ただの雇われ人ですが、何か。
厚重な防護結界が完全に閉ざされると同時に、大気の温度は一瞬にして氷点下へと叩き落とされた。
すり鉢状に穿たれた露天の決闘場——それは見上げる者には壮麗な演舞台に見えようとも、中に立つ者にとっては、世界から忘れ去られた太古の死闘の牢獄そのものであった。
周囲を取り囲む円形観客席から溢れ返っていた沸騰するような雑音は、防護結界が幽かな光膜を帯びた刹那に容赦なく遮断され、ただ高純度の防壁を巡る魔力が放つ微細なノイズだけが、鼓膜をやすりで削るかのように甲高く響き渡っている。
風が止んだ。
足元に積もる灰白色の砂塵は微動だにせず、大気の粘度はまるで水銀を流し込まれたかのように重苦しく凝滞していく。それは自然界の気象変化などでは断じてない。
極限の狭間で二つの相容れぬ意志が正面から激突したことによって引き起こされた、質量を伴う実質的な重圧であった。
対峙するビクターは伏し目がちに瞼を落とし、腰に佩いた細身の魔剣の柄に片手を添えていた。枯れ木のように痩せこけた肉体は、あたかもこれまでに数百、数千の命を刈り取って血肉を吸い尽くしてきた錆びた凶器そのもののようだ。
周身には狂暴な魔力こそ漏れ出させてはいないものの、その全身からは、殺戮を事務的な日常業務として処理し続けてきた古強者だけが纏う、骨の髄まで凍てつかせる刺骨の死寂が濃密に漂っていた。
深く刻まれた法令線の陰影に沈む双眸は、獲物を狙い定めた毒蛇のように冷たく、残忍で、生きた人間の温もりを微塵も宿していない。
ルシアは砂礫の中央に佇んでいた。広大なフィールドにあって、その小柄で華奢な体躯はあまりに脆弱に映る。
だが、その腕に抱かれた【刻刻】と名付けられた黄銅の機械梟の胸腔の奥では、精密を極めた歯車群が常理を超越した高周波で音もなく噛み合い、死寂の大気へ「カチ、カチ」と極めて微細な音を刻み落としていた。
それは、秒針が破滅をカウントダウンする音。
牽制もなければ、形式的な会釈もない。互いの視線が交錯した刹那のマイクロ秒において、殺意は不可視の刃となって凝固した空気を両断し、微かな呼吸にさえ、錆びた鉄と硝煙の乾いた苦い匂いが混じり合っていた。
「先にはっきりさせておきましょう。決闘のルールはどうなっているの?」
「ルールだと? なぜだ、不公平だとでも思っているのかね?」
ルシアは墨緑色の双眸に強い警戒を研ぎ澄ませ、眼前の痩躯の男を冷徹に見据えた。この深い法令線を刻んだ陰険な老獪が、手駒を仕込んでいないはずがない。
もし相手の敷いたペースに無警戒に乗せられれば、この勝負は単なる演算精度や公差の積み重ねだけで覆せるものではなくなってしまう。
ビクターとて腹の内を明かす気は毛頭ない。ヴァレリーを下着一枚にまで叩きのめしたという黒髪の少女への興味は尽きず、勝敗がどちらに転ぼうと自身に利のあるこの盤面において、今の望みはただ一つ——この得体の知れない獲物の手札を、最も安全な手段で一枚残らず暴き立てることだけだった。
ビクターは落ち着き払った動作で枯れた掌を持ち上げた。掌心で濃密な魔力が音もなく渦を巻き、実体化のプロセスを経て、中心に深紅の宝珠を嵌め込んだ二つの黄銅のブローチが虚空に結実する。
極めて繊細な魔力操作によってそのうちの一つを浮遊させ、ルシアの前へと緩やかに漂わせると、自らはもう一つのブローチを手馴れた仕草で法衣の左胸へと留めた。
「ルールは至って単純だ。相手を完全に戦闘不能に叩き伏せるか、あるいは相手の胸元のブローチに嵌め込まれた紅い球体を破砕、もしくは衣服から喪失させた時点で勝利とする。貴女の好む勝ち筋を自由に選ぶといい。極めて寛大だろう?」
「それはあなたの魔力で構築された造物よ」
ルシアは宙に浮くブローチに指一本触れず、切っ先のような鋭い視線を投げかけた。
「もしあなたが裏で小細工を弄し、遠隔操作で起爆させたり自壊させたりしたら、私はその場で敗北扱いになるのではないかしら?」
「くく、なかなかに警戒心が強いな」
ビクターは気にした風もなく薄く笑い、両手を大袈裟に広げて見せた。
「確かにその基底は私の魔力で編み上げたものだが、貴女がそれを身に付けた瞬間、己の魔力を以て表面に専用の保護膜を張ることが可能だ。その保護膜は排他性を持ち、私の残存魔力を完全に遮断・干渉する。たとえ高階位の破壊魔法をまともに浴びようとも、その球体が破損することなど決してあり得んよ」
そこまで語ると、ビクターは人差し指をすっと立て、帝都の古参試験官特有の傲岸さを滲ませた。
「今日のこの決闘場の周囲には、数十万に及ぶ帝都の学徒と教員、そして皇族や数多の大貴族たちが列席している。観客席には、私を遥かに凌ぐ見識と解析眼を持つ大魔導士たちも居並んでいるのだぞ。この私が、このような小さなブローチに細工を弄したとして、全場の数十万の目を誤魔化し通せると思うかね?」
ルシアの双眸が微かに細められた。
視線を斜め上方の貴賓席へ向ければ、対魔鋼の鎖に繋がれたルーカスが獰猛な殺気を剥き出しにして下方を見下ろしており、フィールド脇ではヴァレリーが腕を組み、面白そうに成り行きを眺めている。
確かに、これだけの視線が交錯する場であれば、ビクターとて露骨で稚拙な不正を働くことは難しいはずだと、彼女も理解していた。
「つまり、万が一あなたの不正がその場で暴かれた場合は、私が直接勝利を収めたと見なして構わないのね?」
「無論だとも」
ビクターの返答は淀みなく、あまりに爽快だった。
だが、その堂々たる態度こそが、ルシアの胸中の疑惑をさらに重く沈み込ませた。
ブローチの裏に致命的な罠が仕組まれている気配は肌で感じ取れる。しかし、情報格差——この帝都魔法学院に張り巡らされた法規の解釈や魔法技術の体系を一切知らぬルシアには、ビクターが「不正を犯さずに、いかにして勝利を掠め取る腹積もりなのか」を看破する術が決定的に不足していた。
それとも、この男は最初から魔剣双修の絶対的な硬実力を以て、物理的に叩き伏せる算段なのか?
またしても、呪わしい情報格差の壁。
袖の奥で握りしめたルシアの指先にじわりと焦燥が滲む。
実習教授として一年間こき使われる屈辱もさることながら、もし敗北して帝都に身柄を抑えられた場合——北境のカリーナが一体どのような反応を示すか。
遠く離れた地で、あの狂気の女公爵が浮かべるであろう病的な笑みを幻視した瞬間、ルシアの背筋を冷たい悪寒が駆け抜けた。死んでもあの暴君の逆鱗に触れるわけにはいかない!
ルシアは一切の逡巡を切り捨てた。
静かに息を吸い込み、左手を掲げて掌を平らかに天へと向ける。
――ヴンッ!
重厚な革と黄銅の金具が精緻に噛み合わさった【錬金手札】が虚無から具現化する。
と同時に、手札の外縁から零れ落ちた五つの魔力水晶が、ルシアの華奢な手首の周囲に浮かび上がり、まるで狂いのない星軌儀の如き絶対の角速度をもって等速円運動を描き始めた。
ビクターの濁っていた双眸が、爛々と輝きを放った!
詠唱の音節が一切存在しない。触媒となる杖の媒介もなく、従来の魔術展開に必ず伴う粗野なエネルギーの漏出や魔法陣の光芒すら見当たらない。
純粋に錬金術のみで構築されたその前置現象は、数十年を魔法解析に捧げてきた彼にとっても未踏の奇異なる体系であった。
未知の知識に対する学者特有の異常な貪欲が、沸騰した油の如く血管の奥で一気に燃え上がる!
だが、ビクターがその五つの水晶の運転回路を読み解くよりも早く、ルシアは冷徹に指先を弾き、そのうち四つの魔力水晶を躊躇なく粉砕した!
詭計術式を一挙に四層敷設し、残る最後の一石を不測のエラーに備えて手元に温存する。
刹那、異変が爆発した。
ビクターの歓喜に歪んでいた相貌が粘土細工のように硬直した。男は枯れ木の首を激しく跳ね上げ、乾いた喉から青筋を浮き彫りにさせながら、決闘場の上空を見上げて絶句した。
眩い閃光も、天地を揺るがす轟音もない。
代わりに立ち込めたのは、淡く、されど空間の隅々まで不可逆的に浸透していく微かに苦い薬草の清香と、年代物のインク、そして冷えた金属性潤滑油の乾いた匂い——春の解凍を告げる潮汐のように、決闘場を起点として四方八方へと音もなく氾濫していった。
その匂いは決闘結界の防壁を透過し、巨大スタンドの石段を駆け上がり、果ては帝都を外敵から隔絶する高さ数十メートルの黒曜石外郭城壁すらも超えて浸透していった……。
「この気配……馬鹿な、あり得んッ?!」
ビクターの口から引き裂かれたような悲鳴が漏れた。不可視の巨槌で頭蓋の真芯を殴りつけられたかのように、痩せこけた体躯が激しく戦慄する。
「貴女……まさか『領域』を展開したというのかッ?! しかもこの規模……帝都全域を丸ごと覆い尽くしているだとッ?!」
「……は?」
当のルシアは白目を剥きそうになりながら、内心で激しく首を傾げた。
領域? 何を言っているのか。彼女はただ錬金手札の発動条件に従い、魔力を空気中へ散布して、基礎的な計略アンカーを敷設しただけに過ぎない。
だが、ルシア本人の困惑を他所に、周囲の巨大スタンドを埋め尽くしていた数十万の学生、導師、そして高階位魔導士たちは、一瞬の死の静寂ののちに爆発的な動揺へと叩き込まれた!
「帝都全土を覆う領域だと?! 冗談だろう?!」
「宮廷魔導士団が総出で儀式を行っても不可能な奇跡だぞ!」
「北境から来たあの家庭教師……一体どこの化け物だ?!」
津波のように押し寄せる畏怖と狂騒を浴びながら、ルシアは瞬時に理解した——自分が手作業で組み上げたこの錬金手札の挙動は、この異世界の住民たちにとって、致命的なまでに常識をへし折る規格外だったらしい。
ならば、話は早い。
かつて理不尽な現場で、社畜が培ってきた最大の武器とは何か。完璧なポーカーフェイスで虚勢を張り、相手を精神的に呑み込むことだ!
ルシアは墨緑色の瞳を冷徹に細め、圧倒的な強者の風格を纏いながら、狼狽するビクターを見下ろして言い放った。
「今すぐ降伏するなら、命までは取らないでおいてあげるけれど?」
その威圧感は完璧だった。実のところ、彼女はカリーナの気まぐれな火球一つすら防ぎきれずに即死した身であり、あの狂気の女公爵がノーランド帝国の戦力序列のどの位置に座しているのかすら把握していない。
彼女が理解しているのはただ一つ、相手が怯んだのなら、まずは気迫を限界まで吊り上げて主導権を握るべきだということだけだ。
ビクターの顔面は蒼白に染まり、足先が半歩後退した。王都を丸ごと呑み込んだその「神跡」の前に、老獪な神経すら麻痺しかけていた。
しかし、その完全無欠の強者の威圧感は、残酷にも、わずか三秒しか持たなかった。
「ぶっ……あはははははっ! ルシアちゃん、何カッコつけてるわけぇ?!」
スタンドの前列から、張り詰めた緊張を木っ端微塵に粉砕する、下卑た爆笑が響き渡った。優雅に指導席へと戻っていたヴァレリーが片手で腰に手を当て、容赦なくその化けの皮を剥ぎ取って見せたのだ。
「皆さん騙されちゃダメよ! その女、ただの度し難い田舎者なんだから! 『領域』が何なのかすら、その頭でこれっぽっちも理解してないわよ!」
一瞬の静寂。
次の瞬間、数十万の観客席から天地を揺るがすような大爆笑が巻き起こった!
「あはははは! なんだ、常識すら知らない素人かよ!」
「虚勢を張って即座に身内にバラされるとか、前代未聞の恥晒しだろ!」
スタンドの上層では、ルーカスが屈辱に目を血走らせ、拘束具の鋼鎖を軋ませて激怒の咆哮を上げていた。一方、フィールド中央のルシアはといえば、耳の先まで真っ赤に染まり、羞恥のあまり今すぐ黒曜石の床に穴を掘って地下工房へ引き籠もりたい衝動に悶絶していた。
だが、決闘場の中で唯一人、笑わなかった男がいた。
ビクターである。
痩躯の男の眼差しは弛緩するどころか、より一層の鋭利さを研ぎ澄ませていた。
頂点の学者として、彼は観客席の愚民どもよりも遥かに清醒だった。たとえこの黒髪の少女が学術的な「領域」の定義を知らなかろうと、今現に帝都全域を覆い尽くしているあの異様な波動は、紛れもない現実なのだ。
概念すら理解せぬ者が、無意識の息吹のようにこの規模の超常現象を行使してみせる——それが何を意味するか?
彼女は学者などではない。純粋なる天賦、神性、そして理外の怪力によって組み上げられた原始の怪物なのだと。
――シャギィィンッ!
空気を切り裂く澄んだ金属音が鳴り響いた。
ビクターは腰の細身の魔剣を一気に抜き放った。剣身に刻まれた溝から青嵐の如き魔力が猛然と吹き荒れ、実体化した風圧がフィールド全域を薙ぎ払って、周囲から降り注いでいた嘲笑の残響を強引に圧殺する!
決闘場の空気は、再び絶対零度へと叩き落とされた。
嘲弄の渦は瞬時に掻き消えた。学生も傲岸な貴族も、背筋に冷や汗を伝わせる——すべての者が悟った。ビクターが、本気になったのだと。
戦闘の常識すら持たない小柄な少女を前にして、この学院屈指の老練なる試験官は、己の全存在を懸けて討滅すべき生涯の強敵を迎える構えを取っていた。
「帝都魔法学院、魔法解析系正教授——ビクター・クルス」
ビクターは剣身を胸元に水平に構え、深く刻まれた法令線の陰影に息の詰まるような厳粛さと冷酷な決意を宿して宣告した。
「ここに、貴女へ最大限の敬意を捧げよう!」
それは同格の宗師と相見える際にのみ許される、帝国魔導士における最も神聖な戦前の決闘礼であった。
ルシアも前世の創作物を通じて、戦いの前に名乗りを上げる文化自体は知っていた。だが、万の視線が突き刺さるこの場で、一体何を名乗れというのか?
北境公爵府の精神異常者に飼い殺されている奴隷家庭教師と名乗るのか? あるいは前世で労基法すら遵守されずに過労死した元社畜とでも喚けばいいのか?
全場が固唾を呑んで見守る沈黙の中、黒髪の少女の口元が引き攣り、力なく、投げやりな手つきでひらひらと手が振られた。
「……えーと、ただのしがない雇われ人のルシアです。はい、終わり……」
「……ぶっ」
あまりにも締まらず、幼子の児戯にすら劣る粗雑な礼節に、極限まで張り詰めていた空気が一気に弛緩した。
観客席から再び失笑が漏れ、そして皇家貴賓席の最前列に座す金髪の皇太子すら、優美な指先で口元を覆い、堪えきれずに低く喉を鳴らして笑い出した。
「ふふっ……実に愛らしい女ではないか」
皇太子は純金の肘掛けを指先で軽く叩き、氷のような青い瞳に底知れぬ興味を宿して独りごちた。
「帝都全土を易々と覆い尽くすほどの領域を現出しながら、立ち振る舞いは泥の中から這い出てきたばかりの野人の如し……このような落差、孤も久しく目にしたことがないな」
その言葉を耳にしながら、拘束されたルーカスはただ歯を食いしばり、屈辱に耐えていた。
ルシアの常識の欠落は致命的だ。だが、その無知が彼女の優秀さを損なうことなどあり得ない。
現に彼女の手首を巡る魔力水晶の冷徹な秩序は息を呑むほどであり、何より——皇太子のその視線が、獲物を見定めた肉食獣のようにルシアへ縫い止められているのを、ルーカスは見逃していなかった。
絶対的な強者の前において、貴族共の礼節など紙屑に等しい。
侵略軍は礼儀正しさで進軍を止めはしないが、一撃で都市を焼き尽くす異形の前には床に額を擦り付けて命乞いをする——それこそが、この世界の醜悪にして剥き出しの真実なのだ!
「構わんよ。作法を知らぬとて、私は何ら気に留めておらん」
決闘台の中央、ビクターの声は奇妙なほどに穏やかで、慈愛に満ちた教育者のそれへと変貌していた。
「我が学院へ迎え入れた後、それらの煩わしい規範は、私が時間をかけて一から骨の髄まで叩き込んでやるとしよう」
その言葉には、すでに獲物を自らの掌中に収めたと確信した者特有の傲慢が滲んでいた。
ルシアは眉を寄せ、胸中の苛立ちを募らせた。勝負がつく前から勝者面をしているその態度も癪に障るが、何より胸元のブローチに仕組まれた仕掛けを看破する手立てが、この閉じた状況下には足りなすぎる。
対するビクターの双眸の奥は、学術的狂気と底知れぬ貪欲で満たされていた。
学院へ引き摺り込むのだ! この女は、何としても帝都魔法学院の檻に閉じ込めねばならない!
領域——それは全大陸の数百億の生命の中で、極致へと至った聖階の猛者ですら生涯触れること叶わぬ至高の奥義!
ひとたび領域が展開されれば、その内部における一切の物理・魔法法則は、構築者の意志によって強制的に書き換えられる。
例えばビクターの誇る【剣撃の領域】——彼の周囲わずか半径三メートルの間合いにおいて、この世に両断できぬ物質は存在しない。
魔力障壁であろうと、堅牢無比なる精金の重装甲であろうと、その三メートルに踏み込んだ瞬間に、熱した刃がバターを割くように両断される!
太古の英雄や大魔導士ですら、展開できる領域の限界は精々が半径数十メートル。それだけでも帝国の歴史に名を刻むに足りる通天の偉業であった。
それがどうだ。目の前の黒髪の少女は、手札を軽くめくり、四つの魔力水晶を握り潰しただけで——帝都王城の全域を不可視の檻で包み込んでみせたのだ!
これが何を意味するか?
観客席の愚物どもは礼節の欠落を嗤っているが、ビクターや周囲の極一握りの老怪物たちから見れば、ルシアの全身から放たれているのは、帝国の歴史を根底から覆し得る目眩く輝きそのものだった。
礼儀作法を知らぬだと? 田舎者だと?
それがどうしたというのだ。もしこの千載一遇の生きた奇跡を北の凍土へ送り返すような真似をすれば、帝国の英知を自負する教授陣など、全員揃って外濠へ身を投げた方が余程世のためというものだ!




