しく刻み込むほどであった。


しかし、その嵐の中心に身を置くルシアの胸中に去来していた圧迫感は、少しも軽くなるどころか、むしろ一段と重苦しさを増していた。


彼女は誰よりも冷徹に理解していたのだ。先ほどの一連の精密に計算された罠と、曲がり角からの至近距離ロケット弾——


その破壊力がいかに凄まじいものであろうと、生死の境目を数十年間も這いずり回ってきた帝国正教授を、あれしきの手数で完全に屠ることなど到底叶わぬ妄想に過ぎないことを。


あたかも彼女の直感を裏付けるかのように——


ガラガラッ、ドォン!


廃墟と化した瓦礫の山が轟音と共に内側から吹き飛び、焦げた花崗岩の破片が無数に四方へと飛散した。


燻り狂う灼熱の硝煙を踏みしめ、痩せこけながらも背筋を伸ばした一筋の人影が、瓦礫の底の深孔から何食わぬ顔でゆっくりと歩み出てきたのだ。


だが、砂煙が完全に晴れ渡ったその刹那、沸き立っていた全場の歓声は鈍刀で強引に両断されたかのように途絶え、二秒にわたる奇妙で異様な静寂が場内を支配した。


いま目の前に立つビクターの身を包んでいたはずの豪奢な銀糸の法衣——学院の最高権威を象徴していたその衣は、先ほどの爆風によってとうに灰燼へと帰していた。


その全身の上から下に至る姿たるや——かつて公爵邸においてルシアの手によって身ぐるみ剥がされたヴァレリーと寸分違わず、硝煙の煤で半分黒ずんだ四角い下着パンツ一丁を残すのみとなっていたのである。


「ぶっ……あははははははッ!」


指導者席に座るヴァレリーが、真っ先にその死寂を破って腹を抱えた。教授としての体面など微塵も気に留めず、己の太ももを狂ったようにバシバシと叩き、目尻に涙を浮かべて大爆笑している。


痛快! 実に痛快そのものであった!


日頃からこの陰湿で枯れ木のような中年男は、自身の輝かしい資歴を笠に着てはヴァレリーの研究の粗探しをし、冷笑を浴びせ続けてきたのだ。


その道貌岸然とした老いぼれが、いまや自分と全く同じ「下着パンツ一枚」という無惨極まりない姿へと転落している。


その光景を目の当たりにして、ヴァレリーはかつて味わわされた屈辱の大半が綺麗さっぱり洗い流されたかのような快感を噛み締めていた。


「おやおや……どうやら生徒たちは、ずば抜けて優秀な錬金術の教授を今すぐにでも迎え入れたくて堪らないようですねぇ」


ビクターはゴキリと首を回して骨を鳴らし、己が晒しているほぼ全裸の滑稽な姿など歯牙にもかけない様子で告げた。


その乾いて痩せた肉体には、過去の刃による斬撃痕、火傷、そして矢傷によって刻まれた無数の醜悪な古傷がびっしりと張り巡らされていた。


引き攣れたそれらの肉の痕跡は、降り注ぐ陽光の下で冷酷な光を帯びており、眼前の男が潜り抜けてきた実戦と殺戮の凄惨さが、平和な時代からの転生者であるルシアの想像を絶する領域にあることを無言で物語っていた。


「大変遺憾ですが、私には既に正式な雇用契約が存在します」


ルシアは冷徹な声音のまま、眼球の瞬き一つ動かさずに言い放った。


「それに、私の雇い主は……どうやら私を専属の囲い者として愛玩することに熱を上げているようですので」


それは羞恥を捨て去り、一切の容赦を排した極めて露骨な拒絶であった。


ルシアの頭脳は冷徹に看破していたのだ。先ほどから擂鉢状の観客席から彼女に向けて注がれている数十万の視線が、どれほど不自然な熱を帯びているかを。それは単なる強者への敬畏などではない。


血気盛んな貴族の子弟たちが抱く、剥き出しの独占欲と初恋にも似た狂乱の熱情であった。


前世において休む間もなく働き詰めてきた社畜である彼女の精神年齢は、男女の閨の話題を振られた程度で頬を赤らめるような青臭い段階などとうに通り越している。


毛も生え揃っていない若造どもに憧れの対象として付きまとわれ、日々の平穏を乱されるくらいなら、いっそ北境のあの狂女に疾うの昔に先手を打たれ、最も大切な純潔の初夜すら丸ごと明け渡した身であると突きつける方が、遥かに手っ取り早く確実な防波堤となる。


案の定、「囲い者」という言葉を耳にした瞬間、ビクターの顔に張り付いていた殺気混じりの表情に、極めて奇妙な動揺が走った。


「なるほど……カリーナの小娘は、骨の髄では貴女のような器量が好みであったというわけか。長年にわたり、誰もあの牙城を崩せなかったわけだ」


ビクターは無精髭の伸びた顎を撫でながら、ルシアを見つめる瞳にどこか遠い感慨と哀愁を滲ませた。


かつてのカリーナは、彼の手元にいた学生たちの中で最も優秀であり、同時に最も彼の手を焼かせた問題児でもあった。


在学中、あの白銀の髪と深紅の瞳を持つ公爵令嬢に言い寄り、求婚を試みた帝国の神童や皇族の貴種は星の数ほど存在したが、カリーナはただの一度として、冷たい氷の凶刃のような心を他人に踏み入らせることはなかった。


彼女の卒業に際し、「帝国魔法学院上級教授」としての威厳と学術的信用のすべてを担保にした最高規格の推薦状を認め、まだ年若い身でありながら政敵を薙ぎ払ってグラフィオン公爵位を強奪する後ろ盾となったのも、他ならぬビクターであった。


記憶の中に眠るあの凛然として咲き誇っていた少女は、いまや帝国の北境の天蓋に孤高に君臨し、何人も触れることの叶わぬ皎潔な月へと成り果てた。


その高嶺の花を手折った主を、まさかこの老境に至って拝む日が来ようとは、ビクターとしても夢にも思わなかったのだ。


ビクターは濁った瞳を眇め、眼前のルシアを舐めるように上から下へと値踏みした。


平心に論ずるならば、この女の顔立ちは確かに息を呑むほどに美しい。


深淵を湛えた澄み渡る墨緑の双眸、少女の稚気と歴戦を潜り抜けたかのような静謐な冷艶さを奇跡的に同居させたその貌は、あまたの美女を見慣れてきたビクターの目を奪うに足るものであった。


ただ——如何せん、その肉体があまりにも薄く、飢餓線上の如く貧相であった。


ビクターの脳裏に、極めて無礼な疑念が去来する。このまな板のような平板な肉体……頭を布で覆ってそのまま男湯に放り込んだとしても、誰一人として疑う者すらいないのではないか? カリーナの性癖も、ずいぶんと風変わりで偏ったものだ、と。


ルシアがその悪意に満ちた内面の毒づきを察知できるはずもないが、向かいの老いぼれが浮かべる薄ら笑いに対し、彼女の忍耐の残量はとうに底を突いていた。


これ以上、この泥仕合を長引かせるわけにはいかない。

完璧な力で完膚なきまでに叩き潰す圧倒的勝利を収めねば、自身のこれからの身の振り方のみならず、観客席で両手に手錠を嵌められたままのルーカスの学院内における立場が極めて致命的なものとなる。


無能な家庭教師の烙印を押され、そのせいで教え子が入学試験で理不尽に弾かれるなどという結末は、彼女のプロとしての経歴が断じて容認し得ない!


「ふぅ……」


ルシアは深く細い息を吐き出し、胸中の雑念のすべてを削ぎ落とした。


彼女は両腕を胸の前へと真っ直ぐに突き出し、左の掌を右の手背へと密着させ、シンプルな交差の構えを結んだ。


「昇格術式——輪転階位上書き!」


キィィィィン——!


闘技場全体を劈く重厚な共鳴が炸裂し、極限まで精緻を極めた巨大な円形錬金陣が、ルシアの目前へと轟然と展開された。


外周に配された数千のルーン歯車が猛烈なトルクで噛み合い、傍らに滞空していた刻刻は躊躇うことなく甲高い鳴き声を上げると、黄銅の翼を固く畳み、一筋の金色の流星となって回転する陣心の核へと迷いなく突入した。

ドォン!


純白にして熾烈を極めた閃光が決闘場を灼き尽くし、天地の境界が白一色の極光へと呑み込まれる。


網膜を焼き切らんばかりの眩光の中、黒髪の少女が紡ぐ冷酷にして威厳に満ちた詠唱が、空間の隔絶を越えて全観衆の魂魄の深淵へと神託の如く響き渡った。


「赤緯に刻まれし孤星よ、虚妄なる運命の輪を鍛え直せ。恒星の炉心もて冷鉄に火を灯し、万千の公差をもて混沌を律せよ——光の枷を踏み砕き、永夜の沈淪を断ち斬れ!女神の悲憫の涙痕の下、眼前に映る万象を蹂躪せよ!」


呼嘯する殺意そのものが具現化した暴風が猛り狂い、深淵から解き放たれた凶獣の群れが獲物の喉笛を狙うが如く、ビクターの白髪混じりの揉み上げと焦げた下着の端を激しく引き裂く!


閃光が収束を迎えた刹那、ルシアの冷徹な言霊が大地を叩いた。


「——錬金術式変換、【天刻の騎士・ベテルギウス】!」


ズゴォォォォォンッ——!


大気を圧縮して叩き潰すような質量兵器の重低音と共に、決闘場の堅牢な花崗岩盤が直径数メートルにわたり蜘蛛の巣状に陥没した。


立ち込める白い蒸気と熱気の中より現れ出でたるは——全長二メートルを優に超える、神話の領域から召喚された無機質の殺戮巨神。


その威容は、優美さと無慈悲な機能美が狂気的な公差で融合した結晶であった。


太古の遺物めいた鈍い輝きを放つ黄銅の骨格は、複雑に組み合わされた数十組の微小な遊星歯車と油圧式ダンパーによって構築され、それらを覆う装甲板は、まるで削り出された象牙のように滑らかで冷徹な純白の冷鉄鍛造甲冑。


首筋や肩甲骨の隙間からは、過給された高圧魔力が青白い排気となって「シュゥゥッ」と鋭い蒸気音を撒き散らし、周囲の大気温度を一瞬で沸点へと押し上げていた。


無機質な白面には人間的な感情を宿す目鼻など存在せず、ただ深く刻まれたバイザーの奥底で、照準規正の冷たい幾何ルーンが赤く細微に明滅している。


そしてその右腕が握りしめるは、処刑具の如き偉容を誇る巨大な両手破城剣。大剣の刃幅は成人男性の胴回りほどもあり、白磁の装甲で覆われた刀身の刃先は分子レベルで研ぎ澄まされ、重力と遠心力を最大効率で破壊エネルギーへと変換する物理法則の権化として、静かに大地へその切っ先を突き立てていた。


何よりも異彩を放っていたのは、騎士の胸郭の真裏、幾重もの鋼鉄フレームで守られた炉心の中心部であった。


刻刻が肉体を再構成して宿ったその核——恒星の炉心(コア)からは、脈動するたびに周囲の空間を赤く歪ませるほどの、禍々しくも清澄な真紅の閃光がドクン、ドクンと鼓動していた。


それは使魔としての全知能と全駆動力を臨界まで引き上げ、造物主たる少女の意思を物理世界へ完璧に執行せんとする、機械仕掛けの獰猛な覚醒であった。


「……何という、美しさだ!」


圧倒的な質量と冷徹な工学美を纏う鋼鉄の巨神を前にして、下着姿のビクターの目頭から、二筋の熱い涙が頬を伝い落ちた。


恐怖ではない。学理を追う者が、真理の現前に魂を打ち震わせた歓喜の涙であった。


数千年の永きにわたり歴史の底に埋もれていた錬金術の真の戦闘形態——それが公に姿を現した記念すべき初陣において、正面から対峙する最初の男が己であるという奇跡。


カリーナがかつて私的にその力を目撃していたとしても、数十万の帝国臣民と皇族の前で正式に披露されたのは、今この瞬間が紛れもない始まりなのだ。


この瞬間から、ルシアの名はノスランド大陸の魔導史へ永遠に消えぬ濃墨の足跡を刻み込む。そして己もまた、神話と切り結んだ最初の対戦者として、その白の騎士の名と共に後世に幾千幾万と吟誦されるのだ。


「感謝するぞ……ルシア!」


ビクターは涙と血を荒々しく拭い、狂気に濁った眼光を剥き出しにした。細身の魔剣を両手で握り締め、体内の全魔力を破滅の限界まで搾り出す。


「この偉業を前に……この老骨の命を賭して全力を尽くさねば、貴女の恩寵に対する最大の侮辱となってしまう!」


決闘場の大気から、温もりという概念が完全に剥ぎ取られた。


足元の地面から、黒い染みが急速に滲み出してゆく。


ビクターの痩せこけた肉体から人の血色が失われ、毛穴の奥底から深淵より昏い漆黒が噴き上がった。


金縁の眼鏡をかけ、象牙の法衣を纏う以前——かつて彼が大陸全土の屍の山を踏破していた時代の、原初の貌。

魔獣が跳梁跋扈し、国家間の虚飾の平和の裏で殺戮が横行する世界において、平民の身一つで生き延びるために必要なものは、洗練された理論などではなく、極限の殺傷効率のみであった。


——「夜魔(ノスフェラトゥ)」。


国境地帯の傭兵団や異形の群れが、名を聞くだけで恐慌を来した禁忌の異名。


学院の様式美も、品格の欠片もない。ただ反射神経と生物的な運動エネルギーを極限まで研ぎ澄ませた、生ける解体兵器。彼の間合いである三メートルの内側に侵入した一切の物質は、肉であれ、防壁であれ、鋼であれ、例外なくミンチへと叩き潰される。


ビクターは静かに瞼を閉じた。


黒化した皮膚の直下で神経線維が高周波の悲鳴を上げ、沸騰した血液が鼓膜を叩く。

どれほどの星霜が流れたか。


最後にこの姿を解放したのが、いつの泥濘の中であったか。


もはや記憶の彼方へ消え失せていたが、この老骨が朽ち果てる寸前において、全霊で呼び起こすに値する標的に巡り会えたのだ。


再び目を見開いた時、白眼までもが黒く染まり、瞳孔の深淵には二条の狂える紅蓮の魔火が揺らめいていた。


「済まないねぇ……」


その声は老人の掠れ声ではなく、砂利を噛み砕く鋼の重低音へと変貌していた。


「流石に歳には勝てん。この錆び付いた骨組みでは、全盛期の頃のように貴女を満足させてやれそうにない」


怪物に至った男が漏らした唯一の無念——それは、絶頂期の力をもってこの稀代の才覚に対峙できぬ己の衰老であった。


王都の半分を灰燼に帰す破壊力を宿していようとも、世界の歴史を塗り替える黒髪の少女に対し、老いによる僅かな瑕疵すら抱いて刃を交えることは、最大の冒礼に他ならなかった。


だが、空気を軋ませる濃厚な殺気を前にしても、白の騎士の傍らに立つルシアの眼差しは、冷え切ったままであった。


眉一つ、動かしはしない。


「構いません」


淡々と、破棄通知を読み上げるが如き冷淡さ。


「どちらにせよ、貴方が地に伏す結末に変わりはありませんから。今の貴方であろうと、全盛期の貴方であろうと」


傲慢ではない。血の滲むような冷徹な比較検討が導き出した、確固たる解答。


夜魔の全容を感知した瞬間、ルシアの頭脳は戦力係数の割り出しを完了していた。極めて危険な猛獣ではある。だが、それだけだ。その破壊力と重圧は、遠く北境に君臨するカリーナの領域には遠く及ばない。


あの氷雪の城塞に座す白髪の女公爵こそは、大陸を探し回っても片手で数える者しか抗い得ぬ、歩く天災そのものなのだから。


その女暴君が理不尽に撒き散らす暴力の只中で、錬金術の手札一つを頼りに幾度となく死線を潜り抜けてきたのが、ルシアという社畜の歩みであった。


あの本物の化け物にすら殺し切れなかった自分が、時を経て関節を錆び付かせた老いぼれなどに、後れを取る理由など何一つない。


「嬉しいことを言ってくれる……だが遺憾ながらね、ルシアさん。この勝負の天秤は、端から私へ傾いているのですよ」


漆黒の夜魔と化したビクターは、瓦礫の上へ無造作に屈み込んだ。


細身の魔剣を痩せた肩へ担ぎ、日陰の獣の如く脱力しきっている。しかし、その予兆なき弛緩こそが、ルシアの神経へ針を刺すような警報を鳴らしていた。熟練の狩人ほど、獲物を仕留める直前の跳躍において一切の予備動作を消し去るものだ。


その歪んだ確信に満ちた笑みを見据え、ルシアの指先は無意識に左胸のブローチへと触れた。


冷たく滑らかな紅の宝珠を撫でる。


罠がある。それも、決定的な罠が。


この老獪が規則か媒体そのものに細工を施したことは疑いようがない。だが、錬金術の精密探知を走らせても、ブローチの対干渉被膜には綻び一つなく、外部からの魔力浸透の痕跡は完全に遮断されていた。

見破れない。手掛かりすら掴めない。


この忌々しい「情報格差」に喉元を絞め上げられる感覚が、ルシアの胸中に燻る苛立ちを再び煽り立てる。元の世界の実験室であれば、分光器と応力試験にかけて一分で暴き立ててやるところだが、この理不尽な魔導の理においては、未知こそが致命の急所となる。


ビクターはその微小な動作を逃さず、蒼白な唇を裂いた。


「行きますよ——そろそろ、ルシア教授とお呼びする準備をしておいた方がよろしいかな?」


刹那。


詠唱もなく、魔法陣の励起もなく、魔力が引き裂かれる軌跡すら大気に刻まれない。それは空間転移の類などではなく、純粋な生体反射と骨格の爆発力を物理の極限まで絞り尽くした結果生じた、完全なる視覚の抹消であった。


直前のフレームにおいて、男は三十メートル後方の瓦礫の上に蹲っていた。


次の瞬間、人間の神経網が電位信号を走らせる猶予すら与えず——


キィィィィィィンッッ——!!!!


決闘場の数十万人の鼓膜を劈く金鉄の激突音が、ルシアの正面数メートルの宙空で炸裂した!


閃光が火花となって豪雨の如く降り注ぐ中、観衆と魔導士たちは戦慄と共に悟った。ビクターの影が、いつの間にか機械騎士の鼻先へと到達していたことを。


絶望的な体格差を持つ二振りの凶器が、寸分の狂いもなく噛み合っていた。


参宿四の関節内部に組み込まれた高張力スプリングとカウンターウェイトが限界まで軋み、白の大剣が慣性法則の限界を強引に捩じ伏せて横薙ぎに跳ね上がっていたのだ。


肉眼では捉え切れぬ神速の刺突軌道を、純粋な機械演算の公差によって先読みし、ミリ単位の誤差もなく峰で圧殺していた。


そしてビクターの魔剣は、夜魔の膂力のすべてを乗せて大剣の装甲へとめり込み、耳を聾する金属の悲鳴を上げさせていた。


「……私の錆びた剣を、正面から受け止め切るとはね」


漆黒に染まったビクターの顔面が至近距離に迫り、窪んだ眼窩で紅蓮の火が爆ぜる。剥き出しになった犬歯が、獰猛な笑みを形作っていた。


「実に……素晴らしい騎士だ」


切り結ぶ刃の隙間から、ビクターの肉体を覆う黒い紋様が蠢き始めた。肉体深くに封じられていた氷の如き殺意が、決壊した濁流となって、眼下のルシアの頭上へと余すところなく雪崩れ込んでゆく!

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