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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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錬金術を教えたはずが、どうして物理で殴る脳筋になってるの?!

この世界において、最も息の詰まる職場の悲劇の一つといえば、持ち場でこっそりサボったり、あまつさえ会社の裏をかこうと画策している最中、ふと顔を上げた瞬間に直属のトップが真後ろに無表情で立ち尽くしているのを目撃した時だろう。


公爵邸の私設執務室の中は、分厚く深い色合いのカーテンによって外の寒々とした雪の光が固く遮断されていた。空気中には年月を経た羊皮紙の濃厚な匂いと、暖炉で燃える冷杉がパチパチと爆ぜる乾いた音が満ち満ちている。


いま、フェリンとルシアは高価で冷たい銘木の床の上に並んで跪き、カリーナによる問責をじっと待っていた。


二人は明らかに、致命的な常識の失策を犯していた――この北境の戦乙女が持つ知覚の極限を、あまりに過小評価していたのだ。


カリーナがわずかでも意識を集中させさえすれば、この屋敷の中の密やかな囁き声はおろか、半径五十キロメートル先で雪溜まりに落ちた一本の針の微細な震えすら、その神域の如き精神知覚から逃れることはできない。


さらに恐るべきことに、彼女の脳の構造は過負荷稼働する冷却魔導電算機の如く、一切の滞りもなく、その半径五十キロメートル内から雪崩れ込んでくる天文学的な情報量を完全に並列処理することが可能なのだ。


つまり……先ほど寝宮の中で、ルシアがどれほど豪快に万能薬を煽り、「生き返った」と快哉を叫び、満面の笑みでフェリンへ指ハートを作って見せていたか、その一部始終のすべてが、カリーナの脳内で寸分違わずリアルタイムで生中継されていたのである。


大失敗だった。手の内が完全に捲れてしまったのだ。


並の人間であれば、今頃は魂を抜かれてガタガタと震え上がっているところだろう。


ルシア自身、心中では「今度こそ完全に死んだな」と毒づいており、今後二度と哀れみを乞うたり死んだふりをしたりして誤魔化す手は通用しないと悟っていた――だが、社畜の最大の長所とは、客観的な条件の激変に応じて、瞬時に次の作戦へと切り替えられる図太さにある。


死んだ魚のふりが効かないのなら、この獰猛で気難しい雌獅子の毛並みを撫でて機嫌を取るまでだ。


「カリーナ……」


ルシアは細い眉を微かに顰め、唇を少しだけ開くと、柔らかく甘えた声音に適度な心細さと疲労を滲ませてみせた。


「膝がすごく痛いの……床も冷たいし、立ってもいい?」


隣に跪いていたフェリンの目元が激しく引き攣り、思考が完全に白く染まった。


彼女は隣にいる、小柄で華奢、見るからに無力そうな黒髪の少女を呆然と凝視した。


残虐に貪られ、企みを暴かれ、いつ首が飛んでもおかしくないこの死地において、ルシアがまさか顔色一つ変えずにこれほど柔軟極まりない変わり身を見せるとは夢にも思わなかったのだ。


逃げ場がないと悟るや否や、相手の懐に飛び込んで主導権を掠め取る――その胆力と精神の強靭さには、背筋を凍らせると同時に、心の底からの畏怖を抱かずにはいられなかった。


重厚な黒檀の執務机の向こうに腰掛ける白髪の女公爵は、帝都の深紅の封蝋が押された至急親書を片手に握り締めていた。


血のように赤い瞳でルシアの顔を値踏みするように二秒間見下ろし、その瞳の奥には昏く計り知れない嵐が渦巻いていたが、やがてそれは、重く鬱陶しげな嘆息へと変わった。


「立て。ルーカスが帝都魔法学院の特別推薦入試で大不祥事を起こした。貴様らを罰している暇などない」


「ルーカスの不祥事」という言葉を耳にした瞬間、ルシアとフェリンは虚を突かれて素早く視線を交わし、申し合わせたような呼吸で冷たい床から揃って立ち上がった。


痺れた膝を擦りながら、ルシアは思わず眉根を寄せて胸中の疑問を口にした。


「ルーカスは正真正銘の二刀流の天才でしょう。剣技も高位魔法も同年代に敵なんていないはず。理論上は、魔法至上主義のあの頭の固い学院の連中なら、彼を喉から手が出るほど欲しがって丁重に扱うはずなのに、問題なんて起きるわけが……」


それは紛れもなく奇妙な話だった。帝都魔法学院といえば、山のような煩雑な規律と、意地の悪い難問奇問が並ぶ試験で悪名高い。


だがルーカスはグラフィエン公爵家という巨大な後ろ盾を持つのみならず、彼自身の純粋な実力そのものが規格外の化け物なのだ。


そんな男が入学試験を受けに行けば、常識的に考えて全校生徒から崇め奉られる主役に収まるはずだった。


カリーナは冷笑を漏らし、その血の瞳でルシアを冷たく見下ろしながら、皮肉たっぷりに言い放った。


「数日間私に可愛がられたせいで、自分が元々どういう名目でこの屋敷へ連れてこられたのか、その役目すら忘れたのか?」


彼女はルシアが元々「家庭教師」という契約の名目でこの公爵邸に軟禁された立場であることを、容赦なく突きつけてきたのだ。


その言葉はルシアの痛いところを正確に抉った。どうせ化けの皮は剥がれたのだ、従順な白兎を演じる義理ももはやない。


ルシアはあからさまに白目を剥いて顔を背けると、打ち立ての粗鉄のように硬い口調で吐き捨てた。


「まるで私が泣いて頼んで家庭教師になったみたいに言わないでよ。あんたがふざけた奴隷契約と帝国の法律を盾に脅してこなかったら、公爵邸の敷居の石畳すら踏みたくなかったし、とっくの昔にどこかへ逃げて悠々自適に暮らしてたわ」


その一言が落ちた瞬間、執務室内の空気が一瞬にして絶対零度まで凍りついた。


ルシアの背後に立つフェリンは心臓が止まりそうになり、背中のメイド服が瞬時に冷汗でぐっしょりと張り付いた。この命知らずの錬金術師がこれ以上余計な挑発を重ねないよう、心の中で必死に祈り倒す。


メリッ!


耳障りな甲高い音とともに、カリーナが握っていた純金彫刻の施された豪奢な雪梟の羽ペンが、凄まじい握力によって無残に圧し折られ、歪んだ金の破片と木屑へと成り果てた。飛び散った黒インクが、机上の公文を黒々と汚していく。


白髪の女公爵の全身から、空間そのものを圧し潰すかのような極めて危険な重圧が立ち昇り、その血塗られた瞳が、悪びれもせず横を向くルシアの横顔を狂おしく射抜いた。


しかし、極限の理性のせめぎ合いと抑圧の末、カリーナの豊かな胸が二度激しく上下し、屋根を吹き飛ばさんばかりの暴虐な怒気は、力ずくでその胸の奥底へと押し戻された。


いまは癇癪を起こしている場合ではないと、彼女自身が痛いほど理解していたのだ。


それに、帝国の契約法は目に見えない鎖となってルシアの首に固く巻き付いている。カリーナが離職同意書にサインしない限り、ルシアに逃げ場など存在しない。


一触即発の流血沙汰になりかねない空気を察し、生存本能に駆られたフェリンは堪らず一歩前へ進み出ると、必死に場を取り成すように話題を本筋へと引き戻した。


「公爵閣下……ルーカス坊ちゃまは帝都で一体どのような不祥事を? 至急親書を用いるほどの事態なのですか?」


カリーナは一度瞳を閉じ、インクに汚れた羊皮紙を乱暴に机へ放り出すと、隠しきれない頭痛と殺意を滲ませた声音で吐き捨てた。


「あの馬鹿は、錬金術の実技試験の試験場で、試験官を直に半殺しにしおった。いまは学院の最下層にある対魔禁獄へぶち込まれている」


「……はぁっ?!」


ルシアは勢いよく振り返り、驚愕に目を見張るフェリンと声を揃えて叫んでいた。


天下の公爵家の筆頭継承者が、最高峰の学府の入試会場で、あろうことか壇上の試験官をタコ殴りにして牢屋行きだと?


事態の深刻さは並大抵のものではなかった。


いくらグラフィエン家の威光が帝国全土に轟き渡り、学院派の貴族上層部とて北境には一目置かざるを得ないとはいえ、衆人環視の中で公然と試験官を暴行したとなれば、帝国の法秩序と教育機関の面目を地面に叩きつけて踏みにじったも同然だ。


学院がこれを公然と庇い立てすれば、皇室直属の教育制度の権威は完全に地に堕ちてしまう。


その先に待っているのは、果てしない刑事裁判や政治的な泥仕合だけではない。何よりも致命的なのは――ルーカスの入学資格が永久に剥奪される危機に瀕しているという点だった。


この学び舎が「帝都」の冠を頂く理由、それはその背後に至高の皇権と開国の誓約が控えているからに他ならない。


帝国の世襲法典には、決して覆すことのできぬ鉄の成文法が存在する。


すなわち、すべての上位貴族の正統後継者は、帝都魔法学院において規定の単位を修め、皇室の手から直接授与される特級卒業証書を正式に受領して初めて、家格の爵位と軍権を継承する合法的資格を得るのだ。


それこそが、ルーカスがどれほど凶暴な性格であるかを知りながらも、カリーナが手段を選ばずに天才錬金術師たるルシアを屋敷へ引きずり込み、弱点を徹底的に叩き直させようとした根本の理由であった。


ルーカスは極端な偏食児の如く学問に偏りがあり、必修科目である錬金術だけが壊滅的に落第点なのだ。


彼は必ず入学し、一点の曇りもない成績で卒業しなければならない――さもなくば、北境の至高の座へ、彼が生涯正統に君臨することなど決して叶わないのだから。


「じゃあ……グラフィエン公爵家は、完全に跡が途絶えちゃうってこと……?」


ルシアはそこでようやく冷や汗を流し、事態の破滅的な重みを真に理解した。


公爵邸でのあの暗澹たる軟禁生活の中で、彼女は屋敷の使用人たちの息を殺した噂話から、ある秘められた過去を耳にしていた――


北境の守護神たるカリーナは、かつて深淵の魔獣大氾濫の中で血路を切り拓くため、体内のあらゆる魔力コアを無理やり限界過負荷させた代償として、女性としての身体機能と生殖能力をとうの昔に完全に壊死させてしまっていたのだ。


純血の継承を何よりも重んじる大帝国の体制下において、ルーカスはこの北境の王座における唯一無二の法定継承者である。


彼が帝都で貴族資格を完全に剥奪され、あまつさえ罪人として獄に繋がれれば、カリーナが頭を下げて傍系から血の薄い傀儡を養子に迎えない限り、北境に百余年君臨し続けたこの巨木は、この代で皇室の手によって名実ともに丸呑みにされてしまう。


「ルーカスが試験場で逆上して試験官を半殺しにしたのは……他でもない、あの身の程知らずの老いぼれが貴様を侮辱したからだ、ルシア」


カリーナは背中を預け、しなやかで豊満な肢体を紫貂の柔らかな毛皮の背もたれへと深く沈めた。机上の至急親書を血塗られた赤い双眸で気だるげに見下ろし、その口元には極めて嘲弄的でありながら、底知れぬ殺意を孕んだ弧が刻まれる。


親書には黒々と、事の詳細が克明に記されていた。


実技試験の最終選考、課題である初歩的な「星露草の蒸留抽出と軟膏調合」を前にしたルーカスは、水晶の杯を乱暴に弄ぶ大熊のように粗野で不器用極まりなく、試験管を三度も爆発させ、基礎の乳化反応すら完遂させることができなかった。


主考官はその場で成績表に目障りな赤ペンで大きな不合格の印を書き殴ると、これ見よがしに蔑みの言葉を吐き捨てたのだ。


『グラフィエン家の若君ともあろう御方が、剣技と高位攻撃魔法においては確かに並ぶ者のない怪物であられながら……なんと嘆かわしいことか。基礎のいろはすら教えられぬ三流の家庭教師に当たったばかりに、台無しにされてしまわれたとは』


その試験官の真意は、貴族学者特有の見下した憐憫と知識のひけらかしに過ぎなかったのかもしれない――


公爵家の世継ぎであるルーカスを面と向かって罵倒する勇気はないため、腹の底に渦巻く軽蔑の毒を、ルーカスの背後にいる後ろ盾のない「平民の家庭教師」へと浴びせかけたのだ。


だが、その老いぼれは夢にも思っていなかった。その言葉が、少年の逆鱗のど真ん中を土足で踏み抜いたのだということを。


ルーカスにとって、己の偏りを罵られようが、無鉄砲と嘲笑われようが、繊細な魔導を解さぬ無骨者と見下されようが、どうでもよかった。


だが、深夜まで根気強く分解図を描き殴り、美しく整った筆跡で丁寧に解説を添え、自分が苛立つたびに穏やかに決して諦めるなと励ましてくれたルシアの存在を汚されることだけは、万死に値する侮辱だったのだ。


かくして、怪物の理性は瞬時に弾け飛んだ。


ルーカスは最も原始的で、最も暴力的な実力を行使し、その場にいた数百名の師弟の面前で、「恐怖」という名の解剖講義を開講したのだ。


高名なる大魔導士たる高慢な試験官は、激昂した少年の前で防護結界の詠唱すら満足に紡ぐこともできず、路傍の野良犬のように首根っこを片手で吊るし上げられ、崩解の剣気と鉄拳の乱打を雨あられと叩き込まれた。


わずか十数秒のうちに全身の骨を粉々に粉砕され、不定形のスライムよりも無残な肉塊へと叩き潰された試験官の血によって、試験場の大理石の床一面が真紅に染め上げられたのだ。


帝都魔法学院が百年にわたり掲げてきた権威と尊厳は、この一瞬で泥溝の底へと叩き落とされたのである。


カリーナの淡々とした説明を聞き終え、ルシアの目元は激しく痙攣し、胸の奥に鉛を呑み込んだような息苦しさが広がった。


……この一件、確かに自分にも大きな責任がある。


転生して以来、カリーナによって寝宮に押し込められ、脚の骨を折られ、心身をすり減らされ、生き延びることと芝居を打つことだけに全神経を注いでいたせいで、ルーカスの試験対策を完全に放り出していたのは事実だった。


元凶が目の前の白髪の狂女にあるとはいえ、公爵邸から俸給を受け取り、家庭教師の契約を結んだ以上、現代の労働者としての意地と職業倫理が、あの不器用で真っ直ぐに自分を庇ってくれた教え子の破滅を黙って見過ごすことを許さなかった。


ルシアは深く息を吸い込むと、その深緑の瞳を持ち上げ、机の向こうの女公爵を真っ直ぐに見据えた。


「帝都魔法学院へ行くわ。私が向こうの評議会と試験官たちに談判してくる……それに、ヴァレリーもいま学院にいるはずだし、彼女がいれば、まだ事態を収拾する余地はあるはずよ」


今度のルシアの眼差しには、逃亡者の小細工も虚飾もなかった。ただ純粋で迷いのない決意だけが宿っている。


それは己の手がけた欠陥品を前にして、現場へ乗り込んでアフターケアを完遂させねば気が済まない、技術者特有の矜持であった。


だが、カリーナは冷笑を浮かべたまま、酷く不穏な苛立ちと嘲りを声音に滲ませた。


「私は北境の通商路の防衛調度と、魔獣の氾濫への備えで手一杯だ。今すぐに帝都へ赴くことなどできん。もし貴様を一人で行かせたとすれば……ルシア、羽ばたきたくて堪らないその金糸雀が、帝都という広大な世界へ飛び立った後、素直に私の籠へと戻ってくると、どうして信じられる?」


ルシアは目を瞬かせ、怪訝そうに眉を寄せて反論した。


「私の雇用契約書は、あんたの金庫に眠ったままでしょう? 帝国の戸籍と契約法がある以上、身分証も持たない平民の私が、一体どこへ逃げられるっていうの?」


カリーナはその無邪気な問いかけを憐れむように、冷徹な視線を向けた。


「貴様はこの世界の残酷さと、皇権の底知れぬ強欲さを何も知らぬのだな。帝都魔法学院は全皇室を後ろ盾とし、大陸中の頂点の権貴と平民の英才が集う場所だ。あの象牙の塔には、極めて横暴な『帝国人材統制令』という法が通っておる――学院評議会に稀代の天才と見做されさえすれば、学生であれ市井の野良魔導士であれ、皇室には民間契約を一方的に破棄し、その者を強制的に国有化して帝都へ終身留め置く絶対の権限があるのだ」


カリーナはわずかに身を乗り出し、実体を持つ刃のような赤い瞳で、ルシアの頬の輪郭を寸分違わず撫で回した。


「あの老いぼれどもは目は節穴だが、貴様の持つあの奇怪で恐るべき錬金術の異才は、帝都の実験場に立てば到底隠し通せるものではない。己の価値を知らしめた後、あの貪欲な連中が貴様を北境へ返すとでも思っているのか?」


それは推測などではなく、確実に起こり得る強奪であった。ルシアの価値はあまりに眩く、ひとたび皇室の目に留まれば、国家戦略級の重要資産として囲い込まれるのは火を見るより明らかだった。


ルシアの心臓が一瞬跳ねたが、その頭脳は目まぐるしく回転し、即座に声音を柔らかく落として、退いて進む交渉術へと切り替えた。


「じゃあ……もし私が評議会に目をつけられて留め置かれそうになっても、雇用期間の縛りくらいはあるはずでしょう? ほんの少しの間だけ籍を置いて、ルーカスを牢から出して無事に卒業させたら、ほとぼりが冷めた頃にすぐ戻ってくる。それじゃ駄目なの?」


少女の声は柔らかく誠実で、まるで猛獣を宥めるかのような従順さを帯びていた。ルシアは目の前の白髪の暴君が、自分に対してどれほど病的な執着を抱いているかを熟知していた。


その愛が死者「アリエル」への身代わりの投影に過ぎないと思い込んでいようとも、いまこの瞬間だけは、その重苦しい情念を利用して帝都への活路をこじ開けねばならなかった。


それでもカリーナは押し黙ったまま、凍てつくような冷徹な視線で値踏みするように自分を見つめ続けている。


ルシアは覚悟を決め、手持ちの最も重い切り札を場に叩きつけることにした。


彼女は自ら半歩前に歩み出ると、わずかに上体を前傾させ、その深淵の如き血の瞳を真っ向から見据えながら、囁くように甘く、されど決して揺るがぬ言葉を紡ぎ出した。


「あんたが私を自分から見捨てたり、ゴミみたいに追い出したりしない限り……私は一生、あんたの元へ必ず帰ってくるわ」


そして、挑発と悪戯っぽさを微かに混ぜた薄い笑みを浮かべ、さらに言葉を重ねた。


「それでも不安なら、出発する前にもう一つ新しい契約を結びましょう。主従関係みたいな野蛮な奴隷契約じゃなくて、魂と魔導法則に基づいた、完全に対等な契約よ。もし私が約束を破ったら、その法則を使っていつでも私を捕まえにくればいい。それで文句ないでしょう?」


執務室内の空気が、その一瞬で完全に静まり返った。


氷像のように冷徹だったカリーナの美貌の上で、その紅い瞳孔が劇的に収縮した。


数秒ののち――狂喜と、戦慄に近い歓喜の閃光が、女公爵の血の双眸の奥底で爆発するように弾け飛んだ!


ルシアには知る由もなかった。教え子を救うために咄嗟に口にしたその交渉の台詞が、骨の髄まで狂気に染まった女の耳に、どれほど甘美で致命的な誘惑と誓言として響いたのかを。


――「あんたが私を追い出さない限り、私は一生、あんたの元へ必ず帰ってくる」


何と甘美で、何と無知で、何と愛おしい言葉だろうか。


あの狡猾で、それでいて愚かしいほどに心優しい小金糸雀が、義理の教え子のために自ら強固な要塞から歩み出て、その細く脆い首筋を、捕食者の牙の前に自ら差し出してきたのだ。


そればかりか、「対等」という名の、その実一生涯決して外れることのない絶対の首輪を、己の手でその首へ嵌めてくれと懇願してきたのだから。

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