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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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静止する世界、放たれた弾頭

激しい豪雨も、地表に残る燻る残り火を消し去ることはできず、大気中に漂う人肉の焦げる悪臭は刺すような硝煙と混ざり合い、吐き気を催すほどに濃密であった。


深坑の縁に立つルシアの、荒く上下する胸元からは骨がきしむ激痛が伝わってくる。彼女自身、誰よりも理解していた——この戦いは、幕引きを迎えねばならない。


これ以上無謀に耐え続ければ、彼女の命は今日、正真正銘この帝都広場に打ち捨てられることになる。


さらに彼女の背筋を凍らせたのは、大魔導師の実力というものが、どれほど途方もなく重いものかを骨の髄まで思い知らされたことだ。


それは純粋にして絶望的な強さであった——眼前に佇む、煤けた下着一枚を残すのみとなった男は、真の奥の手を出し切ってすらいない。


彼が最初から最後まで見せつけていたのは、単に「手加減をやめ、真摯に向き合う」という粛殺の気迫に過ぎなかったのだ。


ビクターは、ルシアの手首の上で緩やかに旋回する最後の二つの水晶を見つめ、落ち窪んだ瞳は死水の如く静まり返っていた。


言葉の交錯などない。男の左手の五指が、不意に虚空を握り込んだ。


それは先刻よりも遥かに純粋で、それゆえに遥かに破壊的な複合元素の共鳴であった——。


赤紅の火魔法と、目を射る純白の光魔法が、虚空の中で視認も叶わぬ速度で激しく交錯し、重なり合う。


一丈ほどの径を持つ複雑な二重魔法陣が瞬く間に彼の掌の前で引き裂かれるように展開し、強烈な光が暗鬱な雨幕を貫き、暴烈な高温は中空の雨糸すら瞬時に蒸発させて一面の白霧へと変えた!


危険だ!


ルシアの脳内で神経の警報がけたたましく鳴り響き、彼女は奥歯を噛み締め、全身の筋肉を無理やり駆り立てて側翼へと跳ぼうとした。


しかし、負傷した右の脚骨と激震を受けた膝関節が、決定的な瞬間に引き裂かれるような激痛を走らせ、彼女の初動に致命的な半拍の遅れを生じさせた!


そのわずか半拍の停滞の間に、ビクターの手にある漆黒の長剣はすでに逆手に握り直され、血水に塗れた黒曜石の大地へと深く突き立てられていた!


ドォン——!


地に深く突き刺さったその長剣を中心として、巨大で禍々しい複合魔法陣が、咲き誇る血火の蓮華の如く、広場の地表を数十メートルにわたって一気に呑み込んだ!


虚空が震え、金属の軋みと猛炎の咆哮が入り混じる耳障りな轟音を伴い、胴回りほどもある、表面に灼白の光斑と橙赤の猛炎をたぎらせた無数の【光灼の縛鎖】が、深淵から飛び出した凶暴な火の蟒蛇の如く、大地を引き裂く恐怖の怪力をもって魔法陣から突き破り出た。


それらは四方八方からルシアの退路を完全に封殺し、真っ直ぐに襲いかかってくる!


鎖が届くより前に、空気を焼き尽くす灼熱の風圧が、すでにルシアの前髪を焦がしていた。


ルシアの瞳孔が鋭く収縮し、心の中で毒づいた——この老怪物め、ここまでやられておきながら、少しの手加減をする気すらないのか。放つ一撃が、端から自分を灰すら残さず消し去るための必殺の陣とは!


パキン!


回避不能の刹那、ルシアの手首の上にあった蒼藍の水晶が、粉々に爆ぜ散った。


【詭計術式・プリズム・バリア】!


菱形のダイヤモンドのように冷冽な輝きを屈折させる無数の幾何学的障壁が、ルシアの周囲に一瞬にして組み合わさり、十二面体の流光の檻を形作った。


次の瞬間、高熱の光と火を纏う十数本の巨大な鎖が、障壁へと激しく激突した!


ガギィン! ガン! ドォン——!!


障壁は単に受動的に耐え抜いただけではなかった。ルシアの錬金術の極致がここに示されていた——プリズム球体のすべての切面が超高周波で着力点を狂おしく偏折させ、鎖に込められた暴虐なエネルギーを「全反射解体」と「幾何屈折散乱」へと導く!


本来なら荒れ狂う拘束のエネルギーは、障壁に衝突した後に強制的に過負荷圧縮され、直後、数百本もの太い【破滅の偏折光線】となって、プリズムのあらゆる幾何学的な頂点から放射状に狂乱の爆射を放った!


ビシュシュシュシュ——!!


青白く灼熱する光線の嵐が深坑の縁を余すところなく呑み込み、砕石は強光の下で音もなく消滅し、降りしきる雨幕は無数の破片へと切り裂かれ、全方位への無差別な掃討が吹き荒れた!


だが、その破滅的な光線の嵐のただ中で、ビクターの姿は死線の際を疾走する一筋の黒い影と化していた。


奇怪な歩法を踏み、身を紙一重で捻りながら、大地を穿つ光線を次々と躱していく。


そして死角を塞がれ、どうしても回避できぬ数条の破滅の光束を前にすると、彼は片手で長剣を引き抜き、手首を一閃させた。凄絶無比なる黒い刃光が空を裂いて瞬く!


ザシュッ! ザンッ!


重装甲をも撃ち抜く純粋なエネルギー光線が、彼の周囲の空間に触れた刹那、あの概念級の『剣撃領域』によって容赦なく叩き斬られ、無数の光の塵となって霧散したのだ!


障壁の背後からそれを見つめるルシアの胸に、再び深い敬畏と冷たい戦慄がせり上がった。


純粋なエネルギー体である破壊光線すら斬り裂くというのなら、この世にあの剣で断てぬものなど存在するのか?


答えは、ただ一つ——斥力。


それこそが、ルシアが今なおこの場に立っていられる唯一の「情報のアドバンテージ」であった。


斥力場は実体を持たず、通常の元素エネルギーの衝撃でもない。空間の引力勾配を利用した広域の排斥。


それはビクターの肉体、骨格、そして剣を握る腕そのものに直接作用する、目に見えぬ物理の法則なのだ。剣術がどれほど神域にあろうと、「己の全身の細胞一つ一つに加わる推力」を斬り裂くことなどできはしない。


限界に達した障壁が音を立てて砕け散り、吹き荒れる煙塵と光線に粉砕された石粉が、深坑の上空に濃密な灰白色の帳を引いた。


今だ!


ルシアの姿は強光の残影に紛れて幽鬼のように死角の遮蔽へと滑り込み、血に汚れた右腕を閃光の如く払った——出発前に桃香から手渡されていた、護身用の特製高濃縮煙幕弾!


パシュッ! ドンッ!


ルシアの移動軌跡とは完全に正反対となる右手の瓦礫の中で、激しい暴風雨すら吹き散らすことのできぬ重く濃密な灰黒色の煙幕が、不意に、鮮烈に噴き上がった!


立ち込める石粉の中、ビクターの鷹の如く鋭い双眸が、瞬時にその異変を捉えた。


歴戦の戦骨たる男の直感において、ルシアは今や満身創痍、右脚も負傷している。煙幕を欺瞞として使おうと、わずか二秒の間に遠距離を移動することなど到底不可能。


この煙幕の炸裂した中心点こそが、あの死に物狂いで足掻く獲物の居場所に他ならない!


ドンッ!


ビクターが右足を踏み抜くと、足元の黒曜石の敷石が蜘蛛の巣状に陥没した。凄まじい反作用を受け、彼は雨幕を引き裂く矢の如く、圧倒的な音爆を轟かせながら、渦巻く濃煙の中へと猛然と突入した!


漆黒の長剣が高く掲げられ、空気を圧搾して耳を劈く悲鳴を上げながら、煙の中のぼやけた黒い影めがけて容赦なく振り下ろされる!


遠く離れた物陰の中で、ルシアの口元が、その刹那、冷酷な弧を描いた。


(よし……老いぼれ、引っかかったな!)


百戦錬磨の大宗師とて、異界の技術を脳裏に詰め込んだ狂人が、手元にどれほどの隠し札を持っているかなど予測できるはずもない。


これは撤退のための目くらましなどではない。情報の格差によって周到に編み上げられた、死地なのだ!


ゴォッ——!


ビクターの剣が落ちた瞬間、狂暴な剣風が煙幕を無慈悲に引き裂いた。


だが、彼の視界に飛び込んできたのは、あの華奢で小柄な、血に塗れた女の姿などではなかった。


男の瞳孔が、その瞬間に激しく震動した!


それは戦闘の初期、ビクターの一撃によって弾き飛ばされたはずの、あの巨大な錬金複合盾——しかし今や、内部に仕込まれていた精密な歯車機構により、完全に機械的な再構築を完了させていた!


重厚で無骨であった重装巨盾は姿を変え、全長三メートルを超える、全身から冷徹な金属の光沢を放つ【破城の錬金巨槍】と化していたのだ!


槍身の周囲には、ルシアが遠隔から流し込む狂乱の魔力回路が巡り、螺旋を描く切っ先には、凝固せんばかりの黄金の光が凝縮されている——それは「指向性の超強力斥力」を極限まで圧縮した、引力射出機関!


グォォォォン————!!!


通常の投擲ではない。魔法による飛翔でもない。金属の巨槍の基部で炸裂した、純粋な物理の高エネルギー斥力!


間に合わない。


ビクターの身体は空中で全力の前傾姿勢をとっており、落下の慣性と全霊を込めた剣撃は、すでに引き戻すことのできぬ不可逆の結末となっていた。


体勢を立て直す時間すら与えられず、眩い金光を放つその巨大な金属の凶器は、発射された鋼鉄の巨獣の如く、彼の胸元へと真正面から突き刺さった!


ドスゥッ————!!


「ガハッ——!」


総毛立つような骨肉の貫通音が響き渡る。


凄まじい物理斥力と金属の刃が、ビクターの鋼の如き胸筋と肋骨を強引に引き裂き、削ぎ落とされた肉片と共に鮮血が噴水の如く後方へと吹き飛んだ!


巨槍は神を磔にする杭の如く彼の胸を貫通し、絶大な運動エネルギーがその精悍な身体をボロ雑巾のように宙へと跳ね上げ、背後の崩落した岩壁へと叩きつけた!


ビクターの喉から黒い血塊が吐き出され、視線の端が周囲を死に物狂いで走査する。


誰もいない!


槍の尾部には、ほとんど透明に近い微細な魔力の牽引糸が数本繋がっているのみ——ルシアはここにはおらず、これは斥力の仕掛けと魔力操作によって完結させられた、遠隔の罠であったのだ!


だが、大宗師としての鋭敏な直感が、この瞬間に彼の心臓を底なしの絶望へと突き落とした。


視界の死角において、第二の死の影が、すでに音もなく降り立っていた。


シュッ! シュッ!


雨幕の陰から、ルシアが片手で構える魔改造のロケットランチャー。そして彼女の傍らの中空では、片目を失った機械梟・刻刻が、黄銅の鉤爪で別の小型発射器の引き金を狂いなく引き絞っていた!


艶消しの黒で塗られた二振りの異界の鋼鉄の凶器が、胸を巨槍に貫かれ岩壁に縫い止められたビクターへ向けて、同時に眩い橙白の噴射炎を吐き出した!


甲高い風切り音を響かせる二発の熱圧特化徹甲弾が、雨を裂き、男の頭部と砕かれた胸元を目指して一直線に疾走する!


迫り来る二つの破滅的な物理エネルギーを前にして、岩壁に磔にされたビクターの瞳には絶望など微塵もなく、むしろ帝国の天険としての誇りと不屈の闘志が、猛烈に燃え盛っていた。


「甘いわ、ルシア————!!!」


怒りの咆哮が、焦臭の満ちる暴雨の広場に轟き渡る。


認めよう、この女の仕掛けは見事という言葉すら生ぬるいほどに美しかった。


だが、その極限の賛意の裏で、帝国の天険たる矜持と不屈が、彼にこの咆哮を上げさせ、異界の鋼鉄の死局へと立ち向かわせたのだ!


胸に突き刺さった破城の錬金巨槍が軋む音を立て、螺旋の刃を伝って血が溢れ出る。だが、ビクターの深淵の如き双眸に、死に瀕した者の濁りは微塵もなかった。


迫り来る二発の熱圧特化徹甲弾を前に、彼は胸元の凶器を引き抜こうとすらせず、帝国の天険としての誇りと激情のすべてを、長剣を握る右腕へと注ぎ込んだ!


男の右腕の筋肉が凄まじく膨張し、焦黒の肌の下で青筋が龍の如く浮き上がる。


キィィィィン————!


漆黒の長剣は極限の魔力を注ぎ込まれ、大気を引き裂く悲鳴を上げた。それはもはや先刻までの抑制された刃光ではない。体内に残された深淵の魔力を限界まで絞り尽くし、臨界点へと圧縮した狂乱の黒光であった!


男は岩壁に叩きつけられた最後の反動を利用し、右肩を軸として、長剣を上段から下段へと力任せに振り抜いた!


流麗な剣理などない。手加減などあろうはずもない。


それは常理にあるような、単なる半月状の刃風などでは断じてなかった。


剣が振り下ろされた刹那、広場正面の空間そのものが、底の知れぬ漆黒の深淵によって両断されたかのようであった。


粘性を帯びた、暴虐で底なしの焦黒の魔力が、決壊した天河の如く解き放たれ、一瞬にして数丈の高さと百メートルにおよぶ幅を持つ【漆黒の魔力津波】となって顕現した!


ゴオオオオオオオオオ————!!


それは一区画の街並みすら更地へと変える、天災の如き破壊の猛威。


正面から飛来した二発の熱圧ロケット弾は、その黒潮に触れた瞬間、金属ジェットや熱圧弾頭を起爆させる暇すら与えられず、抗いようのない絶対の暴力によって粉々に磨り潰され、果てしない黒光の深淵へと消滅した!


黒き怒涛はすべてを薙ぎ倒す衝撃波を伴って地表を狂い捲り、通り道にある強固な黒曜石の敷石を薄紙のようにめくり上げ、粉砕していく。


道中のへし折れた巨石の柱、残骸と化した防護柵、果ては先刻の爆発で折り重なり、黒焦げとなった無数の四肢や肉片までもが、この黒い津波の前に無慈悲に呑み込まれ、空を埋め尽くす黒い塵芥へと粉砕された!


人肉の焦げる悪臭に満ちた帝都広場は、この一太刀によって、凄惨な空白の焦土へと強引に耕し尽くされたのだ。


そして、この終末の津波の真正面——。


ルシアの華奢で頼りなげな身体が、嵐のただ中にぽつんと直立していた。


白皙の、血に汚れた小貌には、何の動揺の色もない。吹き荒れる暴風が、汗と雨に濡れた前髪を激しく後ろへと引きちぎり、その墨緑の瞳には、天を覆い尽くさんとして迫り来る万丈の黒壁が映し出されていた。


彼女には、疾うに予見できていた。


これこそが、帝国の大宗師が極限に追い詰められたとき、矜持を焼き尽くして放つ終焉の一撃。通常の錬金障壁など、このような全方位の概念的消滅の前には、一瞬たりとも耐えられはしない。


パリン。


冷徹で、決然とした破砕音が、彼女の震える左手首の周囲に響いた。


それが、最後の蒼藍の魔力備蓄水晶。


水晶が青白い光の塵となって弾け飛ぶのと同時に、ルシアは錆と雨の混じる大気を深く吸い込み、五指を開いて、体内の全神経回路を極限まで酷使した——


魔法術式——【多重位相偏折被膜】!


それは通常の硬質な盾などではない。ルシアの奥の手の中で、一度きりの攻撃を確実に防ぎ切る、揺るぎなき絶対の防御。


蝉の羽の如く薄く、シャボン玉のような極彩色の虹光を帯びた光膜が、音もなく虚空から広がり、ルシアと傷だらけの刻刻を包み込んだ。


光膜の表面では、無数の微小な幾何学的多面体が次元を超越した法則で高速に重なり合っている。それは「空間の位相」を現実から強引に剥離させる偏折の理。


次の瞬間、黒き魔力の津波が轟然と押し寄せ、その儚げな七色の光膜を完全に呑み込んだ!


ドォォォォォォン————!!!


広場全体が激しく揺動し、無数の土石と荒れ狂う黒波が左右へと激しく分流していく。


だが、城をも切り裂くその剣圧がどれほど猛り狂おうと、微光を放つその薄膜は、まるで現世の外側に独立した神跡の如く、あらゆる運動エネルギー、衝撃、そして破壊の魔力を、決して届かぬ次元の狭間へと受け流し、偏折させ続けた!


黒潮が咆哮を上げて通り過ぎ、天地が激震する。


そして、果てなき漆黒の破滅の激流の中、満身創痍の少女は翼折れた機械梟を抱き、七色の微光の庇護のもと、剣気の根元に佇む血塗れの揺らぐ影を、冷ややかに見据えていた。


黒い魔力の津波は広場を耕すように蹂躙し、暴虐な轟鳴と天地の激震が世界を引き裂いていく。


しかし、その圧倒的な黒き怒涛がルシアの被膜を叩き、広場を絶海の如く呑み込んでいたその刹那——


巨槍に胸を貫かれ、長剣を振り下ろした姿勢のままのビクターの心臓が、唐突に跳ねた。


おかしい。


決定的に、何かが狂っている。


それは正面から押し寄せる魔力の波動でも、大気の流れによる風圧でもない。極めて唐突で、極めて冷酷な、どこか異様で不条理なまでの殺意。


無数の死線を越え、直感を野獣の如く研ぎ澄ませてきた大宗師にのみ、轟音と黒潮の狭間で辛うじて捉えることのできる、微かな死線。


だが……あり得ない。


ビクターの眼光が深まり、研ぎ澄まされた思考が狂おしく状況を推論する。


ルシアは確かに眼前、あの黒い奔流の中心にいる。己が全霊を込めた終焉の剣によって、【多重位相偏折被膜】の内側に圧し込められているはずなのだ。


呼吸すら引き裂かれる絶対の重圧の下、立つことすらおぼつかないあの女が、一体どこから、いかにしてこの致命的な殺気を放っているというのか?


疑念が脳裏をかすめたのは、わずか一瞬。


ビクターは極めて重い動作で視線を巡らせ、黒い血に塗れた眼角の端で、右手の崩落した焦黒の岩壁の陰を硬直しながら見遣った。


その一瞥であった。


これまで彼を捉えて離さず、解けずにいたすべての謎が、その刹那に崩壊して組み直され、不条理でありながら冷酷な一つの絵図を完成させたのだ。


雨水と血泥に塗れた瓦礫の片隅に、小さな影が蹲っていた。


——それは、猫であった。


くびれなど微塵も見当たらぬほどに丸々とし、短足で肉付きのいい太った猫。


だが、その身体に柔らかな毛並みなど一本も存在しない。四肢も胴体も、精巧に噛み合う古びた黄銅、時を刻む精密な歯車、そして冷たい光沢を放つ白磁の装甲によって組み上げられた精密機構であった。


僅かに震える金属の耳も、ゼンマイのように揺れる尾も、極めて見覚えのある工芸美学を宿している。


刻刻を一度でも目にした者であれば、誰もが確信を持って断言できるはずだ——


この異様な機械の太っちょ猫は、あの傷だらけの機械梟・刻刻と、間違いなく同一人物の手によって、同じ錬金の魂をもって鍛造された奇跡の造物であると!


(……そうか……!)


(そういうことだったのか、ルシア……!)


ビクターの深淵の瞳が激しく収縮し、脳裏に怒涛の衝撃が吹き荒れた。


彼はついに、あの致命的な盲点へと辿り着いた——ルシアと刻刻の間に漂う、通常の使魔契約を逸脱した異様な同調性の正体に!


ルシアは「双回路の体質」を持つ。


だがこの世界において、誰もが誤認していたのだ。彼女は一方の回路を異界の錬金術に充て、もう一方の回路を伝統的な魔法の構築に用いているのだと。


大いなる誤謬だ


ルシアは最初から、自らの魂と回路を分割していたのだ——彼女は自身の【錬金回路】を具現化し、黄銅と歯車、白磁装甲と機械を骨肉として独立した生命と意識を与え、刻刻という機械の使魔へと仕立て上げた。


刻刻は単なるペットなどではない。刻刻こそがルシアの錬金術の化身であり、彼女の「第二の肉体」そのものなのだ!


ならば……錬金回路が刻刻となったのであれば。


ルシア本来の【魔力回路】は、一体何処へ消えたというのか?


その答えは、死角に潜むこの機械の太っちょ猫によって、あまりにも無慈悲な形で眼前に突きつけられていた。


この愛嬌すら漂わせる太った猫こそが、ルシアの【魔力回路】の真なる実体!


それは刻刻と対を成し、一方は魔法、一方は錬金として、ルシアの深奥に眠る完全なる魂の配列を形作っていたのだ。


ルシアの複雑な魔力備蓄を宿し、彼女と寸分違わぬ魂の神経を巡らせている——すなわち、ルシアの手によって生み出された殺戮兵器を、この太っちょ猫もまた、己の手足の如く完璧に操ることができるのだ!


ビクターの凍りついた瞳の中で、その短足の機械の太っちょ猫は、極めて人間味を帯びた冷徹な佇まいで、自らの丸っこい胴体ほどもある塗装されたロケットランチャーをしっかりと担ぎ上げていた。


丸々とした金属の肉球が使魔特化用の発射器を支え、側面にある、短い猫の爪でも届く漆黒の引き金が、迷いなく限界まで引き絞られた。


ズドォォン——!


灼熱の橙白の噴射炎が太っちょ猫の背後から狂暴に吹き荒れ、雨水を瞬時に蒸発させて白い真空の波紋を描き出す。


極限まで特化され、破壊の運動エネルギーと破甲弾頭を宿した錬金ロケット弾が、ビクターの視界が最も防ぎ得ぬ、感知が最も希薄となる九十度の絶対の死角から、咆哮を上げて撃ち放たれた!


時が、この瞬間に静止したかのようであった。


豪雨は中空に留まり、魔力の津波の轟音は遥か遠くの背景へと退いた。


胸に突き刺さる巨槍、右手に握られた長劍、身動きの取れぬ肉体、そして間近に迫り、空気を引き裂きながら高速回転する赤紅の弾頭……。


ビクターの落ち窪んだ瞳に、その致命の造物が映り込み、世界はこの刹那、果てしなく冷たい静寂へと沈んでいった。

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