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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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二度死んだ少女が、命の重さを知る時

天を衝く火光と猛烈な烈焔が無情にも無残な大地を焼き払い、渦巻く熱波が広場に散らばる無数の焦げた残躯を舐め尽くし、炭化しきった人骨を無残にも粉々に打ち砕いては空へと舞い散らせていた。


漆黒の魔力津波が咆哮を上げて過ぎ去り、天地に渦巻いていた破滅の余波が、ようやく静まりを見せ始める。


ルシアは両腕で翼の折れた刻刻を強く抱き締め、【多重位相偏折被膜】が光の粒子となって風に霧散していく中、血に塗れた青白い顔を限界の苦痛を堪えて持ち上げた。


その墨緑の瞳は立ち込める硝煙と熱波の帳を射抜き、前方の赤紅の業火に包まれた焦黒の岩壁を、寸分違わず捉えていた。


そこでは、特化魔改造された錬金の徹甲ロケット弾が狂いなく直撃を果たし、爆発が巻き起こした衝撃波が、今なお大気を激しく震わせている。


(これで……今度こそ、確実な打撃を与えられたはずよ……)


ルシアは荒く息を乱し、喉の奥から込み上げる生臭い血の味を飲み下した。


あの重装巨盾を再構築して生み出された破城の錬金巨槍。その中核に圧縮された指向性の超強力斥力は、単に肉体を貫き穿つ物理的な破壊力に留まらない。


肉を裂いて侵入した刹那、引力波の震動をビクターの体内へと直接叩き込み——魔力の循環そのものを破滅的に乱す共鳴を引き起こすのだ。


胸を真正面から貫かれたビクターの体内では、魔力回路がかつてないほど激しく狂乱していたはずだった。それほどの重傷を負いながら、あの男は自らの矜持を燃やし尽くし、山をも両断せんとする漆黒の終焉の剣気を無理やりに振り抜いた。


限界を超えた力の前借りがもたらす代償は、あまりにも重い。彼が我が身を護るために残していた防御の魔力は、すでに枯渇寸前の限界域まで絞り尽くされていた。


九十度の完全な死角から放たれたあの特化徹甲弾を真正面から受けて、いくら帝国の天険と謳われる男であろうとも、無傷でいられる道理などあるはずがなかった。


揺らめく烈焔の先を見つめながら、ルシアの意識は、全身を苛む冷たい激痛の中へと深く沈んでいった。


今度ばかりは、文字通り退路のない断崖絶壁にまで追い詰められていた。だからこそ、異界から転生して以来、己の魂の最深部に封じ続けていた最後の切り札を、完全に白日の下に晒すしかなかったのだ。


かつて新たな生を得た最初のあの日、自らの「双回路の体質」を代償として魂を裂き、生み出した二つの機械生命。


それらに確固たる意志を与えた瞬間から、ルシアには痛いほど解っていた。二つの造物は、戦うための思想も、存在の根源そのものも、完全に正反対なのだと。


鋭く研ぎ澄まされた切り札とは、常に陰と陽が相和してこそ真価を発揮する。万全の勝算もないまま、二振りの刃を同時に世間の目に晒すことなど論外だった。


最も賢明な選択とは、平時にはその一方を深い眠りにつかせて運命を覆すための隠し駒とし、万策尽きた真の死線においてのみ目覚めさせることだったのだ。


かつて破壊神殿で堕天使と相対したあの絶望的な窮地において、ルシアがこの札を頑なに切り離さなかった理由は、残酷なまでに現実的であった。


あの世界の理の外に君臨する神話級の怪物は、機械の使魔をもう一匹戦場に増やしたところで、火力による力押しで覆せる相手ではない。早計に底を割ることは、単に無為な損耗を招くだけに過ぎなかった。


また、学園の狩猟祭における激闘でも、彼女の背中を預けられる仲間たちが常に傍らにいた。戦術の駆け引きにはいくらでも余白があり、命知らずの博徒のように、自らの全霊を盤上に叩きつける必要などどこにもなかったのだ。


だが——この処刑広場で行われた生死の決闘は、根本から何かが違っていた。


高くそびえる城壁の頂からは、クロードの冷酷な眼差しが骨の髄を抉るように張り付き、広場の瓦礫の周囲では帝国の貴族、教廷の審問官、そして扇動された何千何万という狂気的な愚民どもが、一挙手一投足に死の視線を注いでいた。


退路など、初めからすべて断ち切られていた。帝国の天険という名の壁を背負うビクターは、その身の宿命ゆえに命を削って本気でルシアを屠りに来なければならず、あの男が漆黒の魔力津波を振り抜いた瞬間、ルシアもまた悟ったのだ。


これ以上、欠片ほどの出し惜しみでもすれば、残される結末は自らの完全なる粉砕だけであると。


桃香から託された高濃縮煙幕弾を投擲した、まさにあの刹那。ルシアは血に染まった指先で錬金手札の隠し機構を跳ね上げ、長き眠りに就いていた魂の封印を解き放った。


純粋なる【魔力回路】の具現化によって組み上げられた機械生命——あの短足で白磁の装甲を纏う機械猫、「おにぎり」が、音もなく戦地へと降り立ったのだ。


おにぎりの能力構造は、【錬金回路】によって鍛造され、戦局に応じて幾重にも昇格と再構築を繰り返す刻刻とは、完全に一線を画していた。


刻刻のように複雑な武装の階位を昇格させることもできなければ、外部から機体そのものを強化することも叶わない。だがその代わりに与えられたのは、ある種の概念の領域に達した戦術的機動性——「空間共鳴投影」。


ルシアの領域が展開され、その魔力の浸透が届く死角でありさえすれば、おにぎりは何時いかなる場所であろうと空間の裂け目をこじ開けて出現することができる。


何より恐るべきは、その愛嬌に満ちた丸みを帯びた姿のまま、ルシアが組み上げたあらゆる近代単兵火器や錬金兵装の引き金を、完璧に適合して絞り切れる点にあった。


そして、ルシアの全身の【魔力回路】の実体たる器として、おにぎりが持つ最大の真価——それは、揺るぎなく直結された「魂の魔力供給路」であった。


あの子がルシアの傍らに寄り添い立っている限り、清浄にして安定した魔力が、傷だらけのルシアの肉体へと絶え間なく注ぎ込まれ続ける。


極限の窮地にあっても泥沼の消耗戦を戦い抜くための、最後の足枷を外すのだ。


昇格こそ叶わぬが、死角から致命の火力を撃ち放ち、魔力の生命線を最後まで繋ぎ止める、究極の支援型機械使魔。


雨水と血水が混ざり合い、ルシアの顎を伝って泥の上に滴り落ちていく。彼女の華奢な肩が、かすかに小刻みに震えていた。


すべての手札は、残らず切り終えた。


そして、赤々と燃え盛るあの焦土の奥底から、巨槍に胸を貫かれ、至近距離からロケット弾の炸裂をその身に受け止めたあの怪物が、果たして再び立ち上がってくるのか否か。


広場の片隅に急造された処刑台。その冷え切った柵の縁では、皇室の紋章が刻まれた数本の鋼鉄の長戟が交差して堅固な檻を作り、ミアの細い肩へと重く食い込んでいた。


表情を一切持たない侍衛の鉄面甲の奥には、罪人に対する冷淡な警戒だけが宿り、重い鎖が少女の華奢な手首に深く食い込み、痛々しい紫色の鬱血の痕を刻みつけている。


その侍衛たちの隊列から数歩離れた警戒線の外側では、退去を余儀なくされたデイジーが、泥水に濡れそぼった胸元の衣を、張り裂けんばかりに握りしめていた。


同じ栗色の髪と深い翠緑の瞳を持つ二人の女は、冷たい刃の隙間を縫うように、降りしきる雨の向こう、今にも狂風にへし折られそうなあの小さな背中を、ただ一心に見つめ続けていた。


デイジーの目元は赤く腫れ上がり、唇を白くなるほど噛み締めている。


鮮血と泥に暗く染まったルシアの短い胴衣を、骨折によって不自然に歪み、ただ気力だけで地を踏みしめている右脚を見つめるたび、自らの心臓を巨大な手で無慈悲に握り潰されるような痛みに苛まれていた。


そして冷たい泥水に膝をつくミアの瞳からは、大雨と見分けがつかぬほどの涙が溢れ出し、身体の震えを止めることができずにいた。


暴風雨の勢いはさらに獰猛さを増し、まるで帝都のすべてを洗い流そうとしているかのようであったが、大気にこびりついた人肉の焦げる悪臭と金属の硝煙を消し去ることなど、到底叶わなかった。


容赦のない氷雨は、この凄惨な修羅場をあまねく濡らし、人々の心に残された最後の温もりまでも根こそぎ奪い去っていく。


散乱する無数の欠損した四肢は雨水の中で白く浮腫み、へし折れた黒曜石の巨柱は、広場に立ち並ぶ孤独な墓標のように雨幕の中で冷たく切り取られていた。


世界にはただ、砕石を無慈悲に叩く雨粒の音と、水蒸気に首を絞められた炎が上げる、苦しげなシューという呻きだけが響き渡っている。


その刺すような寒気が、鋭利な刃の如くミアの五臓六腑をじわじわと刻んでいく。


苦しくて、たまらなかった。


魂を丸ごと押し潰されそうなほどの罪悪感に、呼吸すらままならない。


(……全部、私のせいだ……)


ミアは固く項垂れ、爪を手のひらに深く食い込ませ、指の隙間から血を滴らせた。


一人は、己を常に庇護の翼の下に置き、厳格でありながら父親のように静かで揺るぎない背中を見せてくれた義兄。


そしてもう一人は、憧れ、敬愛し、いつも気だるげで冷淡に見えながら、最も暗い絶望の淵では誰よりも先に立ち塞がって災厄を弾き返してくれたルシア。


自分にとって命よりも尊い二人が、本来なら帝国の頂で万人から称えられるべき二人が、今、自分という取るに足らない「生贄」一人のために、血と腐臭にまみれたこの広場で命を削り合っている。


世間の体面すら完全に投げ捨て、身に纏うものすら布切れ一枚と下着同然にまで削ぎ落とされ、泥濘と灰燼の海の中で、骨肉を砕かれ血肉を撒き散らしながら。


「もう……やめて……お願いだから……」


乾き切った喉の奥から、途切れ途切れの悲鳴を絞り出す。しかしその弱々しい懇願は、あまりにも無慈悲な豪雨の咆哮にかき消されていく。


焦黒の岩壁に渦巻く炎は、今なお狂おしく燻り続けていた。誰もが息を呑み、固唾を呑んで見つめている——胸を巨槍で貫かれ、至近距離からロケット弾を叩き込まれたあの男が、灰燼と化して果てたのか、あるいは再び神の如き威圧を纏って火の海を踏み越えてくるのかを。


その張り詰めた死寂が、人々の正気をも引き裂かんとした、まさにその時——


キィィィィィン————!!!


雲を貫く澄み渡った長大な共鳴が、帝都を覆っていた重苦しい暗雲を、唐突に切り裂いた!


薄暗く淀んでいた空が、まるで永夜を力尽くで引き裂く黎明の如く、突如として眩い光に満たされる。


天と地を繋ぐ数条の乳白色の神聖なる光柱が暴雨を貫き、帝都広場の真上、さらにはノーランド帝国の主要な都市の天蓋すべてを覆い尽くすようにして、天幕を埋める【超大型教廷通信光スクリーン】を編み上げた!


それは、教廷が国家の存亡に関わる最高事態に直面したときにのみ発動を許される、神聖導魔の奇跡。


広場に残る禁衛軍、城壁の上で顔色を青褪めさせたクロード、そして街の至る所で神の裁きを恐れて地に平伏していた無数の愚民たちが、一斉に顔を上げ、天より降り注ぐその巨大な光幕を呆然と見上げた。


光は激しく脈動し、やがてその中心に、揺るぎなき厳格さを湛えた一人の人物の姿を結んだ。


純白の主教法衣を纏った、オースであった。


大聖堂の豪奢な彫刻が施された円頂の下に立つ彼は、その端正な面立ちをこれ以上なく厳粛に引き締め、平生の温和な面影を完全に消し去り、研ぎ澄まされた刃のような重厚さを漂わせていた。


帝国全土の幾万の民と信徒たちの凝視を一身に受け、オースは深く息を吸い込み、全土拡音の術式を通じて、大地を揺るがす裁断の言の葉を紡ぎ出した。


「主の庇護を受けしノーランドの民、ならびに帝国を統べる執政者たちよ——至高なる教廷の神聖なる布告に、耳を傾けよ」


オースの声は聖鐘の大音の如く、豪雨吹き荒れる広場の上空に轟き、あらゆる騒音を力尽くすように圧し折った。


「教廷聖職騎士団、ならびに異端審問所の厳密なる調査の結果、帝都を襲いし悲惨なる疫病の正体は、溝鼠をはじめとする齧歯類が媒介する【ペストの悪疾】によるものであると、完全に証明された。これは肉体が侵される医学的病理に過ぎず、断じて邪神の災いではなく、侵すべからざる呪詛などでは断じてない!」


言葉が下された瞬間、帝都全土が死の如き静寂と動揺に包まれた。


光幕の中のオースは静かに右手を掲げ、その掌の上で金色の神聖ルーンが燦然と輝きを放った。彼の眼差しは鋭い剣となって光スクリーンを越え、城壁の高みに座す皇太子クロードの胸元を正確に貫く。


「神は人を愛し、命とは創造主がこの塵世に賜いし最も尊き恩寵である。無辜の者の血をもって恐怖を洗い流さんとし、神の名を騙りて血塗られた生贄を捧げ、もって疫病を鎮めんとする行い——それは生霊を救うにあらず、至高なる神祇に対する、決して許されざる冒涜と汚濁に他ならない!」


オースの語気は、ルシアの耳に届かせるかのように、さらに力強く、確信に満ちたものへと変わっていった。


今回ばかりは、お前の流した血潮が、お前が自らをボロボロに引き裂いてまで足掻いたそのすべてが、決して無駄ではなかったのだと告げるかのように。


「教廷はここに宣告する——正当なる審判を経ざるあらゆる血祭の処刑を、即時中止せよ! 頑なに迷妄に執着し、命を損なう者あらば、教廷はその神眷を永久に剥奪し、神への反逆の罪と見なすものとする!」


雨幕を貫いて響くその厳かな布告は、巨大な鉄槌となって、帝都の空を覆っていた狂気と暗雲を粉々に打ち砕いた。


ルシアの頭上に広がる光幕が清廉な白光を投げかけ、血の気の一切引いたその小貌を、真っ白に照らし出す。


「即時中止せよ」——その一節が鼓膜を震わせた刹那、硝煙の彼方にある死線を睨み据えていたルシアの墨緑の瞳が、激しく、痛切に揺らいだ。


「は……っ……」


乾きひび割れた唇が微かに開き、喉の奥から鉄の匂いを帯びた濁った息が吐き出された。


そして次の瞬間。


これまでどれほど冷酷に嗤い、どれほど怠惰に世を拗ね、どれほど狂気に満ちた戦火の中でも決して崩れることのなかったその顔が、何の予兆もなく、一瞬にして決壊した。


大粒の涙が、堰を切ったように溢れ出した。


今回は、いつものように無関心を装った嘲笑で誤魔化すこともなかった。転生者としての冷めた矜持を保つことも、誇り高き体裁を取り繕うことすら、彼女にはもう、何一つできはしなかった。


「う……っ、ひぐっ……」


暗闇の中で独り、あまりにも長く道に迷い続けた幼い子供のように、ルシアの全身は激しく痙攣するように震え、喉からは掠れた、あまりにも無防備な慟哭が漏れ出した。


涙は頬にこびりついた血泥と冷たい豪雨を巻き込みながら、とめどなく唇へと流れ落ち、ただ苦く、ただ渋かった。


成功したのだ。


本当に、あの血に飢えた帝国の歯車と、神の盲目の狂気から、この命をもぎ取ってみせたのだ。


激しくしゃくり上げるたび、胸の内で折れた肋骨が軋みを上げて擦れ合い、脳を焼き切るような激痛を走らせたが、ルシアはもう、そんなことなど意に介していなかった。


ピチャッ!


もはや一本足で立つ力すら残っておらず、彼女の身体は糸の切れた人形のように、血水と灰燼の混ざる泥濘の中へと崩れ落ちた。


黒い泥がその顔を容赦なく汚し、残された機械梟の刻刻を無意識のうちに抱きかかえ、傍らの白磁の機械猫・おにぎりは、痛ましげに細かな歯車の軋みを鳴らした。


だが、ルシアは止まらなかった。骨の砕けた左手で黒曜石の敷石の隙間に指をねじ込み、まったく力が入らなくなった右脚を引きずりながら、瀕死の手負いのように、散乱する人骨と瓦礫の海を処刑台へ向かって這い進んでいった。


「み……ミア……」


一寸進むごとに、砕けた骨が肉を裂くような吐き気を催す痛みが全身を走る。


泥の中に突き出た鋭い破片が彼女の肘と膝を容赦なく切り裂き、泥の上に痛々しい暗紅の血の航跡を描き出していった。


立ち上がることすらできない。ただ無様に、泥水の中で転がり、もがき、両腕を虚空へと必死に伸ばしながら進むその痛々しい姿に、周囲を取り囲んでいた皇室の侍衛たちすら、思わず息を呑み、息を止めた。


処刑台の縁で、長戟に身を拘束されていたミアは、その場で全身を強張らせていた。


その翠緑の瞳には、かつてないほどの激震と、言葉を失うほどの戦慄が満ちていた。


彼女の視界に映っていたのは、学院の片隅でいつも気だるげに眠りこけていた孤高の天才でもなければ、先ほど深坑の底でロケットランチャーを構えて冷ややかに微笑んでいた死神でもなかった。


血で裂かれた短い胴衣を纏い、全身の骨を幾重にも折られ、泥と血にまみれながら、狂ったように涙を流して自分へと這い寄ってくる、あまりにも小さく、儚い一人の少女の姿。


「ルシア……お姉ちゃん……?」


ミアの声が、微かに震えていた。


血と涙に濡れながら、ただ自分一人だけを映し出しているその瞳を直視した瞬間、ミアの頭の中で張り詰めていた理性の糸が、音を立てて完全に切れた。


その刹那、すべてを理解したのだ。


なぜルシアが、あのビクターに戦いを挑んだのか。なぜ血を吐き、骨を砕かれながらも、帝国中から恐れ忌み嫌われるあの夜魔に、命を捨ててまで喰らいつき続けたのか。なぜ奥の手を次々と暴き、この広場を天地が覆るほどに掻き乱したのか。


勝つためなどではなかった。強がりなどでは断じてなかった。


あの子は最初から最後まで、自らの血肉と骨をすり潰しながら、教廷の調査のため、影で動く者たちの工作のため、そしてこの不条理な処刑を覆す至高の神託が届くその瞬間を、ただ一秒でも長く引き延ばすために戦っていたのだ!


命を賭けていた。自らの命のすべてをチップにして、ミアがもう一度だけ息を吸うための時間を、強引に買い叩いていたのだ!


「離しなさいよッッッ!!!」


いつの日も温厚で、怯えるばかりだったミアの喉から、生まれて初めてとなる、魂を引き裂くような絶叫が迸った。


自らの身体に突きつけられた冷徹な鋼鉄の長戟など目にもくれず、その華奢な肉体ごと、禁衛軍の包囲網へと狂おしく激突した!


長戟の刃が彼女の腕を、脇腹を瞬時に切り裂き、純白の祭服を鮮血が赤く染め上げたが、眉一つ動かさなかった。


教廷の神託によって動揺し、硬直した侍衛たちの隙を突き、彼女は冷たい戒具と白刃の檻を力尽くで引きちぎったのだ!


ミアは泥濘に足を取られ、転がるようにして階段を駆け下り、ルシアの眼前へと膝から滑り込んだ。


「ルシアお姉ちゃんっ……!!」


少女は血に染まった両腕を伸ばし、泥水の中で意識を失いかけていた、焦げ跡と血泥にまみれたその小さな身体を、壊れ物を抱くように、力任せに、強く、強くその胸へと抱き留めた!


「ああああああっ、うわあああああああんっ————!!」


ルシアを掻き抱き、血に汚れた黒髪に顔を深く埋めながら、ミアは天を仰ぎ、喉が千切れんばかりに泣き叫んだ。


その慟哭は帝都の冷たい豪雨を切り裂き、ルシアの抑えきれない震える嗚咽と混ざり合いながら、残骸の散らばる死の広場の上空へと、どこまでも、どこまでも木霊していった。


後から蹌踉と駆け寄ってきたデイジーは、両手で口元を押さえ、溢れ出る涙を止めることもできず、二人の傍らへと力なく膝を突いた。


抱き合って泣き崩れる二人の少女を見つめ、泥の中に力なく投げ出されたルシアの折れた右脚を見下ろしながら、彼女の心臓は息が詰まるほどの激痛に締め付けられていた。


デイジーにも、ミアにも、すべてが痛いほどに解っていた。


いつもどこか冷めていて、この世界のすべてに退屈そうに見えていたあの女が、その折れそうな華奢な骨組み一つで、神と帝国という絶望的な重圧を受け止め、本当に、正真正銘、傷一つつけさせることなく、ミアを地獄の淵から力尽くで奪い返してくれたのだと。


ミアに強く抱きしめられながら、ルシアはその首元を流れる、熱く、激しく脈打つ鼓動を肌で感じていた。


生きている。その温もりが、そこにあった。


冷たい数字の羅列でも、前世で味わった無意味な虚無でもない。確かに息をし、熱を宿した、本物の命がここにある。


ルシアは泥まみれの顔をミアの首筋に深く埋め、全身を激しく震わせながら、血に濡れた唇から、誰の耳にも届かぬほどの微かな掠れ声を零した。


「よかった……本当によかった……間に合ったんだね……」

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